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2、最初の苦痛
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アヒムは効率的なものを好み、非効率的なものを嫌う。
一緒の外出は必要最低限の社交パーティくらいでしかして貰えず、茶会も月に一回に二時間。
それ以上は領地経営を学ぶ時間の妨げになると告げられれば、なるほど彼らしいと納得するしか無かった。
少しでも喜んで欲しくて手作りの菓子などを用意したが、
「菓子など従者に任せればいいでしょう。貴族のあなたが料理を覚えた所でなんの意味があるんです。下らない」
と一蹴された。
最近流行っている歌劇や舞台、小説の話も好きではないようで、
「所詮、あなたも娯楽で時間を無為にする下らない人間の一人ですか」
と軽蔑されてしまう。
それでも、月に一度アヒムと一緒に居られる時間は至福の時で。
少しでもアヒムにも私と一緒にいる時間を楽しいと思って欲しくて、アヒムが好む領地経営の計画や政治の話に付いて行けるよう必死で勉強した。
最初はアヒムが話しているのを曖昧に頷きながら聞くことしかできなかったが、アヒムが考えた計画の矛盾点や、政治思想への意見を返せるようになると驚かれた。
これであの笑顔を見せて貰えるんじゃないか。
私の胸は期待で高鳴った。
「驚いた。貴方、少し前までそこまで頭が良くありませんでしたよね」
明け透けな物言いも気にせず、私ははいと恥ずかしがりながら頷いた。
「アヒム様とちゃんとお話ができるようになりたくて…」
「……呆れた。私のためですって?」
「あの…は、はい…」
「貴方は僕の事が好きなのですか?」
直接的に聞かれ、言葉に詰まる。
数秒返事を待たせてしまい、無駄な時間が嫌いなアヒムが溜息を吐く。
私は慌ててそうですと肯定した。
「わ、私はアヒム様をお慕い申し上げております…」
「そういう重いの、やめて頂けますか」
「えっ……」
アヒムはまるで虫でも見るかのように目を細め、じっとこちらを見据える。
その視線に居た堪れず、私は顔を俯けた。
「愛だの恋だのと感情のままに騒がれては迷惑です。好きでいるのは勝手にすればいいですが、向上心ではなく男のために勉学に励むなどと……そのようなみっともない女性は願い下げです」
「みっともない…」
反射で繰り返してしまった、みっともないという言葉が胸に突き刺さる。
わ、私はアヒムの笑顔を見たい一心で…。
しかし、今しがたその思いはみっともないと切り捨てられた。
――確かに真面目に勉学に励む人たちと比べ、私の動機は不純かもしれない。
皆己の研鑽のために学んでいるというのに、私は…。
指摘されてからそこに気付き、羞恥でかっと顔が熱くなる。
「申し訳ございません…」
「別に私に謝ることではないでしょう」
冷たくあしらわれ、それからはずっと二人で時間になるまで無言のまま。
初めてアヒムとの時間を苦痛に思った日だった。
一緒の外出は必要最低限の社交パーティくらいでしかして貰えず、茶会も月に一回に二時間。
それ以上は領地経営を学ぶ時間の妨げになると告げられれば、なるほど彼らしいと納得するしか無かった。
少しでも喜んで欲しくて手作りの菓子などを用意したが、
「菓子など従者に任せればいいでしょう。貴族のあなたが料理を覚えた所でなんの意味があるんです。下らない」
と一蹴された。
最近流行っている歌劇や舞台、小説の話も好きではないようで、
「所詮、あなたも娯楽で時間を無為にする下らない人間の一人ですか」
と軽蔑されてしまう。
それでも、月に一度アヒムと一緒に居られる時間は至福の時で。
少しでもアヒムにも私と一緒にいる時間を楽しいと思って欲しくて、アヒムが好む領地経営の計画や政治の話に付いて行けるよう必死で勉強した。
最初はアヒムが話しているのを曖昧に頷きながら聞くことしかできなかったが、アヒムが考えた計画の矛盾点や、政治思想への意見を返せるようになると驚かれた。
これであの笑顔を見せて貰えるんじゃないか。
私の胸は期待で高鳴った。
「驚いた。貴方、少し前までそこまで頭が良くありませんでしたよね」
明け透けな物言いも気にせず、私ははいと恥ずかしがりながら頷いた。
「アヒム様とちゃんとお話ができるようになりたくて…」
「……呆れた。私のためですって?」
「あの…は、はい…」
「貴方は僕の事が好きなのですか?」
直接的に聞かれ、言葉に詰まる。
数秒返事を待たせてしまい、無駄な時間が嫌いなアヒムが溜息を吐く。
私は慌ててそうですと肯定した。
「わ、私はアヒム様をお慕い申し上げております…」
「そういう重いの、やめて頂けますか」
「えっ……」
アヒムはまるで虫でも見るかのように目を細め、じっとこちらを見据える。
その視線に居た堪れず、私は顔を俯けた。
「愛だの恋だのと感情のままに騒がれては迷惑です。好きでいるのは勝手にすればいいですが、向上心ではなく男のために勉学に励むなどと……そのようなみっともない女性は願い下げです」
「みっともない…」
反射で繰り返してしまった、みっともないという言葉が胸に突き刺さる。
わ、私はアヒムの笑顔を見たい一心で…。
しかし、今しがたその思いはみっともないと切り捨てられた。
――確かに真面目に勉学に励む人たちと比べ、私の動機は不純かもしれない。
皆己の研鑽のために学んでいるというのに、私は…。
指摘されてからそこに気付き、羞恥でかっと顔が熱くなる。
「申し訳ございません…」
「別に私に謝ることではないでしょう」
冷たくあしらわれ、それからはずっと二人で時間になるまで無言のまま。
初めてアヒムとの時間を苦痛に思った日だった。
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