君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

未来を変えろ

後編・プロローグ

　２０２４年３月２１日。

　ここは『時使い』のギャルソンが、お客様にご奉仕するフレンチレストラン『L'Époque Cachée』レポック・カシェ

　今宵も運命に導かれた客人が、ひっそりと訪れる、隠れ家的レストランなのである。

　このレストランに縁あった者にのみ与えられる能力があるという。
　それは『タイムリープ』

　しかし、その能力は『死』を経験した者にのみ与えられる。
　但し、その秘密を知ってしまえば、タイムリープの先にあるのは『死』のみである。

　これまでに多くの人類が時を超えたが、未だ自らの運命である『死』を乗り越えた者は、ただ一人もいない。

　何しろ、過去を変えた先の未来は予想不可能。
　消し去る事ができない不運は、執拗に当事者たちを苦しめる。


　この夜――。
　別々の場所で、泉大牙と保坂芙美の通夜が厳かに執り行われていた。

　保坂芙美は病を苦にした自殺。

　遺影の前で、無残な現実に泣き崩れるのは、彼女の夫、伊藤優作である。
　失ってから初めてその大切さに気付いた、典型的な男の姿がそこにはあった。

　身内だけに囲まれ、しめやかに、ひっそりと、ほの暗い闇に覆われていた。


　一方、泉大牙の葬儀は盛大であった。
　若き剛腕経営者の死は多くの参列者の悔恨の涙を誘った。

『泉、早すぎるじゃないか。バカ野郎！！』
『こんな若いきれいなかみさん残して逝きやがって』

　多くの参列者が彼の死を悼み、悔やんだ。

　あの夜、泉は芙美の夫である伊藤に掴みかかったが、返り討ちに遭ってしまう。
　襖に嵌められたガラスが割れ、散乱し、頸動脈を切り失血死したのだ。

　時を超え過去に戻った彼らは、目的を果たし、自らの運命を乗り越える事ができるのか？


「彼女が作る野菜は最高でしたね、シェフ」

　シェフはこちらに背を向けたまま、今夜のコース料理の仕込みに集中している。

「残念だね。どちらにしても、もう彼女の野菜は使えなくなるな」

「さて、開店の時間です。お客様をご案内いたします」

　ギャルソンは赤いネクタイをきゅっと締め直した。