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第58話『信用を失墜させた勇者、身の程を知らない』
しおりを挟む【勇者side】
「どうなってるんだ! 勇者だってのに、カケルを追放してから全くと言っていい程、敵に勝てなくなったじゃないか」
勇者パーティのリーダーを務める俺様、智治は、最近の活躍の不調に悩んでいる。今まで、簡単に倒せていたジャイアントオークや、アンデットにすら手を焼いていて、受けるクエストをことごとく失敗させていたからだ。
俺様達にとって使えない無能だと思っていたカケルは、もしかしたら本当は、必要な奴だったのではないのかと考えてしまう程に、切羽詰まっている状況だった。
「だめだよ、今更戻って来いなんて言ったら、カケル君怒っちゃうよ?」
「綾香は黙って俺様に従ってればいいんだ。カケルがあのイフリートを倒したんだぞ? あの無能がどんな手品を使ったか知らないが、カケルは、まがいなりにも勇者なんだ。俺様達と組む義務がある!」
エルムーアという田舎臭い街で、魔人イフリートの討伐に成功したとの噂を聞いた俺様達は、カケルを再度仲間として引き入れる為に、転送魔法陣を使い現地におもむくことにした。
結果としては、見事に返り討ちにされてしまい、ギルド酒場で大恥をかかされてしまう。パーティに戻って来いと俺様がわざわざ言ってやったのに、カケルはそれを否定したんだ。
ふざけた野郎だよな。言うことを聞かないなら実力行使するしかないと、カケルの仲間を追い払う為に、槍の勇者、一樹が手を出した瞬間、ギルドの外へぶっ飛ばされたんだから。
あの無能だったカケルが、あり得ないぐらい強くなってたんだ。魔王を相手してるんじゃないかって程の邪気を放ち、たった一撃で、仮にも勇者である一樹を戦闘不能にされたことが衝撃的過ぎて恐怖すら抱いてしまう。
この一件により、俺様のパーティは、実力と信用を失墜してしまった。
「はぁ、あなた方では魔王軍幹部を倒せないのでは? 最近、実績がないようですけど……」
「ずべこべ言わず案内しろ! 俺様達は勇者だぞ? 倒せるに決まってるだろうが!」
ギルドの受付嬢アクアに止められるも、魔王軍幹部討伐のクエストを受けてダンジョンに俺様達は潜入したがまるで歯が立たなかったんだ。パーティ崩壊寸前状態だったよ。
カケルとまたまた遭遇して、助けられてしまうなんて俺様のプライドが許せなかった。そして、いつの間にか魔王軍幹部、首狩りの王を討伐したらしい。
このクエストの失敗以降、俺様達のパーティは一ヶ月の間、高難易度のクエストをペナルティとしてギルドから斡旋して貰えなくなった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうしても手柄が必要だ! 何かクエストは無いのか?」
「有るには有るのですが……」
ペナルティも解けて、クエストを受ける事が出来るようになった俺様達のパーティは、失墜した信用を取り戻す為に、名声を取り戻せるようなクエストを斡旋して貰おうとギルドに足を運ばせていた。
このまま、追放したカケルに負けっぱなしでは気が済まない。何とかゴネてみるが、実力不足だということで、高難易度クエストを案内して貰え無かったが、何とかクエストを紹介して貰える事に成功する。
難易度C級【魔導列車への乗車】
「何だこれは? 簡単過ぎるじゃないか。勇者である俺様達を舐めてんのかよ」
「そんなことはありませんよ。難易度こそ易しいですが、楽ではないと上から伺ってます。あまり良い噂も無いですからね。こちらで良ければ即刻、受理しますよ?」
「へぇ、難しいってならやってやろうじゃないか! こんな楽そうなクエストは、なかなか無いからな。秒で終わらせてやるよ」
今に見てろよ、このクエストをクリアして無能なカケルに現実を分からせないといけない。唯一、嫌がっていたヒーラーの綾香を無理矢理連れて行き、俺様達は魔導列車に乗車することを決めた。
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