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第四章
151「賢者《ワイズマン》の懸念(4)」
しおりを挟む「しかも⋯⋯竜ヶ崎真命は⋯⋯その竜ヶ崎真司のクローンを今回の臨床試験に必要ということで100体⋯⋯用意したっ!!!!」
「「「「なっ?!」」」」
竜ヶ崎真司のクローン?
それが⋯⋯100体?
正直、賢者の口から出る言葉は、まるで現実感に乏しかった。
竜ヶ崎真司のクローン? ていうか、竜ヶ崎って元々クローンだったのか?!
それに、その竜ヶ崎を使って臨床試験って⋯⋯それって、つまり人体実験ってことじゃないのか?!
実の父親なのに⋯⋯あ、いや、違う。息子は実の息子じゃなくてクローンなのか。でも、だからって、こんな非人道的なこと許されるわけがない!!
「竜ヶ崎真命は、竜ヶ崎真司のクローン100体に今回の実験中の魔力強化薬を投与した。そして、その結果、竜ヶ崎真司のクローン100体は皆、理性を失った・またはほとんど失った状態になり、関東A12で暴れているらしい」
「そ、そんな⋯⋯」
「不幸中の幸いではあるが、とりあえず、奴らはダンジョンからは出ていないので、現在、関東A12の入口は封鎖し、インフィニティ日本本部の者が彼らの監視と外に出ないよう防衛している状況だ」
「そ、そこまでの状況とは⋯⋯って、あれ? そういえば関東A12って、たしか⋯⋯唐沢と胡桃沢たちが⋯⋯」
「そうだ。現在、唐沢君と胡桃沢君は蓮二率いる『乾坤一擲』は関東A12で探索活動を行っている。以前は唐沢君と胡桃沢君の実力確認の目的だったが、現在では二人の腕は信用され、普通に関東A12の探索活動を行っている」
「唐沢と胡桃沢が⋯⋯そこまで蓮二さんの、あの『乾坤一擲』の探索者集団から信用されているなんて⋯⋯すごいな」
「うむ。正直、唐沢君と胡桃沢君は私の予想より遥かに実力があったことを思い知らされたよ」
「⋯⋯賢者」
賢者が手放しに二人のことを褒めるのを見て、何だか俺も嬉しくなった。
「さて、その唐沢君と胡桃沢君、そして蓮二君ら『乾坤一擲』は、実は今回の竜ヶ崎真司100体の暴走を止めるべく、関東A12に入っている」
「ええっ!?」
「今のところ、特に問題があるといった報告は受けていないので順調に対処しているはずだ。問題ない」
賢者は俺が心配げな顔をしたのを見たからか、励ますような言葉をかける。
「もちろん、非常事態なことがあれば連絡が入るし、その時は君たちにも応援を頼みたい」
「その時は⋯⋯行きますっ!!」
「私も問題ないです!」
「はい、大丈夫です!」
俺の返事の後から明凛とメイベルが続けて返事をする。
「ありがとう⋯⋯。さて、最初にも言ったが、現在『同時多発的』に問題が頻発していると言っただろ?」
「え? あ、ああ⋯⋯」
「うむ。そして、次の問題がある意味⋯⋯一番厄介な問題だ」
「「「⋯⋯え?」」」
********************
「竜ヶ崎真司のクローンの話よりも⋯⋯厄介な問題?」
「うむ」
「い、いやいや、竜ヶ崎のクローン問題ってかなり厄介じゃないか!? それ以上なことって一体⋯⋯」
「⋯⋯今まで見つかっていなかった『最後の転移者』が見つかった」
「なっ!?」
「「転移者っ!?」」
賢者の言葉に驚きの声を上げる。
「しかも、その最後の転移者がいる国は⋯⋯日本だ」
「えっ!⋯⋯日本にっ!?」
「だが、日本のどこにいるかまではわかっていないし、さらに言えば、これ以上の情報はない」
「「「ええっ?!」」」
「ら、『天罰』を使っても⋯⋯見つからないのか?」
「ああ、そうだ。今回、その転移者が見つかったきっかけは日本の東京付近で膨大な魔力の放出が検出されたからだ。しかし、その魔力放出はほんの一瞬で、すぐにその魔力は消え、それから消息を掴めないでいる。⋯⋯ちなみに、その魔力放出の検出は1週間前の話だ」
「ワ、賢者! そ、その、魔力放出は東京のどの付近だったのですか?」
「この周辺だ」
「「「っ!!!!」」」
「この近くに⋯⋯いる?」
「だが、それは1週間前の話だ。それにその転移者の性別や年齢、外見などは一切わからない⋯⋯」
「そう⋯⋯なんですね」
しばしの沈黙が流れる。
「一応、この辺一帯の捜査は『天罰』でも行っているが、できれば、君たちにはその捜索を行って欲しい」
「捜索⋯⋯って、どうやって?」
「⋯⋯もし、付近にいれば転移者同士で『認識』ができる」
「え? 認識?」
「直感⋯⋯みたいなものだが、しかし、確実にわかるものだ。うまく説明できないがそういうものなのだ」
「俺はそんなもの感じたことはないけど⋯⋯」
「ふむ。しかし、前回の我々転移者は皆それができた。だから、恐らくソラ君もできるはずだ」
「で、でも、直感⋯⋯って、そんなの曖昧なものじゃ⋯⋯」
「こればかりは実際に体験してみないとわからないし、言語化するとこんな感じになってしまう。ただし、その感覚は絶対的なものとして認識できる。だから、うまくいくかどうかはいいからまずは試しとしてやってもらいたい。どうだ?」
「⋯⋯」
正直、俺としては関東A12にすぐに向かいたいというのが本音だが⋯⋯。
「実は、まだ確証したことではないが、この最後の転移者が私にはどうも悪い予感がするんだよ」
「え? 悪い⋯⋯予感?」
「ああ。以前のときのような⋯⋯『転移者同士の殺し合い』みたいなことが起こりそうな⋯⋯そんな予感だ」
「『転移者同士の殺し合い』⋯⋯?!」
「あの時もそのきっかけは『ある特別な魔道具によるドーピング』の使用が発端だった。そして、今回はもしかすると⋯⋯」
「ま、まさかっ?! 関東A12の⋯⋯竜ヶ崎の強化魔力薬の⋯⋯!」
「そうだ。あくまでこれは私の憶測だが⋯⋯その最後の転移者と竜ヶ崎真司⋯⋯または竜ヶ崎真命が関わっている可能性が、もしかしてあるのではないかと⋯⋯な」
「そ、そんなことが⋯⋯で、でも⋯⋯」
「無い」⋯⋯とは言い切れない。
「これは、あくまで私の独断による結びつきの話だ。ただ、もしこの問題が結びついているのであれば⋯⋯事態は最悪の方向へと展開するだろう。それが⋯⋯」
「『転移者同士の殺し合い』⋯⋯」
「そうだ」
「⋯⋯」
いつもとは違う賢者の焦りを感じる。それだけ、この可能性を消したいという思いなのだろう。
「わかった。その最後の転移者探し⋯⋯やるよ」
「ありがとう。頼むぞ、ソラ君。そして、明凛、メイベルも頼む」
「はい、お任せください! 私たちも一緒にソラ君と一緒にその捜索を手伝います!」
「もちろんです! ソラだけだと仮に敵と出会した時、危ないもの。私たちがしっかりサポートいたしますわ」
「うむ。では、頼んだぞ、ソラ君、明凛、メイベル!」
「「「はい!!!」」」
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