大好きだけどお別れしましょう〈完結〉

ヘルベ

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「はぁ~~~」

 ダメね。すぐに顔がにやけるわ。
 仕事しながらふと手を止めてカイルの事を思い出してしまう。

 そうよ。
 ああいう恋人同士の空気が理想だったの。

 つい顔が見たくて仕事帰りに寄っちゃったり、まだ話してたくて引き留めたり、お店のテーブルの下で向かい合って座ってるのに手え繋いじゃったり…。

 あぁー…幸せ。
 ちょっといきなりカイルが変わり過ぎてびっくりだけど…。

「ご機嫌だな。にやにやし過ぎだぞイーリィ」
「あら、あたしのご機嫌笑顔はお嫌い?」
「お前の笑顔は好きだが今にも失敗しそうな程浮ついてるのを見るのは苦手だ」
「手厳しいわね…」

 ホルスト君の忠告でちょっと頭が冷えた。
 作業場で浮かれてるのは確かに危ないわね。気を付けないと。

「おいイーリィ、宝石店に荷物は持って行ったのか」
「あ、すみません親方!今持って行きます!」
「期限があるって言っておいただろ。責任が持てねえならお前にはもう任せねえぞ」
「すみません!」

 早速やらかしたあたしに、ホルスト君がほらみろと言わんばかりに溜息を吐いている。
 あたしは慌てて納品書と親方の仕上げてくれた宝石の台座になるリングを梱包した。
 
 親方が古い知り合いの頼みで初めて作った銀製のリング。
 生活用品しか作って来なかった親方が何日も四苦八苦して製作していたのを知っているのに、あたしの馬鹿…。

 慌てて鞄に品物を詰め宝石店に走る。
 後ろから横転注意!ってホルスト君の声が聞こえたので早歩きに切り替えた。
 もし転びでもして品物が傷ついたらそれこそ終わりだ。

 王都でも1・2を争う商売激戦区の通りを抜け、奥まった所にある宝石店に到着する。

 厳かな木造建築。全体的に薄暗く、宝石店と言うよりは酒場のような雰囲気だが、ちゃんと宝石の並んだショーケースが置いてある。
 ドアを開けるとベルの音が大きく鳴り、すぐそこに立っていた従業員さんが笑顔で近付いて来た。

「いらっしゃいませ。今日はどういった御用で?」

 お前みたいな小汚い娘が宝石を?という感じで上から下まで眺められ、品物でその値踏み視線を遮る。
 宝石買うなら作業着で来る訳ないでしょ、失礼ね。

「アンゲルス鍛冶店の者でイーリィと言います。ご依頼の品をお持ちしました」
「ああ、店長が頼んでいた……では、私がお渡ししておきましょう」
「お願いします、あの、失礼ですがお名前を伺っても?」
「…僕のですか?なぜ?」
「え、いえ、どなたに渡したのか親方に伝えておこうかと」
「……そうですか。ベルトラムと申します」

 渋々自己紹介をするベルトラムにどうも嫌な予感がして、品物を返して貰おうと手を伸ばしたらさっと背に隠された。

「あの!やっぱりそれ、店長に直に渡したいんですけど」
「失礼ですが、汚れたままの格好で店内をうろつかれるのは困ります。当店に来るお客様はそういったことに敏感な方が多いので」
「ちょっと待って!」

 ベルトラムは敢えて見下すような姿勢であたしを見ながらそのまま店外へ押し出した。
 鍛冶店の使いの者を名乗った手前店の前で騒いで悪目立ちする訳にもいかず、控えめにノックしても反応が無いのを確認して、諦めて帰ることにした。

(ずいぶん態度の悪い店員を雇ってるのね)

 まあ宝石店やドレス店なんかは貴族の相手をすることも多く、プライドが高い人が多い。
 なんなら貴族が経営してる店もあるので、こういう対応をされた経験は実は初めてではない。

 しかしながら、どうにも相手の態度が引っかかる。

 目端に付いた違和感は、まあいいかと見逃すと時に酷い失敗となって返ってくることがある。

「…帰ってから親方に相談してみようかしら」

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