12 / 23
12
しおりを挟む
「はぁ~~~」
ダメね。すぐに顔がにやけるわ。
仕事しながらふと手を止めてカイルの事を思い出してしまう。
そうよ。
ああいう恋人同士の空気が理想だったの。
つい顔が見たくて仕事帰りに寄っちゃったり、まだ話してたくて引き留めたり、お店のテーブルの下で向かい合って座ってるのに手え繋いじゃったり…。
あぁー…幸せ。
ちょっといきなりカイルが変わり過ぎてびっくりだけど…。
「ご機嫌だな。にやにやし過ぎだぞイーリィ」
「あら、あたしのご機嫌笑顔はお嫌い?」
「お前の笑顔は好きだが今にも失敗しそうな程浮ついてるのを見るのは苦手だ」
「手厳しいわね…」
ホルスト君の忠告でちょっと頭が冷えた。
作業場で浮かれてるのは確かに危ないわね。気を付けないと。
「おいイーリィ、宝石店に荷物は持って行ったのか」
「あ、すみません親方!今持って行きます!」
「期限があるって言っておいただろ。責任が持てねえならお前にはもう任せねえぞ」
「すみません!」
早速やらかしたあたしに、ホルスト君がほらみろと言わんばかりに溜息を吐いている。
あたしは慌てて納品書と親方の仕上げてくれた宝石の台座になるリングを梱包した。
親方が古い知り合いの頼みで初めて作った銀製のリング。
生活用品しか作って来なかった親方が何日も四苦八苦して製作していたのを知っているのに、あたしの馬鹿…。
慌てて鞄に品物を詰め宝石店に走る。
後ろから横転注意!ってホルスト君の声が聞こえたので早歩きに切り替えた。
もし転びでもして品物が傷ついたらそれこそ終わりだ。
王都でも1・2を争う商売激戦区の通りを抜け、奥まった所にある宝石店に到着する。
厳かな木造建築。全体的に薄暗く、宝石店と言うよりは酒場のような雰囲気だが、ちゃんと宝石の並んだショーケースが置いてある。
ドアを開けるとベルの音が大きく鳴り、すぐそこに立っていた従業員さんが笑顔で近付いて来た。
「いらっしゃいませ。今日はどういった御用で?」
お前みたいな小汚い娘が宝石を?という感じで上から下まで眺められ、品物でその値踏み視線を遮る。
宝石買うなら作業着で来る訳ないでしょ、失礼ね。
「アンゲルス鍛冶店の者でイーリィと言います。ご依頼の品をお持ちしました」
「ああ、店長が頼んでいた……では、私がお渡ししておきましょう」
「お願いします、あの、失礼ですがお名前を伺っても?」
「…僕のですか?なぜ?」
「え、いえ、どなたに渡したのか親方に伝えておこうかと」
「……そうですか。ベルトラムと申します」
渋々自己紹介をするベルトラムにどうも嫌な予感がして、品物を返して貰おうと手を伸ばしたらさっと背に隠された。
「あの!やっぱりそれ、店長に直に渡したいんですけど」
「失礼ですが、汚れたままの格好で店内をうろつかれるのは困ります。当店に来るお客様はそういったことに敏感な方が多いので」
「ちょっと待って!」
ベルトラムは敢えて見下すような姿勢であたしを見ながらそのまま店外へ押し出した。
鍛冶店の使いの者を名乗った手前店の前で騒いで悪目立ちする訳にもいかず、控えめにノックしても反応が無いのを確認して、諦めて帰ることにした。
(ずいぶん態度の悪い店員を雇ってるのね)
まあ宝石店やドレス店なんかは貴族の相手をすることも多く、プライドが高い人が多い。
なんなら貴族が経営してる店もあるので、こういう対応をされた経験は実は初めてではない。
しかしながら、どうにも相手の態度が引っかかる。
目端に付いた違和感は、まあいいかと見逃すと時に酷い失敗となって返ってくることがある。
「…帰ってから親方に相談してみようかしら」
ダメね。すぐに顔がにやけるわ。
仕事しながらふと手を止めてカイルの事を思い出してしまう。
そうよ。
ああいう恋人同士の空気が理想だったの。
つい顔が見たくて仕事帰りに寄っちゃったり、まだ話してたくて引き留めたり、お店のテーブルの下で向かい合って座ってるのに手え繋いじゃったり…。
あぁー…幸せ。
ちょっといきなりカイルが変わり過ぎてびっくりだけど…。
「ご機嫌だな。にやにやし過ぎだぞイーリィ」
「あら、あたしのご機嫌笑顔はお嫌い?」
「お前の笑顔は好きだが今にも失敗しそうな程浮ついてるのを見るのは苦手だ」
「手厳しいわね…」
ホルスト君の忠告でちょっと頭が冷えた。
作業場で浮かれてるのは確かに危ないわね。気を付けないと。
「おいイーリィ、宝石店に荷物は持って行ったのか」
「あ、すみません親方!今持って行きます!」
「期限があるって言っておいただろ。責任が持てねえならお前にはもう任せねえぞ」
「すみません!」
早速やらかしたあたしに、ホルスト君がほらみろと言わんばかりに溜息を吐いている。
あたしは慌てて納品書と親方の仕上げてくれた宝石の台座になるリングを梱包した。
親方が古い知り合いの頼みで初めて作った銀製のリング。
生活用品しか作って来なかった親方が何日も四苦八苦して製作していたのを知っているのに、あたしの馬鹿…。
慌てて鞄に品物を詰め宝石店に走る。
後ろから横転注意!ってホルスト君の声が聞こえたので早歩きに切り替えた。
もし転びでもして品物が傷ついたらそれこそ終わりだ。
王都でも1・2を争う商売激戦区の通りを抜け、奥まった所にある宝石店に到着する。
厳かな木造建築。全体的に薄暗く、宝石店と言うよりは酒場のような雰囲気だが、ちゃんと宝石の並んだショーケースが置いてある。
ドアを開けるとベルの音が大きく鳴り、すぐそこに立っていた従業員さんが笑顔で近付いて来た。
「いらっしゃいませ。今日はどういった御用で?」
お前みたいな小汚い娘が宝石を?という感じで上から下まで眺められ、品物でその値踏み視線を遮る。
宝石買うなら作業着で来る訳ないでしょ、失礼ね。
「アンゲルス鍛冶店の者でイーリィと言います。ご依頼の品をお持ちしました」
「ああ、店長が頼んでいた……では、私がお渡ししておきましょう」
「お願いします、あの、失礼ですがお名前を伺っても?」
「…僕のですか?なぜ?」
「え、いえ、どなたに渡したのか親方に伝えておこうかと」
「……そうですか。ベルトラムと申します」
渋々自己紹介をするベルトラムにどうも嫌な予感がして、品物を返して貰おうと手を伸ばしたらさっと背に隠された。
「あの!やっぱりそれ、店長に直に渡したいんですけど」
「失礼ですが、汚れたままの格好で店内をうろつかれるのは困ります。当店に来るお客様はそういったことに敏感な方が多いので」
「ちょっと待って!」
ベルトラムは敢えて見下すような姿勢であたしを見ながらそのまま店外へ押し出した。
鍛冶店の使いの者を名乗った手前店の前で騒いで悪目立ちする訳にもいかず、控えめにノックしても反応が無いのを確認して、諦めて帰ることにした。
(ずいぶん態度の悪い店員を雇ってるのね)
まあ宝石店やドレス店なんかは貴族の相手をすることも多く、プライドが高い人が多い。
なんなら貴族が経営してる店もあるので、こういう対応をされた経験は実は初めてではない。
しかしながら、どうにも相手の態度が引っかかる。
目端に付いた違和感は、まあいいかと見逃すと時に酷い失敗となって返ってくることがある。
「…帰ってから親方に相談してみようかしら」
528
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる