「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

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第二章 騎士学園編

076「様々な思惑(2)」

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「どうだ、ゼノ?」
「⋯⋯」

 騎士団長アルフレッド・ヴェントレーは、隣で一緒にトーナメントを観覧している男に話しかける。男はしばらく考え、ゆっくりと返事をする。

「イグナス・カスティーノとザック・カーマイン⋯⋯」

 それだけ言うと『ゼノ』⋯⋯クラリオン王国騎士団進軍官『ゼノ・アマルフィ』は口をスッと閉じる。

「ああ、そうだな。あのザック・カーマインという生徒⋯⋯あれは下級貴族らしいが、あの身体強化ビルドの動きは只者じゃなかった。しかし、それよりもすごかったのがイグナス・カスティーノ君だ。聞いていた話では上級貴族にしては極端に魔力量が少ないと言われていたのだが、あんな強力な魔法を放てるとは⋯⋯一体、何が?」

 アルフレッドはイグナスの試合内容に特に注目していた。入学して間もない彼がどうしてあそこまで高い威力の魔法を打てるほどの魔力量を身につけたのか? そして、このイグナス・カスティーノの変化に『カイト・シュタイナーがまた絡んでいるのか』⋯⋯。そう考えるだけで、胃を痛くする。

動天世代アストロ・エイジ⋯⋯」
「うむ、そうだな。さすがは動天世代アストロ・エイジといったところか。それにしても⋯⋯」

 そう言って、アルフレッドは観覧席を見渡す。たかだが一回生のクラス編成トーナメントに、クラリオン王国の有名人・・・が多数観覧に来ている。

(学園長はこの大会で「動く」と言っていた。そして、この観覧に来ている豪華な顔ぶれを見るに⋯⋯もしかしたら学園長が観覧に来るよう情報を誘導したのか? 可能性はあるな)

 アルフレッドは一人、学園長の真意を考え込んでいた。

「とりあえず、いつでも動けるように準備をしておくか。ゼノ⋯⋯頼むぞ」
「⋯⋯はい」


********************


「ランドルフ様、いかがなさいました?」

 二メートル近い『左目に眼帯をした大男』に、これまた対照的な線の細いヒョロっとした老齢の執事が声を掛ける。

「⋯⋯カスティーノ家のガキが報告とずいぶん違うのではないか?」

 大男はもう一人、側にいる優男をギラリと睨みつける。

「ちょっと、ちょっとー! やめてよ、父上! 俺たちのせいじゃないからー!」

 大男に比べるとだいぶ細い線でいかにも軽そうな優男が、大男にこれまた軽いトーンで返事をする。

 二メートル近い身長で左目に眼帯をする大男⋯⋯彼こそ、ガスの父親にして、ジャガー財閥当主の『ランドルフ・ジャガー』。そして、その隣にいる優男はジャガー家嫡男にして、ジャガー財閥を実質的に動かしている男『エミリオ・ジャガー』。

「俺たちに八つ当たりしないでくれってな感じだよなー! なー、ガレット?」
「あ、ああ。そうだぜ、親父」

 エミリオが肩を回して仲良く話すのは、ガスと同じくらいの恵まれた体格の男⋯⋯ジャガー財閥次男『ガレット・ジャガー』。

「ふん。まあいい。とにかく、あのカスティーノ家のガキのこと、もう一度調べろ」
「はい、はーい!」
「ああ、わかった」

 ランドルフは息子の返事にムスっとした態度をしながら、腕を組んで考える。

(ハンニバルの奴⋯⋯この大会で何か・・やらかそうとしているのは間違いない。しかし、一体何を⋯⋯)

 ランドルフは眉間に深い皺を寄せて、舞台を見つめていた。


********************


「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「うん? 何がだ?」

 観覧席の片隅でボソッと呟くのは『三度笠を深く被るローブを纏う青年』。そして、その声をかけた人物もまた『三度笠とローブを纏った青年』。パッと見、各地を点々とする旅商人のような格好をしていた。

「ほ、本当に⋯⋯今日、ここにいることの許可・・を頂いているのでしょうか?」
「ああ、問題ない。むしろ、今日のこの大会が『この世界の大きなターニングポイント』となるだろう」
「それは⋯⋯⋯⋯『予言書』の言葉ですか?」
「さあ、どうだかな!」

 そう言って、男はニッと屈託のない笑顔を青年に向けた。

(絶対違う! 絶対違うよ! この人、また独断で動いているよ!)

「い、いや、すめらぎ様⋯⋯」
「しーーーっ! バカ! その名をここで出すな!」
「し、失礼しました!? え、えーと、リュウ⋯⋯様?」
「おう! リュウだ!」
「リュウ様。と、とにかく、あまり、独断で動かないでくれませんでしょうか? 我々がこのクラリオン王国にいること自体、本当は危険なのですから!」
「大丈夫だって! ちゃんと学園長にも国王のラディットにも話つけてあるから。そうじゃなきゃ、ウキョウやあいつ・・・が、身分を隠して・・・・・・ここの生徒として振る舞えるわけないだろ?」
「そ、それはそうですが⋯⋯。それにしても様はお元気でしょうか?」
「まあ、あいつが自ら志願・・したんだ。うまくやってるさ。なーに⋯⋯あいつはあれ・・でも相当強い。あいつに勝てる同世代なんて他国でもいないんじゃないか?」

 そう言って、『リュウ』という男が「ふふん!」と自分のことのように誇りながら言葉を発する。

「まあ、たしかにそうですね。若様に勝てる同世代⋯⋯⋯⋯まず、あり得ないでしょうね」
「そういうことだ。だから、お前ももっと楽しめ、ウズマサ!」
「あなたは楽しみすぎです。もう少し、緊張感を持ってくださいませ」

 そんな、旅商人風情の二人がやいのやいの話していると、

 ゴーーーーン!

「はーい! それでは皆様、お待たせしました。これより、予選トーナメント三回戦が始まりますー! キャピキャピーン!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」」」」」

 休憩終了の銅鑼が鳴ると同時に、フェリシアがキャピっと三回戦の始まりをアナウンスすると、ガスやディーノ、カートといった一回戦シードのAクラス配属の上級貴族の生徒らが登場するということもあって、観客から大きな声援が上がった。

——『一回生クラス編成トーナメント』三回戦がはじまる
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