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容疑者Xの名犯人

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 貴崎 小次郎は、私に真摯に向き合ってくれた。

 なぜ、こんなにも協力的なのか、事件の真相を追求しているのか理由は分からないけど、私を尊重してくれる優しさと厳しさに、心を打たれてしまったのです。

 『俺は負けてばかりの人生だった』

 この言葉に、どれだけの重さや悲しさ、挫折と後悔があったのだろう。

 きっと辛かったはずだ。

 それでも、小次郎は私に『負けて帰って来たんじゃ無いんだろ!!』と胸を張って言葉にする。

 そんな優しさに私は、涙が溢れてしまった。

 「助けてよ、小次郎……」

 「当たり前だよ、栗山さん。 必ず、俺が救ってみせるさ。おや? 令嬢言葉はどうしたのかな? キャラ変か?」

 「茶化さないでください! あなたこそ、本当はジャーナリストでは無いんじゃなくって?」

 「よく分かったね! 本元は、探偵をしていたんだ。 政治家汚職を追ってたら叩きつぶられちゃってね!」

 「あなた、運があまり良くないのではなくて?」

 「栗山さんほどではないよ」

 冗談を飛ばし合い談笑が進む中、小次郎は話しを本題に戻すみたいに少し大人しくなった。

 「栗山さんがいた世界には、名犯人がいたみたいだね」

 「名……  犯人?」

 「そう、名犯人。 栗山さんを破滅フラグに引きずり込み、殺人を企てた者が必ずいる。 まずは、そのキャラを探し出さなくてはいけないね!」

 黒幕の存在に、名犯人、それが単身での犯行だったのか、複数の犯行だったのか、今となっては証拠も無く検討もつかない。

 「怪しい実物は、居なかったのかい?」

 「怪しいとかそんなことは、ありませんでしたわ。 どちらかというと、わたくしは、悪役令嬢ですのよ? 逆恨みされても文句は言われない立場ですわ」

 「悪役令嬢も大変なんだね……   参ったな、全員が容疑者じないか、ますます分からないよ!」
 
 「でも、一番に睨んでいるのは農民の娘ですわ! あの小娘は、私の推しに色仕掛けをしていましたの。 絶対に許せませんわ!」

 「私情が入ってるじゃないか! 恐らく農民の娘は白だよ!」

 「だってムカつくのですもの!」

 「はいはい、分かりましたよ。 調べればいいんだろ? 時間かかるからな?」

 あれから夜が明けるまで、小次郎はパソコンにかじりついていた。

 この日を境に私は、少しだけ小次郎を意識し始めてしまっている。

 こんなやる気の無さそうな顔した、髭ヅラのおっさんにだ。

 でも、そんなことは私だけが知っていればいい。

 彼の純粋な笑顔を、私だけが一人じめしていたいと心底考えてしまうのだから。



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