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3、また間違えた
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あの茶会、あなたが好きで、あなたのために勉強したんですと告白したあの日から、アヒムの態度は一層冷たくなった。
月一のお茶会で、今まではアヒムが興味を持っていることを話してくれていたのに、今は黙って二時間が過ぎるのを待つだけになった。
私が話しかければ最低限の相槌は返してくれるが、視線も合わずただ返事をくれるだけ。
軽蔑されてしまったという悲しみに打ちひしがれ、私は何度かアヒムが居ない時にアヒムの家であるアトキン家を訪ねた。
アトキンご夫妻に助言を貰おうと思っての事だ。
「まぁ…あの子がそんなことを…ごめんなさいね」
アトキン伯爵との面会は叶わなかったが、夫人とはお話しすることが叶った。
しかし相談に対して、夫人は困ったように首を傾げるばかり。
「旦那様に似たのかしらね。あの人も仕事人間でなかなか屋敷に帰って来ないのよ。けど仕事一筋で真面目だから愛人も作らないし作る時間が勿体ないって崇高な考えをお持ちなの。おかげで私たちは不自由なく暮らせているわ。だからね、テレーゼちゃん。あの子のよき理解者になって支えて上げて」
貰った助言は、改善案ではなく妥協案だ。
なんとか頷いてみせて、気持ちの整理がつかないままふらりと席を立った。
夫人が見送ってくれている中で帰宅し、その後はぼうっと呆けて過ごした。
勉強への姿勢を否定されて、何も手に付かなくなってしまったのだ。
気分転換に外の空気を吸おうと窓を開けると、ひそひそと声がした。
「閨教育って…男の人ってそんなものがあるの?」
「男の人って言うか、貴族の男性よね。子作りは重要だからどうしても必要になるんじゃないかしら。あたしの旦那もその教育を受けたのかと思うと複雑だけど…」
「まぁ、言われてみればそうよねえ。いざ子供を作ろうって時に男側が何もわからないじゃ話にならないし」
閨、子作りという単語にどく、どく、と心臓が嫌な音を立て始める。
「アトキン子息、そろそろ閨教育があるんですってね」
「ええ。テレーゼ様には絶対内緒にしないと…あの方、アトキンご子息に夢中だから、きっと気に病んでしまわれるわ」
「そうでなくてもあの年頃ってそっち方面には潔癖だしね」
気付かれないようにそっと窓を閉め浅い呼吸を何度か繰り返した後、私は無意識に屋敷を飛び出していた。
御者に泣いて頼み込み無理やり馬車を出して貰い、数時間前に伺ったばかりのアトキン家へ向かう。
泣きそうになりながら馬車に揺られ、祈るように両手を握っていた。
アトキン家に付くと、丁度アヒムの乗っている馬車が帰宅している所だった。
私は矢も楯もたまらず停車するために速度を落とした馬車から飛び降り、アヒムの乗っている馬車に駆け寄った。
「アヒム!アヒムお願い、出て来て!」
私が乗って来た馬車とアヒムの馬車の御者がどちらもぎょっとした顔でこちらを見ている。
しかしそれにも構わずわたしは馬車に近付き、アヒムの乗っている馬車の扉を必死で叩いた。
「一体何事ですか!?」
アヒムが慌てたように外に出て来た。
その顔を見て、ようやく少しほっとする。
「ああ、よかったアヒム!」
はしたないなどと考える余裕もなく、アヒムに抱き着く。
「どうしたんですか、なにか緊急事態ですか?」
両肩を掴まれ、優しく離される。
「アヒム、アヒムお願い…閨教育なんて受けないで!」
「はあ?」
「他の人と子作りの勉強なんて…そんなの嫌!私とでは駄目なの?婚約者は私でしょ?あなたが他の女の人に触れるなんて絶対嫌です!!」
顔を上げると、近くに呆気に取られたアヒムの顔があった。
暫く固まっていたアヒムだが、徐々に無表情になり私を突き放した。
その勢いに小さく悲鳴を上げたが、アヒムは振り返ることなく自分の乗って来た馬車に戻ろうとしていた。
「待ってアヒム!アトキン伯爵に相談しましょ?閨教育なんてそんなのっ」
追い縋ると、ぱんと風船が割れたような音の後に、左頬がじんわり熱く痛んだ。
――私、今アヒムに叩かれた?
「自分の感情も制御できない動物ですか。あなたのような人間が僕の婚約者だなんて…悪夢のようだ」
扉が閉まり、馬車が門をくぐってアトキン家に入っていく。
私はそれをただ見つめる事しかできなかった。
月一のお茶会で、今まではアヒムが興味を持っていることを話してくれていたのに、今は黙って二時間が過ぎるのを待つだけになった。
私が話しかければ最低限の相槌は返してくれるが、視線も合わずただ返事をくれるだけ。
軽蔑されてしまったという悲しみに打ちひしがれ、私は何度かアヒムが居ない時にアヒムの家であるアトキン家を訪ねた。
アトキンご夫妻に助言を貰おうと思っての事だ。
「まぁ…あの子がそんなことを…ごめんなさいね」
アトキン伯爵との面会は叶わなかったが、夫人とはお話しすることが叶った。
しかし相談に対して、夫人は困ったように首を傾げるばかり。
「旦那様に似たのかしらね。あの人も仕事人間でなかなか屋敷に帰って来ないのよ。けど仕事一筋で真面目だから愛人も作らないし作る時間が勿体ないって崇高な考えをお持ちなの。おかげで私たちは不自由なく暮らせているわ。だからね、テレーゼちゃん。あの子のよき理解者になって支えて上げて」
貰った助言は、改善案ではなく妥協案だ。
なんとか頷いてみせて、気持ちの整理がつかないままふらりと席を立った。
夫人が見送ってくれている中で帰宅し、その後はぼうっと呆けて過ごした。
勉強への姿勢を否定されて、何も手に付かなくなってしまったのだ。
気分転換に外の空気を吸おうと窓を開けると、ひそひそと声がした。
「閨教育って…男の人ってそんなものがあるの?」
「男の人って言うか、貴族の男性よね。子作りは重要だからどうしても必要になるんじゃないかしら。あたしの旦那もその教育を受けたのかと思うと複雑だけど…」
「まぁ、言われてみればそうよねえ。いざ子供を作ろうって時に男側が何もわからないじゃ話にならないし」
閨、子作りという単語にどく、どく、と心臓が嫌な音を立て始める。
「アトキン子息、そろそろ閨教育があるんですってね」
「ええ。テレーゼ様には絶対内緒にしないと…あの方、アトキンご子息に夢中だから、きっと気に病んでしまわれるわ」
「そうでなくてもあの年頃ってそっち方面には潔癖だしね」
気付かれないようにそっと窓を閉め浅い呼吸を何度か繰り返した後、私は無意識に屋敷を飛び出していた。
御者に泣いて頼み込み無理やり馬車を出して貰い、数時間前に伺ったばかりのアトキン家へ向かう。
泣きそうになりながら馬車に揺られ、祈るように両手を握っていた。
アトキン家に付くと、丁度アヒムの乗っている馬車が帰宅している所だった。
私は矢も楯もたまらず停車するために速度を落とした馬車から飛び降り、アヒムの乗っている馬車に駆け寄った。
「アヒム!アヒムお願い、出て来て!」
私が乗って来た馬車とアヒムの馬車の御者がどちらもぎょっとした顔でこちらを見ている。
しかしそれにも構わずわたしは馬車に近付き、アヒムの乗っている馬車の扉を必死で叩いた。
「一体何事ですか!?」
アヒムが慌てたように外に出て来た。
その顔を見て、ようやく少しほっとする。
「ああ、よかったアヒム!」
はしたないなどと考える余裕もなく、アヒムに抱き着く。
「どうしたんですか、なにか緊急事態ですか?」
両肩を掴まれ、優しく離される。
「アヒム、アヒムお願い…閨教育なんて受けないで!」
「はあ?」
「他の人と子作りの勉強なんて…そんなの嫌!私とでは駄目なの?婚約者は私でしょ?あなたが他の女の人に触れるなんて絶対嫌です!!」
顔を上げると、近くに呆気に取られたアヒムの顔があった。
暫く固まっていたアヒムだが、徐々に無表情になり私を突き放した。
その勢いに小さく悲鳴を上げたが、アヒムは振り返ることなく自分の乗って来た馬車に戻ろうとしていた。
「待ってアヒム!アトキン伯爵に相談しましょ?閨教育なんてそんなのっ」
追い縋ると、ぱんと風船が割れたような音の後に、左頬がじんわり熱く痛んだ。
――私、今アヒムに叩かれた?
「自分の感情も制御できない動物ですか。あなたのような人間が僕の婚約者だなんて…悪夢のようだ」
扉が閉まり、馬車が門をくぐってアトキン家に入っていく。
私はそれをただ見つめる事しかできなかった。
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