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第三章

102「パワー&パワー/第三試合『ゲオルグ・シェフチェンコVSジョー・ウェイン』」

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「さあ、どんどん行くよー! 続いて第三試合は⋯⋯⋯⋯ガサゴソ、ガサゴソ⋯⋯⋯⋯で、出たーーーっ!! 次もいきなりのやばい好カード! 世界ランキング3位! アメリカ本部ギルドマスター! 誰もが知ってる爽やか筋肉お化け! ジョー・ウェインーーーっ!!!!」

 ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!

「キターーーーーー!! ジョー・ウェイン、キタタタターーーっ!!!!」
「相変わらず、すげえ筋肉だな。おいっ!」
「アメリカの星! USA! USA!」
「ヘイ、ジョー! 今回こそ世界最強を奪い取ってくれぇぇ~~~っ!!!!」

「⋯⋯対するは! 世界ランキング1位! 現『世界最強』! ロシア本部ギルドマスター! こちらもジョー・ウェインと双璧をなす筋肉お化け!⋯⋯⋯⋯『皇帝カイザー』ゲオルグ・シェフチェンコーーーっ!!!!」

 ドワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!

「出たっ!! 因縁の対決!! ジョー・ウェインVSゲオルグ・シェフチェンコ!!」
「今年もこのカードがやってきたぞぉぉーーーっ!!!!」
皇帝カイザー! 皇帝カイザー! 皇帝カイザー!」
「やっちゃってください、ゲオルグの旦那ぁぁ~~っ!!!!」

 先ほどの女性探索者シーカー頂上対決も大いに盛り上がったが、この二人の対決はレヴィアス・アークシュルトを欠くものの、ほとんど『全探索者シーカー頂上決戦』のようなものなので、観客のボルテージはさらに高まっていた。

「ゲオルグ。今年の私は⋯⋯⋯⋯いつもとは違いますよ?」
「フフフ、ジョー。⋯⋯⋯⋯それ、去年も聞いたわ!」
「それでは、第三試合! はじめぇぇぇ~~~っ!!!!!」


 ドン!


 第三試合は、第一、第二試合とは打って変わって⋯⋯⋯⋯⋯⋯いきなり動いた。


「「どおおおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!!」」


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯っ!!!!


 いきなり、防御なしの殴りっ放しのぶつかりあい⋯⋯⋯⋯まさに肉弾戦と化した。

「(ごくり)こ、これが、世界第1位と第3位の戦い⋯⋯」
「す、すげぇぇ、迫力⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」

 胡桃沢、唐沢そしてソラも⋯⋯⋯⋯舞台の殴り合いに呆気に取られていた。

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」
「おおおおおおおおおおお~~~っ!!!!」

 ガシィィ!!

 今度は二人が互いの両手を掴み、相手の両腕をねじ伏せようと力自慢を始めた。

「よっしゃーーー!! いけぇぇーーシェフチェンコぉぉーーーっ!!!!」
「負けるなぁぁーー!! ジョーぉぉぉ!!!!」

 もはや、そこには魔法やスキルといった華やかなものは何一つなかった。

 拳と拳のぶつかりあい。

 飛び散る汗。

 熱狂する男性探索者シーカーとは裏腹に、女性探索者シーカー陣の悲鳴が聞こえる。

「きっも!」
「え? なんで? 何で殴り合い? バカなの? ねぇ、バカなの?」
「これだから、脳筋どもは⋯⋯」
「お願いだから、もう少しシュッとした戦い方をしてほしいのですが⋯⋯」
「動物園か、ここはっ!?」

 容赦ないな、君たち⋯⋯。

 世界最強と世界3位の試合なのだがねぇ⋯⋯。

 ちなみに、そんな女性探索者シーカー陣たちのお目当ては『レヴィアス・アークシュルト』だったのだが、第一試合でまさかの新人ルーキー『新屋敷ソラ』に一撃で倒されたことで機嫌も悪かったため、例年以上に言葉が辛辣だった。

 さて、そんなこぼれ話をしているうちに舞台のほうでは

「ぐっ⋯⋯うぐ⋯⋯」
「ふふふ⋯⋯どうした、ジョー? この程度かね?」

 力比べでゲオルグがジョーの腕を少しずつねじ伏せ始めていた。

「ぬ、ぬぅぅ~⋯⋯や、やはり、まだパワー不足でしたか。仕方ありません!」
「っ!?」

 そう言うと、ジョーがその場でピョンとジャンプをすると、

「おらぁぁぁっ!!」

 ドゴン!

 そのまま、ゲオルグの胸にドロップキックのようなものをお見舞いした。

「うぐっ?!」

 不意の攻撃ではあったため、ゲオルグが多少顔を歪めるが、特に大きなダメージではなかった。

 ゲオルグの手から外れたジョーが少し後ろへと下がる。

 バババババ⋯⋯!

 すると、突然、ジョーが『印』のようなものを刻んだ。そして、

「ちっ! 試合の制限時間は5分だからな。早速使うか⋯⋯」
「使わせてもらうよ、ゲオルグ!『倍加術マルチプリング』⋯⋯⋯⋯3倍っ!!」

 ドン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯っ!!!!

「ふぃぃぃぃ~~~~~⋯⋯」

 ジョーが、スキル『倍加術マルチプリング』を発動した瞬間——ジョーの体から青白い魔力がほとばしったあと、魔力の残滓がユラユラとジョーの体から湯気のように立ち昇っている。

「それじゃ、ゲオルグ⋯⋯⋯⋯⋯⋯第2ラウンドといこうか?」
「望むところだ」

 両者、再びぶつかり合う。

 ドドン⋯⋯!

 ガシィィィィィィィィィ~~~っ!!!!!

「っ?!」

 再びぶつかり合った二人は、両手を出してまた力比べを始める。しかし、さっきとは打って変わってすぐにジョーがゲオルグの腕をねじ伏せていく。

「ぬ、ぬぬぅぅ⋯⋯!」
「へ⋯⋯へへ⋯⋯。流石のゲオルグも『倍加術マルチプリング3倍』には力負け⋯⋯する⋯⋯ようだ⋯⋯な⋯⋯!」
「ふ、ふん⋯⋯。し、しかし、だいぶ顔色が悪い⋯⋯ようだが⋯⋯?『倍加術マルチプリング3倍』とも⋯⋯なる⋯⋯と、体の負担は⋯⋯それ相応じゃ⋯⋯ないか?」
「くっ!? よ、余計な⋯⋯お世話だ⋯⋯!!」

 力で押されているゲオルグではあったが、顔色が悪いのはむしろジョーのほうだった。

 ジョーの顔色が見る見る青色に染まり、尋常じゃない汗がこぼれ落ちている。

「さ、さすがに⋯⋯『倍加術マルチプリング3倍』は⋯⋯分が悪いな⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁっ!!」
「っ!?」

 ゲオルグがさっきのジョーと同じようにその場で飛んでドロップキックをお見舞いしようとしたが、ジョーはいち早く反応し、ゲオルグのキックを躱した。

「さて⋯⋯と。『倍加術マルチプリング』展開中のジョーであれば、力比べや殴り合いはもはや不要だな」
「ふん!『倍加術マルチプリング』は身体能力の倍加だけだけじゃ⋯⋯⋯⋯ないぜ!」

 そう言うと、ジョーは両腕をゲオルグに向けて突き出した。

「くらえっ!⋯⋯⋯⋯『豪爆破弾エクスプロッシブ・バレット』っ!!」

 ジョーの突き出した両手から『直径50センチほどの魔力弾』が無数に射出しゲオルグを襲う。

 ゲオルグは超スピードでの身のこなしでジョーの魔力弾を避けていく。その避けられた魔力弾が地面に当たったその瞬間——、


 ドォォォォォォォォォォォォォンンっ!!!!!

 ドォォォォォォォォォォォォォンンっ!!!!!

 ドォォォォォォォォォォォォォンンっ!!!!!

 次々と爆発していき、周囲に破片が飛び散る。

「キャァァーーーっ!!!!」
「うわぁぁぁっ!?」

 一応、舞台と観客側の間には物理・魔法による衝撃を吸収・遮断する『魔法障壁』が展開されているので破片が観客席に飛ぶことはないが、しかし、その『魔法障壁』にコンクリートの破片が飛び散るごとにガンガンガン⋯⋯と衝突音が鳴るので、守られているとはいえ不安や恐怖を感じてしまう。

 そして、その観客のリアクションこそ、それだけ、このジョーの放つ『魔力弾』の威力が高いと言うことを意味していた。



 舞台はモウモウと爆発後の煙に包まれていた。

「ふぅ~⋯⋯⋯⋯さ~て、ゲオルグにダメージは与えられたかな?」

 煙が徐々に晴れてくる。そして、

「あ~~~⋯⋯⋯⋯⋯⋯ですよねぇ」

 煙が晴れ、魔力弾でボロボロになった舞台には、無傷どころか衣服さえ汚れていないゲオルグ・シェフチェンコが立っていた。

「そりゃ⋯⋯ま~な」

 そんなピンピンしているゲオルグを見て、

「相変わらずのバケモンで何よりだよ⋯⋯!」

 と、呆れのような、嬉しさのような、複雑な感情の籠った笑みを浮かべた。

「タイムアップにより両者引き分け! 試合終了っ!!」



『第二試合 ゲオルグ・シェフチェンコVSジョー・ウェイン/タイムアウト引き分け』
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