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第二章 騎士学園編
072「予選トーナメント一回戦(1)」
しおりを挟む一回生クラス編成トーナメントは『学園長推薦シード』というクラリオン王国騎士学園始まって以来のシード枠というサプライズが発表され、会場のどよめきが冷めやらぬ中、開幕となった。
「いよいよ、始まったな。さて、舎弟はどうなっているのかな?」
俺は、舞台横にある一回生用の観覧席からトーナメント表の紙を広げた。
「ん? ガスやディーノ、カートは二回戦はシードなんだ?」
「ああ、そうだ」
「もちろん」
「上級貴族である入学当初のAクラスメンバーは皆シードだからな」
「そうなの?」
「当然だろ? そもそも上級貴族なんだから⋯⋯」
俺の横には、ガス、ディーノ、カートのAクラスメンバーが座り、いろいろと教えてくれた。
どうやら、入学当初にAクラスに配属された十名の上級貴族の生徒たちは、そもそもBクラスやCクラスにいる下級貴族や平民に比べると魔力が多い為、一回戦では試合にならないということで二回戦までシードとなっているらしい。
さらに、Aクラスの上級貴族の生徒たちはトーナメントの各ブロックごとに分けられているらしい。
「まあ、本選前に上級貴族の生徒がぶつかってしまうとAクラスの実力があっても本選に進めないってことになるからな」
「なるほど」
まあ、それはそうだな。
「そういえば、イグナスとザックは何試合目なんだろう?」
俺はトーナメント表で二人の試合はいつなのか確認しようとした。
「イグナスは第一試合で、ザックは第四試合だ」
「そうなんだ」
ガスが即答で二人の試合がいつなのか教えてくれる。
「まあ、Cクラスの生徒のほとんどが魔力コントロールができるようになったばかり奴らだから、まあ、二人の敵じゃないだろうな」
「そうですね。ただ、まあBクラスにどういう生徒がいるのかはわかりませんが、森の秘密特訓場で二人と模擬戦をした私の感想としましては⋯⋯Bクラスにも敵はいないでしょう」
「まあな。あいつら、カイト式魔力コントロールで相当魔力も増えたし、魔法威力も特訓以前とは比べ物にならないくらい上がったもんな」
ガスをはじめ、ディーノもカートもイグナスとザックの急激な成長に感心しながら話し込んでいる。
「特にイグナスは元々魔法センスが高かったので、この中で一番成長率が高かったと思います」
俺は三人のやりとりの中にイグナスの成長の高さを付け足した。
「そうですね。模擬戦とはいえ、私はイグナス・カスティーノには負け越してます。正面からの魔法対決で。相当、腕を上げています」
「俺なんか、特訓の後半ではほとんど勝てなかったつーの! 正直、ガス様が言っていた以上の逸材だったわ」
「うむ。昔から魔法センスがズバ抜けていたからな。正直、今、俺自身、本気でイグナスとやって勝てるかどうか⋯⋯わからん」
ガスは俺のイグナスの話に同意するだけでなく、三人ともがイグナスの成長に少しの危機感を口にした。
そう。今回の約二週間の特訓でイグナスはかなり強くなっていた。模擬戦を見ていた感じだと、ディーノとカートには二人が言うように、勝つことが多かった。ガスには模擬戦のときは勝てていなかったが、日を追うごとにその差は縮まっていった。ガスはその事を感じているからこそ「次、やったら勝てるかわからん」ということを呟いたのだろう。
いずれにしても、イグナスの試合が楽しみだ。
********************
「では、これより予選トーナメント一回戦第一試合を始めます!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」
予選トーナメント開始のアナウンスが流れると、観客から大きな声援が響いた。
「お! イグナスだ!」
イグナスが舞台に上がってくるのが見えた。
「で、対戦相手は⋯⋯と⋯⋯」
俺がイグナスの対戦相手が誰かをトーナメント表で確認しようとした時、
「あいつは! そうか⋯⋯Bクラスにはあいつがいたな」
「え? ガス、知っている人?」
「ん? ああ。あいつは⋯⋯」
ガスによると、イグナスの対戦相手というのは『子供教室』でイグナスを目の敵にしていた下級貴族とのこと。名前はマルーク・マキアート。
「下級貴族? イグナスは上級貴族なんだから問題ないんじゃないのか?」
「ああ⋯⋯なんつーの? その⋯⋯あいつはよー、言葉は敬語を使っているが真意は明らかにバカにしているみたいな⋯⋯そういう感じなんだよ」
「⋯⋯端的に言うと『イグナス様を見下している』ということです」
「ああ、なるほど」
ディーノの話によると、このマルーク・マキアートは一応、立場を弁えた言葉で接するが、『明らかにイグナスのこと、見下しているよね』というのが、周囲にはわかるくらいには嫌みを言ってくるらしい。
「もちろん、イグナスは最初マルークに突っかかったが、教師が『マルークはちゃんと礼儀を弁えている』『イグナスのほうこそ、もう少し冷静な対応をしろ』的なことを言われてよ。まー、このマルークはそういった振る舞いが巧妙な奴なんだ。俺もイグナスに会うために子供教室に行ったときにマルークに何度か絡むと、上手いようにやられてうんざりしてたからな」
「え? ガスも?」
「ああ。奴が絡むと、大抵相手はロクな目にあわない。だから、貴族が集まるパーティーとかでは上級貴族の子供はあいつのこと避けてたわ」
「へー」
なんだろう。それはそれで、このマルーク・マキアート、すごい頭が切れる奴なんだなと、俺は単純に感心した。
「ちなみに子供教室当時ではあるが、イグナスよりも魔力量が多くてな。俺とほぼ変わりないくらいだった」
「え?! ガスと同じくらい!」
「ああ。だが、もちろん、その後俺はさらに魔力量は増えたから、今じゃマルークとは比較にならないくらいには差がある。ただ、イグナスは上級貴族の中で魔力量が極端に少ないから、身分はイグナスが上だが、魔力量はマルークのほうが上だろう⋯⋯」
「ええ。Bクラスの中でAクラス入りの可能性がある生徒の一人ですからね⋯⋯」
「マ、マジかよ⋯⋯」
え? じゃあ、この試合、イグナスが負ける可能性があるってこと?
「「⋯⋯カイト式魔力コントロールを習得する前のイグナス(様)であればな(ね)」」
「え⋯⋯?」
「はっはっは! カイト、今のは二人の冗談だ。イグナスが負けるなんてことはねーよ」
「は?」
「いやー悪い、悪い。カートの言う通りだ」
「すみません。カイトの反応が楽しくて、ちょっとからかってしまいました」
そう言って、ガストディーノが笑いながら謝った。
「何だよ、二人とも。驚かさないでよー」
ゴッ! ガッ! ゴンッ!
「がっ!?」
「ぐっ!?」
「痛っ!? な、なんで、俺までぇぇぇ!!!!」
俺は周囲から『仲の良い友達同士がおちゃらける体』で、三人に『重めのゲンコツ』をお見舞いした。
え? カート? 連帯責任ということで。
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