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未来を変えろ
二つの企み
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打ち合わせが押してしまって、仕事から解放されたのは19時30分。
保坂さんとの約束の時間は19時。
随分遅れてしまった。
これから梨々花を社用車で家まで送り届ける。
その後、急いで保坂さんを迎えに行かなければ。
渋滞を回避しながらも、スムーズには進まない車内で、後部座席から梨々花がこちらに身を乗り出した。
「ねぇ、伊藤さんてあのお姉さんにふられたの?」
興味津々なご様子で訊いてきた。
「子供は引っ込んでろ。君には関係ない」
「子供じゃないもん! もう高校生よ」
「18歳になったら教えてやるよ」
と、言ってからふと妙案が浮かび上がった。
18歳になった梨々花は、モデルの世界での交友関係も広がり、どんな男と結婚すれば一生遊んで暮らせるのかを大体わかっていた。
先輩モデルの恋愛や結婚を間近で目の当たりにするのだから、男選びは間違わない。
だが今は、真っ新だ。
まだ男を見る目なんて物はないはずだ。
冷静になった僕は、試しにこう切り出してみた。
「保坂さんもバカな女だよなー。伊藤みたいな優良物件ふってしまうなんて」
「え? 伊藤さんて……そうなの?」
「えー? そうだよ。専業農家の末っ子長男。お坊ちゃんだぞ。郊外とはいえ、東京にあれだけの土地を所有してたら、えーっと」
片手でハンドルを操作しながら、指を折って見せる。
「資産10億、いや15億はあるな。農園も設備投資したって言ってたからこれから営業利益もかなり増えるんじゃないか? お母さんが亡くなったら、丸々あいつが相続する事になるな」
「本当に?」
「それに比べて僕はしがない美容師。生涯年収は伊藤の足元にも及ばないよ。美容師は潰しがきかないからな。体が動くうちは馬車馬のように働くしかない。宝くじでも当たればいいんだけどな。
結婚も遠いな。結婚したら嫁さんにもバリバリ働いてもらわないと」
「へぇ。伊藤さん最強じゃん」
「だろ?」
上手く行った。
子供相手はイージーだな。
腹の奥で、高笑いした。
「けど、農家って大変そう。叔母さん……あ、お母さんの妹ね。農家に嫁いだけどお休みもないし、毎日朝は早いし大変って言ってた」
「そりゃあ、農作業を一緒にやるって言っちゃうとダメだよ。結婚する前、条件として農家の手伝いはしないって宣言しておかないと」
「そんな事できるの?」
「もちろん。農家に嫁いだって遊んで暮らす奥さんはたくさんいるよ」
得てしてそういう家庭は上手く行ってないけどね。
「って。ああ、余計な事言ったな。これは誰にも内緒だぞ 」
「うん。わかった」
「伊藤にもだぞ!」
嘘がバレたら大変だからな。
「うん!」
後部座席の背もたれに体を沈めて、買ってもらったばかりのスマホを操作している梨々花がルームミラー越しに見える。
多分、通信先は伊藤だ。
やっぱり、この時既に伊藤と梨々花は繋がっていたんだ。
「誰に連絡してるの? もしかして伊藤?」
ルームミラー越しに梨々花と目を合わせた。
「うふふ、内緒」
クズはクズ同士、お互いの足を引っ張り合いながら生きて行くといい。
リスクを冒してまでも、会いたかった男だろ?
抱かれたかったんだろう? あいつに。
君は男を下に見て、虐げるのが好きだもんな。
伊藤は虐げ甲斐があるぞ。
君のハイヒールの下は伊藤がお似合いだ。
Side-伊藤
時刻は19時30分。
ようやく二日酔いから脱して、今日初めての食事を、車内で軽くすませたところだ。
泉は絶対に芙美と繋がってる。
泉がビルの月極駐車場から出した車を、配達用のバンで追いかけた。
付けていれば、必ず芙美と接触するはずだと思ったが、梨々花と出かけるのか?
あいつ、もしかしてあんなガキに手出すつもりか?
いや、まさか。
あいつにそんな度胸はないだろう。
モデルにしてるって事は、お気に入りである事には間違いなさそうだ。
一度、半年前にあいつのサロンで逢って、カフェに連れて行った。
その時にせがまれて、連絡先の交換したっけ。
こっちから連絡する事はなかったが、親にねだって新しいスマホを買ってもらっただとか、髪型を変えただとか、洋服を買っただとかで、自撮りの写真を送って来ていた。
可愛い子だ。
信号待ちで、助手席に置いたスマホが着信を知らせた。
メッセージ受信だ。
「梨々花?」
スクリーンには、確かに梨々花の名前が表示されている。
彼女は今、目の前の車に泉と一緒にいるはずだ。
メッセージをタップする。
『伊藤さん、こんばんは。今度またカフェに連れてってください(ウィンクの顔文字)』
「え? なんで?」
しばし、逡巡したが、俺はそのメッセージに返信を打ち込んだ。
『いいよ。いつでも電話して』
返信は大きなハートのスタンプのみだった。
普通なら飛び跳ねて喜ぶところだろうが、今はそれどころじゃない。
芙美を探し出して、力ずくででも連れて帰らなければ。
ただの痴話げんかだったって事にしなければ、世間に顔が立たない。
結婚式には取引先の業者もたくさん来場してたんだ。
このままでは契約を切られてしまうかもしれない。
梨々花はその後だ。
泉の運転する車は、豪勢なタワマンの前に停車した。
運転席から泉が出て来て、後部座席を開けると、そこから梨々花が弾むように降りた。
泉にバイバイと手を振り、エントランスに入って行く。
「いいマンションに住んでるんだな……」
お嬢様か?
道理でわがままで、苦労をしらなそうなはずだ。
梨々花を降ろした後、泉の車はUターンして、元の月極駐車場に戻った。
腕時計を気にしながら、小走りで大通りに向かう。
俺は急いで車をコインパーキングに停めて、泉を追った。
時刻は20時ちょうど。
間違いない、泉はこれから芙美と合流する!!
保坂さんとの約束の時間は19時。
随分遅れてしまった。
これから梨々花を社用車で家まで送り届ける。
その後、急いで保坂さんを迎えに行かなければ。
渋滞を回避しながらも、スムーズには進まない車内で、後部座席から梨々花がこちらに身を乗り出した。
「ねぇ、伊藤さんてあのお姉さんにふられたの?」
興味津々なご様子で訊いてきた。
「子供は引っ込んでろ。君には関係ない」
「子供じゃないもん! もう高校生よ」
「18歳になったら教えてやるよ」
と、言ってからふと妙案が浮かび上がった。
18歳になった梨々花は、モデルの世界での交友関係も広がり、どんな男と結婚すれば一生遊んで暮らせるのかを大体わかっていた。
先輩モデルの恋愛や結婚を間近で目の当たりにするのだから、男選びは間違わない。
だが今は、真っ新だ。
まだ男を見る目なんて物はないはずだ。
冷静になった僕は、試しにこう切り出してみた。
「保坂さんもバカな女だよなー。伊藤みたいな優良物件ふってしまうなんて」
「え? 伊藤さんて……そうなの?」
「えー? そうだよ。専業農家の末っ子長男。お坊ちゃんだぞ。郊外とはいえ、東京にあれだけの土地を所有してたら、えーっと」
片手でハンドルを操作しながら、指を折って見せる。
「資産10億、いや15億はあるな。農園も設備投資したって言ってたからこれから営業利益もかなり増えるんじゃないか? お母さんが亡くなったら、丸々あいつが相続する事になるな」
「本当に?」
「それに比べて僕はしがない美容師。生涯年収は伊藤の足元にも及ばないよ。美容師は潰しがきかないからな。体が動くうちは馬車馬のように働くしかない。宝くじでも当たればいいんだけどな。
結婚も遠いな。結婚したら嫁さんにもバリバリ働いてもらわないと」
「へぇ。伊藤さん最強じゃん」
「だろ?」
上手く行った。
子供相手はイージーだな。
腹の奥で、高笑いした。
「けど、農家って大変そう。叔母さん……あ、お母さんの妹ね。農家に嫁いだけどお休みもないし、毎日朝は早いし大変って言ってた」
「そりゃあ、農作業を一緒にやるって言っちゃうとダメだよ。結婚する前、条件として農家の手伝いはしないって宣言しておかないと」
「そんな事できるの?」
「もちろん。農家に嫁いだって遊んで暮らす奥さんはたくさんいるよ」
得てしてそういう家庭は上手く行ってないけどね。
「って。ああ、余計な事言ったな。これは誰にも内緒だぞ 」
「うん。わかった」
「伊藤にもだぞ!」
嘘がバレたら大変だからな。
「うん!」
後部座席の背もたれに体を沈めて、買ってもらったばかりのスマホを操作している梨々花がルームミラー越しに見える。
多分、通信先は伊藤だ。
やっぱり、この時既に伊藤と梨々花は繋がっていたんだ。
「誰に連絡してるの? もしかして伊藤?」
ルームミラー越しに梨々花と目を合わせた。
「うふふ、内緒」
クズはクズ同士、お互いの足を引っ張り合いながら生きて行くといい。
リスクを冒してまでも、会いたかった男だろ?
抱かれたかったんだろう? あいつに。
君は男を下に見て、虐げるのが好きだもんな。
伊藤は虐げ甲斐があるぞ。
君のハイヒールの下は伊藤がお似合いだ。
Side-伊藤
時刻は19時30分。
ようやく二日酔いから脱して、今日初めての食事を、車内で軽くすませたところだ。
泉は絶対に芙美と繋がってる。
泉がビルの月極駐車場から出した車を、配達用のバンで追いかけた。
付けていれば、必ず芙美と接触するはずだと思ったが、梨々花と出かけるのか?
あいつ、もしかしてあんなガキに手出すつもりか?
いや、まさか。
あいつにそんな度胸はないだろう。
モデルにしてるって事は、お気に入りである事には間違いなさそうだ。
一度、半年前にあいつのサロンで逢って、カフェに連れて行った。
その時にせがまれて、連絡先の交換したっけ。
こっちから連絡する事はなかったが、親にねだって新しいスマホを買ってもらっただとか、髪型を変えただとか、洋服を買っただとかで、自撮りの写真を送って来ていた。
可愛い子だ。
信号待ちで、助手席に置いたスマホが着信を知らせた。
メッセージ受信だ。
「梨々花?」
スクリーンには、確かに梨々花の名前が表示されている。
彼女は今、目の前の車に泉と一緒にいるはずだ。
メッセージをタップする。
『伊藤さん、こんばんは。今度またカフェに連れてってください(ウィンクの顔文字)』
「え? なんで?」
しばし、逡巡したが、俺はそのメッセージに返信を打ち込んだ。
『いいよ。いつでも電話して』
返信は大きなハートのスタンプのみだった。
普通なら飛び跳ねて喜ぶところだろうが、今はそれどころじゃない。
芙美を探し出して、力ずくででも連れて帰らなければ。
ただの痴話げんかだったって事にしなければ、世間に顔が立たない。
結婚式には取引先の業者もたくさん来場してたんだ。
このままでは契約を切られてしまうかもしれない。
梨々花はその後だ。
泉の運転する車は、豪勢なタワマンの前に停車した。
運転席から泉が出て来て、後部座席を開けると、そこから梨々花が弾むように降りた。
泉にバイバイと手を振り、エントランスに入って行く。
「いいマンションに住んでるんだな……」
お嬢様か?
道理でわがままで、苦労をしらなそうなはずだ。
梨々花を降ろした後、泉の車はUターンして、元の月極駐車場に戻った。
腕時計を気にしながら、小走りで大通りに向かう。
俺は急いで車をコインパーキングに停めて、泉を追った。
時刻は20時ちょうど。
間違いない、泉はこれから芙美と合流する!!
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