君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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未来を変えろ

復讐の始まり

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 Side-泉大牙

 梨々花をモデルに起用するヘア雑誌の撮影は、来週に控えている。
 ただのカットモデルだった梨々花は、山内さんの勧めでサロンモデルへと成長していた。
 サロンモデルというのは、広告用のモデルの事で、練習用ヘアーモデルと違い、雑誌やCMで活躍する本格的なモデルだ。
 ギャランティも発生する。

 カウンターのパソコンで進捗を確認して、打ち合わせに備えていた。

「ねぇ、大牙君。私短くしたいな。これぐらい」
 梨々花は、右手を顎の高さに添えた。
社用車で学校に迎えに行き、サロンに連れて来たのはつい数分前の事だ。

「ダメだよ。今回はセミロングの特集なんだ。モデルやりたいんだろ?」

 ってか、いつから呼び方が『泉さん』から『大牙君』に変わったんだ?

「じゃあ、撮影が終わったら切ってくれる?」

「わからないよ。次、どんなスタイルを指示されるのか。僕はまだスタイリストデビューしてないから、勝手には切れない。山内さんの指示がないと」

「ふぅん。つまんない。サロンモデルってつまんないね」
 満更でもなさそうにそんな事を口にする。

「嫌ならやめたっていいよ。君程度の可愛い子なら東京にいくらでもいるんだ」

 2024年のクセで、つい当たりがキツくなってしまう。

「酷い……」

 梨々花は、見る間に目に涙を溜めた。

「あ、ごめん。ちょっと疲れてて、つい……」

 モデルの機嫌を損なうなんて、大失態だ。
 また山内さんに叱られてしまう。

 しかし、ごめんと言えば彼女は更に図に乗るのだ。

「酷い!! 大牙君、酷い……」

 大きな目から涙をボロボロ流し始めた。

 僕は店内をおろおろと見渡しながらカウンターを出て、梨々花の背中を押した。
 店内には客がいる。

 こんな場面、見られるわけには行かない。

「ちょっと外に出よう」

 落ち着くまでの間。そう思って外に連れ出した。

「ごめん。悪かったよ」

 その時だ。

「泉!」
 尖った声が背中を突いた。

 振り返ると、どす黒い顔色の伊藤がこちらに歩いて来る。

 手にはスポーツドリンク。
 それでゴクゴクの喉を鳴らした後、僕を睨みつけた。

「伊藤……。お前、何しに来た?」

 僕たちの不穏な空気に、梨々花の目は涙から好機の色に変わった。

「芙美はどこにいる? どこに隠した?」
 酷いアルコール臭がする。
 昨夜はきっとやけ酒してたんだな。

「さぁ? 俺は隠してない。彼女が選んだ事だろう」

「そんなはずない。あんなに従順だった芙美が、一瞬であんなに豹変するなんて。お前の差し金としか思えない」

「は? 俺を魔法使いか何かだとでも?」

「ふざけるな!」
「あぁ?」
 僕は思わず伊藤の胸倉をつかんだ。

「ふざけるなだと? それはこっちのセリフだよ。あんなに酷い……」

 待て!

 梨々花と伊藤の関係はこれから始まるのだ。
 梨々花に今、こいつがDV男だとバラすのは得策じゃない。

 二人には無事結婚してもらわないと。
 冷静になるんだ、冷静に――。

 僕は伊藤の胸倉から手を離した。

 その時。
「梨々花ちゃーん。メイクしましょうか」

 サロンのドアが開き、メイク担当のスタッフが梨々花を呼んだ。

 梨々花は僕の顔を覗き込む。

「行っておいで。君は大事なサロンモデルなんだから。更にかわいくしてもらってね」
 梨々花は先ほどの泣き顔から一変、女優のような笑顔を見せた。

 彼女が店内に入るのを見届け、伊藤に向き直った。

「とにかく、彼女の行方について僕は何も知らないし、もし知ってたとしても、お前には教えられない」

 伊藤は今にも泣きそうな顔で、僕の足元に縋りついた。

「頼む、頼むよ泉。昨夜からおふくろも体を壊して」

「じゃあ、酒飲んでないで働けよ」
 伊藤は僕の足元にすがったまま、激しく首を横にふる。

「結婚式の祝儀は全額招待客に返金。結婚式にかかった費用はおよそ500万。全額自腹で支払いだぞ。おふくろは心臓が弱いんだ。二人では到底農作業は追いつかない。芙美が手伝う前提で大きく設備投資した後で、とても経営が回らないんだ」

 心臓が悪い?

 安心しろ!  
 10年後もピンピンしてる。

 ばばあを働かせろ!
 お前はもっと働け。

「お前、まさかそのために保坂さんとの結婚を決めたわけじゃないだろうな?」

「は? そんなわけないだろう。俺は芙美を愛してる。だから頼む! 芙美に逢わせてくれ」

「泉」
 サロンのドアが開いて、山内さんが顔を出した。
 店内に戻れと言う意味だ。

「取り込み中か?」

「いえ、大丈夫です。戻ります」

 僕は伊藤にあっさり背を向けて、店内に入った。

 未来にはない場面だ。
 梨々花が泣き出したのも、伊藤がこうやって訪ねて来たのも記憶の中にはない。

 当然だ。
 結婚式の中止自体が、過去にはなかったのだから。

 ここからの未来は予測不可能。大きく変わるのだ。
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