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第57話『呪いの勇者は、盾の女神の恋を叶える』
しおりを挟む「うぁーん!! カケルさんが死んだー!!」
「勝手に殺すな! 生きてるわボケェ!!」
一日中寝ていたらしい。早とちりされて、葬式を開かれそうなぐらい、皆様は悲しみに暮れていました。起きて早々、ドヤされるのかと思ったが、この仕打ちは酷すぎるじゃねぇかよ。
みんな泣きじゃくりやがって、ご覧の通り元気ピンピンなんだけども……。今まで以上に壮絶な戦いだったしな。てか。なんで俺は生きてるんだ? まさか、諸刃の剣に生かされた?
まさかな。こいつは、俺から言わせればただの呪いだ。俺を常日頃から悩ませて、時にこいつ無しでは生きていけない、そんな鎖に縛られている二度と手放せない枷なんだ。
みんなの落ち着きを取り戻し、ある違和感を俺は感じていた。誰かがいないんだ、そう誰かが……。
「おい、女神様はどうした?」
「カケル様、それが……」
「何を勿体ぶってんだよアリア! どこにいるんだよ、拝堂か?」
「カケル、女神様はもう今日までしか保たないよ。やっぱり神殿への攻撃が効いたみたい」
「……マジかよ」
まだ約束を護れねぇじゃねぇか。死なせねぇ、ゼッテー死なせねぇ。みんなを連れて、女神様が眠る神殿まで俺達は急ぐことにした。
神殿に着くと寝室で、キツそうに横たわる女神がそこにいた。今にでも消滅しそうな程、透明化が進んでいて存在そのものが無くなりそうだ。
女神様の元へ辿り着いたって、俺達に出来ることなんか何もねぇよな。今日までしか存在を保てねぇってのに、一体俺はどうしたらいいって言うんだよ。
「そんな辛そうな顔をしないで、勇者カケル様。元々、私は長く無かったのだからこれでいいのよ……」
「いい訳ないでしょ! やり残したことあるでしょ!? 恋がしたかったんでしょ!? それを約束したのに俺達は……」
「違います。カケル様は、全てを叶えてくれたんですよ」
叶えたってどういう事なんだ? 心配かけたくなくて、お世辞でも言ってるんだろうか。俺達に気負いして欲しくなくってそんな妄言を吐いているとしか思えなかった。
「私は人間が好きです。時折見せる美しさや醜さ、その全てが大好きなんです。だから私は、この世界を必死に護り抜いて来ました。貴方達はそのお手本となる存在です。次の神には、カケル様達がなればいいとすら思います。願いが叶ったって言いましたよね。やはり私の目に狂いはありませんでした。私、カケル様を愛しています。だから、私の夢は叶ったんですよ?」
「ーー俺ですか!?」
「不服でしたか?」
「いや、光栄なことだよ」
この女神は、本当は最初っから決めてたんだろう。俺に恋をしてみたいと。だからわざわざ、俺の屋敷に張り付いたり、俺のことについて、アリアドネから熱心に勉強してたんだろうな。今の今まで、気づかなかったぜ。
もう時間がないことぐらい分かってる。精一杯の返事をしてやりたいけど、こんな時なんて言っていいのやらサッパリだ。
考え過ぎて、まともな言葉なんか出てこない。ありのままの全てを盾の女神アテネに語ることにした。
「カケル様が大好きになってしまいました。みんなと居る時間が楽しかった。寿命なんて来なければいいと何度思ったか……。こんなの初めてですよ。皆様は、私の宝物です。最後に私の願い、もう一つだけ聞いてくれますか?」
「……勿論だ」
「もし、生まれ変わることが出来たなら、その時はまた、カケル様を愛してもいいでしょうか。何万年も先の話しになってしまうでしょうけど、何年経とうと、私はまた、貴方に恋をしたい」
「……いいんですか女神様。俺は本気にしちゃうぜ? 勿論、何年経っても構わねぇ。来世で会った時、そん時には、盾の女神アテネ様と、俺も恋をしてみたい」
「約束、ですよ……? 勇者カケル様……」
そんな言葉を残して、盾の女神アテネは存在ごと消えて無くなり、まるで最初から居なかったみたい静かな空間だけが広がっていた。そして、神を失った神域は崩壊を始めている。
避難しなければ、俺達も存在ごと消されかねん。ごめんな女神様、ロクなことしてないし、こんな形で無くしっかりと恋をさせてやりたかったんだ。
でも、あの満足そうな顔を見れただけ充分だろう。今回は、誰も女神様とのイチャつきに口を挟まなかったのは、みんなも同じ気持ちになってたんだろう。
ーー、この願いは、来世で必ず果たすから。
♦︎♦︎♦︎♦︎
転送魔法陣に乗り、自宅である屋敷に無事帰還した。帰還したんだけど、当たり前のようにして、アクアがウチの屋敷でのんびりと寛いでいることに殺意が芽生える。
こちとら死ぬ思いで見事無事帰還したってのに、しかも人の家でぐうたらしてたのかと思うと、とてつもなくムカつくが今回だけは水に流すことにした。
「あら、皆さん帰還おめでとうございます。そして事件です。聖堂教会が激怒してますよ」
「まぁ、してるだろうな。そんなこたぁ、どうだっていいんだよ」
「聖堂教会が激怒している件は、とりあえず保留にしておきます。女神様はどうなったのですか?」
「……来世であったら恋をしようと約束して来たよ」
「そう……。でしたか……」
あんまり乗り気じゃ無かったアクアでさえ、悲しい顔をするんだなと正直意外だった。しんみりすんのも、女神様はきっと望んでないよな。だったら、皆んなで女神様の話しを笑ってしようじゃないか。
純粋だったところ、涙脆いところ、人間を誰よりも愛していたところ、そして、恋をしようと約束したこと。
エリクシアやマリエル、アリアドネにブレッドで盾の女神アテネ様の可愛いかったところを夜通し語り合う事にした。
「あの、私も聞いていいかしら? 聖堂教会を抑えるに夢中過ぎて全然力になれなかったけど……」
「あぁ、アクアに教えてやるぜ。忘れてはならない、人間を誰よりも愛した、盾の女神アテネ様のこれまでの軌跡をよ」
ーー今度は、いつ会えるんだろうな。
ーー時が来たら、馬鹿みたいな話しをしてやりたい。
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