聖女の末裔ですが、年下王子と義兄騎士が離してくれません…!(※世はIT社会)

甘糖めぐる

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【8―独り、それから三人】前編

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 二階建ての小さなアパート。夜、二人の家に帰ってきたばかりのユリウスは、最低限の荷物を持ってまた玄関に立っていた。
 出発する前に、スマホでフランツへ連絡を入れる。
「――ええ、魔法の処遇の件で、城まで呼び出されていて。明日は帰って来られないと思います」
 そばで見守るアリシアは、彼よりも多くのことを知っていた。
(まだ、よその王女様から求められてるってこと、教えられてないんだ……。もしかしたら、そのままお城に留め置かれて帰って来ないかもしれない)
 けれど、引き留めることはできなかった。今まで好き勝手にしてきたのだ、粛々と受け入れるしかない。
 通話を終えたユリウスが、優しくこちらを振り返る。
「それじゃあ、行ってくるね。明日の夜は風が強いみたいだから、無理せず誰かに送ってもらうんだよ」
「――はい。いってらっしゃい」
 微笑みあって、彼は扉を開ける。
 それが静かに閉まったあと、アリシアは、しばらく手狭な玄関で壁に寄りかかっていた。

 落ち葉が風で転がる朝。三人だけの事務室で、フランツが簡易的なミーティングをする。
「えー、今日は、ミレーヌはいつも通り色んなところを飛び回ってるので帰ってきません。で、ユリウスがお休みなので、クロードに代打お願いします!」
「ああ。でも、もうあいつに仕事振らなくていいんじゃないのか」
「いや帰ってくるかもしれないじゃーん! 面倒だろうけど、直帰していいからさぁ~ヨロシクね!」
 肩をすくめたクロードが、立てかけていた剣を手に取りながらアリシアを見やる。
「今日、帰りはフランツに送ってもらえよ。嫌だったら俺に連絡していいから」
「え、あ、うん――。や、嫌じゃないです、嫌じゃないです」
 悲しそうな顔をするフランツに首をふるふると振ってから、アリシアはクロードを見送った。
 最後に、フランツが両手をぱんと合わせる。
「それじゃ、僕たちはいつも通りってことで! 今夜、魔法の処遇について閣議決定されるみたいだけど、存続する前提で動いていきましょう!」

 いつも通りに病院での仕事を終え、事務室でパソコンに向かう昼下がり。席にいたフランツがふと伸びをする。
「うーん、平和だねぇ。そろそろ休憩にしよっか」
「あっ、はい――」
 アリシアが振り向くと同時に、フランツのスマホが鳴り響く。
「ちょっと待ってね~うわぁ、本部長だ。はい、フランツ・ブラウンで――えぇっ、本部にぃ!?」
 しばらく話した後、フランツはバタバタとカバンに物を詰め込みだす。
「ゴメンね、呼び出されちゃった! 帰りはクロード呼んでくれる!? あとこれの処理と、戸締まりもお願い!」
「わ、わかりました」
 書類の束と、建物のカギを渡される。
「ありがと! じゃあ行ってきまーす!」
 慌ただしくフランツが駆けて行って、アリシアは一人、事務室に取り残されてしまった。

 マニュアルを見ながら、引き継いだ慣れない仕事をなんとか進める。窓の外がすっかり暗くなった頃、アリシアは一度キーボードを叩く手を止めた。
(……そういえば。国会中継があるって言ってたな)
 スマホで動画配信のページを開いて、デスクの上に置く。画面の向こうでは、よく知らない人たちが魔法の存続について話し合っている最中だった。
 仕事をしながら耳を傾けるが、この先どうなってしまうのか気になって手元にあまり集中できない。
『魔法がないと、解決できない問題が山のようにあります』
 誰かが言った。
 それに反論する声もある。
『しかし、神聖樹から遠い国は魔法に頼らず発展を遂げています。不便であっても、魔法がなければ立ち行かないということはない。逆に、未曾有の大規模事故が起こった場合は都市が消滅する可能性すらあるのが魔法です』
『ひとつよろしいでしょうか! 太古の昔から存在している精霊は、魔力をエネルギー源にしていると聞きます。神聖樹の除去、あるいは完全な管理下に置いた場合、精霊の絶滅が考えられますが自然界への影響が無いと言い切れますか?』
『むしろ好影響なのではないでしょうか! 昔は聖女と呼ばれる人々が契約を交わしていたそうですが、人知を超えた存在が力を持つのは危険です!』
『それは段階的に実験を――』
 議論が進む。昔からあらゆる場所で何度も繰り返されてきた議題だが、いよいよ今夜、一次措置を決定をすると世界に示しているらしかった。
(……このまま。このまま、何事もなく続けば……)
 胸が騒いで、大きく息を吐く。

 長い、長い、話し合いの末――議長が、取り決めの内容を宣言した。
『それでは、』
 中継画面に、目を奪われる。
『近日中に、魔法障壁によるを行います』
(っ……それじゃあ、もう、この支部は)
 胸が詰まる。自分で進退を決めることもできないまま、終わってしまった。
『後に、魔素が放出されないことによる問題が確認できなければ、世界情勢を鑑みつつ除去に踏み切るということで――』
 画面から離れて、アリシアは背もたれに体を預けた。天井を仰ぎ見て、気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと息を吐き出す。
(そっか……。これでもうユリウスは、あの王女様と一緒になって……。私とクロードが、魔力供給することもなくなるんだ……)
 寂しい。全身が。微かに痺れて、世界がぼんやりと遠くなるみたいだった。
 もうユリウスの隣にいられないし、彼と愛し合った手前、魔力供給抜きでクロードと触れ合うなんて都合の良いことはできない。言い訳を失った今、一途でいられない自分を許せない。
(……仕事しよう。最初の目的通り、身の丈にあった活躍をしないと)
 猶予期間モラトリアムの終わりを迎えて、彼女は再び自立のために目前の作業に向き合うことにした。
 しかし、なんだか、体がぞくぞくとする。
(……? なんだろう、これ)
 寒い――いや、熱い?
 寂しい。体が。耐えられないほどに。
 自分を掻き抱いても治まらない。目眩までしてきて、アリシアは助けを呼ぼうとスマホに手を伸ばした。
 しかし、指先に力が入らない。体が熱くて動けない。
(っ……ああ、誰か――)
 そのまま、彼女は床へと崩れ落ちた。

   ◇ ◇ ◇

 扉が勢いよく開く音で、意識が浮上する。
 床――本当に床だろうか。体の下は柔らかかった。何もつかめなかったはずの右手は、大きな手に握られていた。聞き馴染みのある声――クロードが、声量を抑えて誰かを怒っている。
「おい、もうちょっと静かに入って来れないのか……!」
 それに対して、これまた不満げにささやくのはユリウスだ。
「そ、そっちが早く風呂に入って来いって言ったんだろう……! そもそも、清浄魔法を使ったのになんの意味が」
「気分の問題だよ、こっちはお前が触るだけで嫌なんだ」
「それはこっちの台詞――」
(……また、喧嘩してる?)
 状況が飲み込めないけれど、なんだかほっとした。
 アリシアは、いつの間にかベッドの上で、クロードに上半身を抱え起こされる姿勢で手を握ってもらっている。まだ、体は熱い。
 ぼんやりと目を開けると、ズボンのベルトも締めず、素肌にシャツを羽織っただけのユリウスがのぞき込んできた。
「あっ、気がついた……!?」
「……? えっ、と……」
「きみに会いたくて早めに帰ってきたんだよ。そしたら、家にいないし、様子を見に来たら倒れていて」
 そうだっただろうか。記憶が判然としない。
 クロードが険しい顔でユリウスを見やる。
「こいつが馬鹿みたいに魔力注ぐから依存症になってるんだろ。とにかく、その禁断症状がなくなるまで――場合によっては、覚悟しとけよ」
 一体、何を。わからないまま、クロードに口づけられる。
 隣で、ユリウスの切ない声がした。
 クロードが深く手を組み合わせる。舌を滑り込ませる。やわらかく濡れた繋がりが心地よくて、アリシアは時間の感覚もなくなるほど夢中でそれに応えた。
 ふと、唇を離される。
「ぁ……っ」
 まだ足りない。
 ねだるために伸ばした手を、ユリウスが横からつかんだ。
「アリシア……っ。ごめんね、もう少し我慢して」
 彼は、瞳をうっすらと潤ませていた。
 クロードがアリシアを座らせて、背を自分の胸につけ、ユリウスの方へと向かせる。彼の奥に見えた夜の窓には、雨が伝い落ちていた。ここは、三階にあったあの仮眠室だ。
 優しくも、苦々しさの混じるつぶやきが頭上から聞こえる。
「もう、俺の魔力だけじゃ駄目そうだな」
 それから、ユリウスが、向かい合うアリシアの右手を握る。その真剣な眼差しに見惚れていると、彼は長い金のまつげを伏せて、そっと彼女へと口づけた。
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