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過去は変えられる
そう簡単に未来は変えられない
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ピピピ、ピピピ……
頭上から鳴り響くスマホのアラームが、重い瞼をこじ開けさせる。
「んっ、んーーー」
唸りながら、スマホを手繰り寄せ、手探りでアラーム停止ボタンを押した。
渾身の力で片目を開けると、すぐ横に柔らかな長い髪が横たわっている。
「え?」
状況が把握できない。
眼前に持ち上げたスマホからうっかり手が滑り、顔面に落ちてきた。
ガツっと音を立てて、スマホが床に転がった。
「いってーーーーー」
しばし、眉間を抑えて身もだえる。
鼻血が出るかと思った。
その瞬間。
スッとクリアになった脳が体を弾いた。
飛び起きて、隣に寝ている女の顔を覗き込む。
「梨々花……」
妻、梨々花の顔を認識した瞬間、記憶が流れ込んで来た。
いや、上書きされたと言っていい。
床に転がったスマホを拾い上げる。
スクリーンに映し出された日付けは2024年3月20日。
戻ってる!
タイムリープする前に戻っているではないか。
しかし、全く同じではなく、家の雰囲気が全然違う。
ベッドの寝心地、着ているパジャマのブランド、部屋の広さ。
全てがグレードアップされている。
「なんじゃこりゃーーーーー!!!」
思わず叫んだ。
「んっ? んーーー???」
僕の声で、梨々花が目を覚ました。
「どうしたの? 大牙君。そんなに大きな声出してー」
僕は思わず片手で口を覆った。
あの日の朝だ!
あの日に戻って来たのだ。
「い、いや。なんでも、ない。変な、夢を、見て。いただけ……だと思う」
慌ててベッドを降りて、洗面台に向かった。
鏡の中には、あの時の僕。
きれいに整えた顎髭に、黒髪、白髪が数本。
なんで戻ったんだ?
クローゼットを開けて、パジャマを着替える。
服のセンスは変わってないが、スーツのグレードは上がっている。
まるで大企業の社長並だ。
着替えながら、どんどん上書きされていく記憶を整理する。
10年前。
保坂はやっぱり伊藤と結婚した。
あのウエディングドレスを着て……。
保坂にドレスをプレゼントしようと、僕が同級生に持ちかけてみんなで金を出し合い買い取ったのだ。
そして彼女は結婚式で、あのドレスを着る事ができた。
僕は式場の一番後ろで、その光景に満足して微笑んでいたんだ。
「何やってんだ? 俺!!!!!」
「どうしたの? 大牙君?」
スケスケのキャミソール姿の梨々花が、こちらを不思議そうに眺めている。
「いや、なんでもない」
梨々花の僕に対する態度が変わったのは、僕が以前より金持ちになったからだ。
未来の事を何でも知ってる僕は、あの時、新しいスマホで、伸びる企業の株を買いまくったのだ。
今や資産100億を超えている。
それでも、梨々花はやはり、伊藤とこそこそ連絡を取り合っている。
保坂とは、結婚式以来逢っていないし、連絡も取り合っていない。
完璧主義の彼女は、僕が彼女を特別な目で見ていることを知り、徹底的に僕をブロックした。
悲しいけど、それが今の現状だ。
着替え終わり、僕は、駐車場に例の物を取りに行く。
トランクを開けるとそこには――。
花束はなくて、ケーキの箱と、白い封筒。プレゼントはない。
封筒を開けると、離婚届が入っていた。
この日に照準を合わせて、僕は梨々花との離婚を目論んでいたのだ。
ケーキの箱を手に、部屋に戻ると、梨々花は既にバスルームでシャワーを浴びていた。
「出かけるの?」
フロストガラス越しにそう声をかけると
「うん。ノリちゃんたちと遊びに行くの。夜は遅くなるわ」
「そう」
結局、何も変わっていない。
僕は梨々花と結婚して、保坂は伊藤と結婚した。
いや、けど待て。
変わってなくもないぞ。
今僕が手にしてるのは、花束とティファニーじゃない。
ケーキと離婚届けだ。
そして、グレードアップされてる暮らし。
過去が変われば、未来は変わるんだ!
カチャっと音がして、梨々花がバスルームから出て来た。
雫を滴らせた体にバスタオルを巻いて、リビングに入って来た。
「誕生日、おめでとう」
僕は準備していた言葉を吐いた。
「ありがとう」
梨々花は寝室に置いてあるドレッサーに座り髪にドライヤーをかけている。
「結婚記念日だよな? ケーキ買って来てたんだ。一緒に食べようよ」
「朝からケーキ? 夜にするわ」
「いや、今だ。座れよ」
僕は梨々花からドライヤーを取り上げて、ダイニングテーブルの方に顎を突き出した。
梨々花は戸惑いながらもスツールから立ち上がった。
僕は箱からケーキを取りだして、25本のローソクに火を点ける。
「ザ・ケーキって感じね。白い生クリームにイチゴだけ?」
僕はぐっと我慢する。まだだ。
「出会った時から10年。長かったよな」
「そうね」
「出会った頃の君はまだ15歳で、生意気だったけど、かわいかった」
「ふふ」
「それから、君はモデルの世界で華やかに雑誌を飾って、18歳で僕の恋人になった」
「懐かしいわ」
「けど……その時にはもう、伊藤と不倫してたんだよな!」
「え?」
梨々花の顔色が変わった。
僕は全部知っている。
保坂は僕をブロックしたが、結婚式で知り合った保坂の妹、凛空と、ずっと連絡を取り合っていた。
僕は凛空に伊藤を見張るようお願いしていた。
凛空から全て伊藤と梨々花の不貞は知らされていて、この日をずっと待っていたんだ。
僕はローソクに火が灯るケーキを持ち上げ、そのまま梨々花に投げつけた。
「キャーー!!」
クリームに包まれて、火は消えたが、シャワーを浴びたばかりの梨々花の体は汚した。
狼狽える梨々花に、離婚届を、文字通り叩きつけた。
バンッ!!
テーブルの上に、手のひらがじんじんと疼くほどにね。
「離婚届けだ。僕のサインはもうしてある。慰謝料なんてものもいらない。今すぐ出て行け」
それだけ梨々花に告げると僕は急いで車に戻った。
まだ保坂は生きている。
まだ間に合う!!
絶対に彼女を死なせない。
頭上から鳴り響くスマホのアラームが、重い瞼をこじ開けさせる。
「んっ、んーーー」
唸りながら、スマホを手繰り寄せ、手探りでアラーム停止ボタンを押した。
渾身の力で片目を開けると、すぐ横に柔らかな長い髪が横たわっている。
「え?」
状況が把握できない。
眼前に持ち上げたスマホからうっかり手が滑り、顔面に落ちてきた。
ガツっと音を立てて、スマホが床に転がった。
「いってーーーーー」
しばし、眉間を抑えて身もだえる。
鼻血が出るかと思った。
その瞬間。
スッとクリアになった脳が体を弾いた。
飛び起きて、隣に寝ている女の顔を覗き込む。
「梨々花……」
妻、梨々花の顔を認識した瞬間、記憶が流れ込んで来た。
いや、上書きされたと言っていい。
床に転がったスマホを拾い上げる。
スクリーンに映し出された日付けは2024年3月20日。
戻ってる!
タイムリープする前に戻っているではないか。
しかし、全く同じではなく、家の雰囲気が全然違う。
ベッドの寝心地、着ているパジャマのブランド、部屋の広さ。
全てがグレードアップされている。
「なんじゃこりゃーーーーー!!!」
思わず叫んだ。
「んっ? んーーー???」
僕の声で、梨々花が目を覚ました。
「どうしたの? 大牙君。そんなに大きな声出してー」
僕は思わず片手で口を覆った。
あの日の朝だ!
あの日に戻って来たのだ。
「い、いや。なんでも、ない。変な、夢を、見て。いただけ……だと思う」
慌ててベッドを降りて、洗面台に向かった。
鏡の中には、あの時の僕。
きれいに整えた顎髭に、黒髪、白髪が数本。
なんで戻ったんだ?
クローゼットを開けて、パジャマを着替える。
服のセンスは変わってないが、スーツのグレードは上がっている。
まるで大企業の社長並だ。
着替えながら、どんどん上書きされていく記憶を整理する。
10年前。
保坂はやっぱり伊藤と結婚した。
あのウエディングドレスを着て……。
保坂にドレスをプレゼントしようと、僕が同級生に持ちかけてみんなで金を出し合い買い取ったのだ。
そして彼女は結婚式で、あのドレスを着る事ができた。
僕は式場の一番後ろで、その光景に満足して微笑んでいたんだ。
「何やってんだ? 俺!!!!!」
「どうしたの? 大牙君?」
スケスケのキャミソール姿の梨々花が、こちらを不思議そうに眺めている。
「いや、なんでもない」
梨々花の僕に対する態度が変わったのは、僕が以前より金持ちになったからだ。
未来の事を何でも知ってる僕は、あの時、新しいスマホで、伸びる企業の株を買いまくったのだ。
今や資産100億を超えている。
それでも、梨々花はやはり、伊藤とこそこそ連絡を取り合っている。
保坂とは、結婚式以来逢っていないし、連絡も取り合っていない。
完璧主義の彼女は、僕が彼女を特別な目で見ていることを知り、徹底的に僕をブロックした。
悲しいけど、それが今の現状だ。
着替え終わり、僕は、駐車場に例の物を取りに行く。
トランクを開けるとそこには――。
花束はなくて、ケーキの箱と、白い封筒。プレゼントはない。
封筒を開けると、離婚届が入っていた。
この日に照準を合わせて、僕は梨々花との離婚を目論んでいたのだ。
ケーキの箱を手に、部屋に戻ると、梨々花は既にバスルームでシャワーを浴びていた。
「出かけるの?」
フロストガラス越しにそう声をかけると
「うん。ノリちゃんたちと遊びに行くの。夜は遅くなるわ」
「そう」
結局、何も変わっていない。
僕は梨々花と結婚して、保坂は伊藤と結婚した。
いや、けど待て。
変わってなくもないぞ。
今僕が手にしてるのは、花束とティファニーじゃない。
ケーキと離婚届けだ。
そして、グレードアップされてる暮らし。
過去が変われば、未来は変わるんだ!
カチャっと音がして、梨々花がバスルームから出て来た。
雫を滴らせた体にバスタオルを巻いて、リビングに入って来た。
「誕生日、おめでとう」
僕は準備していた言葉を吐いた。
「ありがとう」
梨々花は寝室に置いてあるドレッサーに座り髪にドライヤーをかけている。
「結婚記念日だよな? ケーキ買って来てたんだ。一緒に食べようよ」
「朝からケーキ? 夜にするわ」
「いや、今だ。座れよ」
僕は梨々花からドライヤーを取り上げて、ダイニングテーブルの方に顎を突き出した。
梨々花は戸惑いながらもスツールから立ち上がった。
僕は箱からケーキを取りだして、25本のローソクに火を点ける。
「ザ・ケーキって感じね。白い生クリームにイチゴだけ?」
僕はぐっと我慢する。まだだ。
「出会った時から10年。長かったよな」
「そうね」
「出会った頃の君はまだ15歳で、生意気だったけど、かわいかった」
「ふふ」
「それから、君はモデルの世界で華やかに雑誌を飾って、18歳で僕の恋人になった」
「懐かしいわ」
「けど……その時にはもう、伊藤と不倫してたんだよな!」
「え?」
梨々花の顔色が変わった。
僕は全部知っている。
保坂は僕をブロックしたが、結婚式で知り合った保坂の妹、凛空と、ずっと連絡を取り合っていた。
僕は凛空に伊藤を見張るようお願いしていた。
凛空から全て伊藤と梨々花の不貞は知らされていて、この日をずっと待っていたんだ。
僕はローソクに火が灯るケーキを持ち上げ、そのまま梨々花に投げつけた。
「キャーー!!」
クリームに包まれて、火は消えたが、シャワーを浴びたばかりの梨々花の体は汚した。
狼狽える梨々花に、離婚届を、文字通り叩きつけた。
バンッ!!
テーブルの上に、手のひらがじんじんと疼くほどにね。
「離婚届けだ。僕のサインはもうしてある。慰謝料なんてものもいらない。今すぐ出て行け」
それだけ梨々花に告げると僕は急いで車に戻った。
まだ保坂は生きている。
まだ間に合う!!
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