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第二章

027「唐沢利樹の現在」

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 俺の名は唐沢利樹。

 16歳。都内の高校に通う1年生。

 別に『異世界転生トラック』に轢かれることもなければ、『名前を書いたら死ぬノート』を持っているわけでもなく、ましてや四次元ポケット搭載のネコ型ロボットなど家に常駐しているわけでもない⋯⋯マジでどこにでもいるごくフツーな高校一年生⋯⋯それが俺、唐沢利樹である。

 そんな、モブキャラにも夢はある。それは『探索者シーカー』になることだ。

 ここは『異世界』ではないが『ダンジョン』という異世界でもゲームでもお馴染みの『謎の構造物』の出現により、人は『魔法』や『スキル』といった『まさに厨二病の夢が詰まった力』を手に入れることができるようになった。

 だが、その『力』を掴める者は『一握りの者たち』でしかないが、でも『可能性』だけで見れば全人類にその可能性は平等にあると言える⋯⋯⋯⋯と自分に言い聞かせている。

 俺は物心ついた頃には漫画やアニメ・ゲームにハマり、粛々と厨二病をこじらせた。そして、そのタイミングで『ダンジョン』という存在を知った俺は、厨二病拗らせ患者なら誰しも一度は通る道⋯⋯『探索者シーカーになること』を、俺もご多忙に漏れず夢見るようになった。



——高校入学

 時は流れ、高校に入学した俺は入学式を終えるとその足ですぐに探索者シーカーギルド『インフィニティ日本本部』へと向かった。もちろん『探索者シーカー資格試験』を受けるためだ。

 期待を胸に資格講座を受け、試験に臨んだがしかし結果は⋯⋯不合格。魔法とスキルを獲得することはできなかった。

 ちなみに俺のような探索者シーカーになりたい奴は非常に多く、10代・20代の『なりたい職業ランキング』では堂々の10年連続1位を獲得するなど若者たちの憧れの職業筆頭となっている。

 まー、ダンジョンが現れてから人間の細胞に『魔力』と呼ばれる『ファンタジー御用達エネルギー』が生成されることがわかり、さらに、その魔力は魔法やスキルのエネルギー源となることがわかると、

「俺たちでも異世界みたいに魔法やスキルが使えるってことじゃねーか、ヒャッハー!」

 と、皆が発狂するように喜んだがは定かではないが、そのダンジョン出現は全人類に希望を与えた。

 そのため、ダンジョン探索を生業とする『探索者シーカー』という職業が脚光を浴びるようになり、気づけばあれよあれよと若者の『なりたい職業No.1』へと君臨した。

 そんな、大人気職業である『探索者シーカー』の資格講座と試験に入学式の後、俺のようにその足で受験しにきた奴らは大勢いた。⋯⋯ていうか、一年生のほとんどが受けにきたんじゃないかと思うほどの数だった。

 しかし、そんな人数が受験しても資格試験に合格した奴は『たったの一人』だった。


 そいつの名は⋯⋯⋯⋯竜ヶ崎真司。


 奴は別格だった。

 資格講座2日目の実践講習で一度教えられただけで、すぐに魔法とスキルを獲得し、探索者シーカー試験を合格した。⋯⋯まさに『天才』だ。

 奴とは中学のときから一緒だが直接の関わりはないが、俺は奴が性格がねじ曲がっていることはよーく知っている。だから、あまり関わりたくない人物だ。

 まーそんなわけで、資格試験に早々に落ちたわけだが、しかし、探索者シーカー資格試験は何度でもチャレンジができる。だから俺は何度でも挑戦して絶対に高校生の間に合格して『高校生探索者シーカー』になるつもりだ。

 高校生探索者シーカーは数が少ない。⋯⋯というのも、探索者シーカーになるための条件である『魔法とスキルの獲得』が『人生経験が豊富なほうが獲得しやすい』という話があって、それで高校生とか10代の学生では獲得が難しいと言われているからだ。

 ただ、その説は『定説』ってわけじゃない。あくまで『仮説』に過ぎない。実際、少ないとはいえ『高校生探索者シーカー』はいるんだから。だから可能性はゼロじゃない、ゼロじゃないんだ!

 魔法やスキル獲得に『近道』とか『コツ』があるのかはわからないけど、少なくとも探索者シーカーになってすぐに行動できるよう、俺は今のうちから探索者シーカーになってすぐに動けるよう体を鍛えている。

 今から夏休みの間まで鍛えてあげて、二学期開始したら俺はもう一度資格試験に臨むつもりだ。

 そんなこんなで一学期が終わり夏休みに入ると、俺は次の資格試験に臨むべく体を鍛え準備し、そして二学期を迎えた。そんな時に⋯⋯⋯⋯あいつと出会ったんだ。


『新屋敷ソラ』


 一学期の頃、そいつのことは知らなかった。

 ていうか、今振り返ると「何かいつも寝てばっかりの奴がいるな」程度の認識だった。

 そんな奴が、二学期始まって早々——あの高校生モデルで有名で『胡桃沢星蘭』に声をかけたのだ。

 胡桃沢星蘭は『大人気JKモデル』として活躍していて学校ではもちろん有名人だ。

 俺も胡桃沢とは話がしたい。ていうか、友達になりたい。ただ、その動機は胡桃沢星蘭本人だけではなく、そいつの父親である『胡桃沢勝己』のほうだ。

 ていうか、胡桃沢星蘭の父親である胡桃沢勝己のほうがモデルをやっている星蘭よりも有名だ。なんてったって、あの探索者シーカー専用具を製造販売する世界的グローバル企業『KZインダストリー』の社長だからな。しかも元B級探索者シーカーと一流の探索者シーカーだった。

 この胡桃沢星蘭の父親である胡桃沢勝己って人は、一代でこの会社をここまでの世界的大企業へと発展させた。すごい行動力で商才もあるし、何より『胆力』がある人だ。もしかすると、娘の星蘭もモデルで成功したのは親譲りの『胆力』によるものかもしれないな。

 ちなみに、星蘭がモデルで成功したのは親の力などではない。だって、星蘭がモデルで成功してだいぶ経ってから星蘭の父親が『胡桃沢勝己』だとわかったぐらいだからな。

 とにかく、娘の星蘭とお近づきになれれば父親とも会えるかもしれないからチャンスがあれば話しかけたい。⋯⋯のだが、奴は何と言うか、まあ、わかりやすくいうと男女構わず誰に対しても『高飛車』な感じでいつもツンケンした態度で非常に話しかけづらい。

 しかも、教室で友達と話しているのを見ると、本当の意味での友達というより「とりあえず学校生活で必要だから付き合っている」みたいな、何と言うかすごく冷めたい感じがした。

 あと、それと同時にすごく悲しそうにしているようにも感じた。



 とりあえず、俺は「高校生活三年間のうちチャンスがあれば勇気を出して話しかけよう!」と、だいぶやる気のない、諦めに似た宣言を心の中で宣誓している横でいきなり胡桃沢星蘭に声をかけた『バカ』が現れた。それが⋯⋯⋯⋯新屋敷ソラだった。

 これまで教室の誰とも話したことのない奴がいきなり胡桃沢に話しかけたんだぜ? あり得んだろっ?!

 とにかく、それを見て最初ショックを受けた俺だったが、すぐに『新屋敷ソラ』に興味が湧くと、胡桃沢との話が終わるタイミングを見計らってすぐにソラに話しかけた。

 最初、ソラは「なんで俺に声をかけたんだ?」みたいな感じでキョトンとしていた。

 普段、机に突っ伏して寝るようなあえて存在感を消すようなことを意識的にするような奴だからか、俺に声をかけられて結構驚いていた。

 俺がそいつに「お前、よくあの胡桃沢に話しかけたな! 尊敬するわ!」と話しかけると、そいつは「誰それ?」とまさかの反応。

 俺は「同い年で同じ学校で胡桃沢のこと知らないなんて⋯⋯マジかよっ?!」と思ったが、とりあえず、話の取っ掛かりとして胡桃沢のことを軽く説明した。⋯⋯そんなこんながきっかけで俺とソラは友達になった。

 しかも、しばらくするとあいつは俺のことを信用したのか自分が『探索者シーカー』であることを教えてくれた。

 それだけじゃない! ソラは他では聞いたことがないような力⋯⋯『恩寵ギフト』という能力のことも教えてくれた。

 そんな、ソラが俺のことをすごく信頼して行動で示してくれたことに感動した俺は「この『恩寵ギフト』という能力のことは黙っておいたほうがいい」と忠告しておいた。⋯⋯下手したら命を狙われるとか、そんな危険があるかもしれないからな。

 俺もこの話は誰にもしゃべらず墓場まで持っていく所存だ。



 そんな、ソラと出会ってしばらくすると、今度はあの胡桃沢星蘭が「仲間にしなさいよ!」と半ば強引に俺たちに近づいてきた。

 さっきも話したが、俺は胡桃沢の父親を尊敬しているし、ていうか普通に胡桃沢星蘭はとかタイプだし!

 ていうか、あんな美人でセクシーダイナマイトボディ⋯⋯誰だって好きだろっ?!

 とまあ、そんな感じで彼女ともソラを介して友達になった。

 あと、胡桃沢が「自分も探索者シーカーになりたい」と言ってきたので、現在、俺と胡桃沢は一緒に探索者シーカー合格に向けて頑張っている。

 ちなみに、俺と胡桃沢は二学期になってソラと出会った後、一度『探索者シーカー資格試験』を受けたが二人とも不合格だった。

 くやしいのはくやしいが、前とは違って今では一緒に頑張れる仲間もいるし、目標とする奴もすぐ近くにいる。ある意味、恵まれた環境と言えるだろう。

 俺はこの環境を最大限に活かして、絶対に『高校生探索者シーカー』になってやるぜ!



 そうして、唐沢はいつもの日課である『10キロ走』を始めた。
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