君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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今度は僕が寝取る

僕が君の未来を見せてあげる

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 食事を済ませて外に出ると、時刻は14時30分だった。
「とてもいい時間だったわ。泉君、ご馳走様でした。本当にありがとう」
「いえいえ、僕も一人じゃ入りづらいし、どれも美味しかったね」

 保坂さんは、ギャルソンに何度もお礼を言っていた。
 料理は、味といい見た目といい、非の打ちどころのない素晴らしい物だった。
 20歳の僕の舌では到底形容し切れないほど、感動した。

 さすがは三ツ星を取るレストランだ。

 驚くことに保坂さんは、料理に使われている珍しい野菜やハーブの名前を全部言い当て、ギャルソンを驚かせていた。
 僕も驚いた。
 よほど、野菜作りが好きなんだろうな。家は農家でもないのに農業大工に行くぐらいだから当たり前か。

「採れたての野菜は味も香りも濃くて、調味料なんてほんの少しでいいのよ」
「そういえば、ほとんど調味料の味を感じなかったね」
「そう。それなのに全然味が薄いなんて思わなったもの」
「素材の味が最高の調味料ってわけか。シェフも凄い人なんだろうな」

 そんな事を話しながら、目的のビルまで歩いた。

 エレベーターで4階に上がると、既にスタッフらしき女性が二人立っていてすぐにドアを開けてくれた。

「泉君! 久しぶり! お疲れ様」

 スタッフの一人が僕にそう声をかけてきた。

「幸田さん、お疲れ様」

 彼女は、専門学校時代の一つ上の先輩で、この衣装屋さんで働いている、ウェディング専門の美容師だ。
 彼女の計らいもあって、試着だけになるかもという冷やかしみたいな客を快く引き受けてくれたのだ。

「時間勘違いしちゃってたみたいで、ごめんなさいね」

「いや、全然問題ないよ。お陰で逆にいい時間を過ごせたよ」
 幸田さんは安心したように白い歯を見せた。

「そう、それならよかったわ。じゃあ、早速、ドレスを選びましょう」

「えっと、新郎様は、あちらでお待ちください」
 幸田さんは少し揶揄からかうようにそう言った。

「あ? え? あ、違う。僕はただの付き添いっていうか、仲介人っていうか、未届け人っていうか……。新郎じゃないんだ」

「なんだ、そうなの? てっきり結婚するのかと思っちゃった」

「いや、僕はまだまだ……」

 これから奪う予定ではある。

 別のスタッフに案内されて、ソファーに座ると「お飲み物をお持ちします」と丁寧に小さなイーゼルを見せてくれた。

「ありがとうございます。じゃあ、コーヒーで」

「かしこまりました」

 壁一面に設置されているのガラス張りクローゼットには、白いウェディングドレスがずらっと展示されている。

 立ち上がり、ガラス越しに眺めていると、一つ一つのドレスにタグが付いてるのが目に入った。

 数字が二つ並んでいて、レンタル料と買い取り料が表示されている。
 金額はピンキリだが、買い取りという選択肢もあるのか。
 そんな事を思いながら、ドレスを眺めていると「泉君」と保坂の声が聞こえた。

 振り返ると「うわぁぁぁあ」思わず声が出た。

 眩しいほどの光沢を放つドレスに包まれた彼女は文字通りお姫様みたいだ。
 チュールで装飾されたオフショルダーに、胸元には華憐な花が飾られていて、かわいらしい。

「よく似合ってる。きれいだよ」

 僕は慌ててポケットからスマホを取り出して、シャッターを切った。

 全体、アップ、角度を変えて。
 360度、全方向から彼女をスマホに収めた。

「他のも着てみたら? まだ時間はあるし」

 試着時間は1時間。
 1時間内なら何度でも試着する事ができる。

 しかし、ウェディングドレスは着るのに時間がかかるので精々2,3着にはなるのだろうけど。

「ううん。いいの。これがとても気に入ったから、もう十分満足よ」

「欲がないなぁ」

 幸田さんは「ヘッドドレスをお付けしますね」
 そう言って、簡易にまとめた保坂さんの頭に、華憐な色合いの花冠を手際よく装着していく。

「新婦様の雰囲気にとてもお似合いです」
 おでこの生え際を覆うように付けられた淡い色合いの花が、より一層、彼女のかわいらしさを引き立てた。


 一通り、写真を撮り終えて、保坂が着替えに入ると、幸田さんが僕のところへやってきてこう言った。

「新郎さんて、お友達?」

「え? ああ、そうだよ。中高の同級生で部活も一緒だった。どうして?」

 幸田さんは急に声をひそめて、僕の耳に口を寄せた。

「多分、彼女、DVを受けてるわ」

「は? 嘘だろう」

 この時代の伊藤は、彼女にメロメロだった。
 目の中に入れても痛くないだとか、彼女のためなら死ねるだとか言っていたはずだ。

「肩と腕のあざはファンデで隠したんだけど、背中や足にも。どうしたんですか? って訊ねたら、派手に転んじゃって、って言ってたんだけど、あれは転んでできるあざじゃない。転んだなら、手のひらや顔にも傷ができるはずでしょう? 服で隠れる部分だけあちこちにあざができるなんて不自然だわ。明らかに暴力を受けたあざよ」

 ふつふつと湧き上がる怒り。
 喉からせりあがる涙。
 ついさっき、きれいだと眺めた華奢な背中が網膜に浮かび上がり、僕の拳を震わせた。

「あいつ……ぶっ殺す!」

「ちょっと泉君。冷静になって。こういうのって、他人にはどうしようもできない事だったりするのよ。DVは受けている本人が逃げない限り、終わらないの」

 肩で呼吸をする僕の背中を、幸田さんがさすった。

 その時だ。

「お待たせー」
 来た時の服に着替えた保坂さんが、深刻な空気にはそぐわないほどの笑顔を携えて、個室から出てきた。

「お疲れ様でしたー」

 幸田さんも何事もなかった顔で、保坂さんにお辞儀をした。



 衣装屋を後にして、言葉数が多くなった保坂さんとは対照的に、僕は言葉が見つけられないまま駅に向かって歩いていた。

 薄いカーディガンで覆われた向こう側には、いくつもの痛手を負っているのかと思うと、彼女になんと声をかけたらいいのか分からなかった。

 しかし、未来は変えられるはずだ。
 変えなきゃいけない。
 僕には出来るはずだ。

「保坂さん。幸せ?」
 僕は意を決して彼女に話しかけた。

「もちろん、幸せよ」

「嘘だ」

「え?」

 彼女は、伊藤と結婚する理由を、明日が見えなくて不安だったからといった。
 未来がみえなくて……
 そう言って、瞳を陰らせた。

「僕が、君の明日を教えてあげるよ。君の未来を、僕が見せてあげる」

「え? 泉君……?」

「僕は10年先の未来からやってきた。10年後の僕なんだ」

「え? 何言ってるの?」

「僕は君の未来を知っている。でも、僕には変える事ができない。君が変えるんだ。君のガラクタのような未来を」

「どうして……?」

「伊藤は、君を幸せにできない。家族ぐるみで君の幸せを散々搾取した上、ボロきれみたいに捨てるんだ。
 君は人生に絶望して、自分で自分の命を……」

「やめて! そんなの嘘! どうしてそんな事言うの?」
 悲しそうに瞳を潤ませる。

 ダメか?
 やっぱり信じてもらえない。
 やっぱりそう簡単に未来は変えられないのか――。

 いや、諦めちゃダメだ。

「僕はいつでも君を助ける事ができる。だからこの先何年経っても、どこにいても、辛くなったら僕を頼って欲しいんだ。必ず君を守るから」

 その時、突然目の前の光景が歪んで、クロスフラッシュした。


 うわぁあああああああああーーーー。

 プツっと電源が落ちるように、目の前が真っ暗になった。
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