君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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ガラクタの未来を君に

今から未来の妻を誘惑します

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 2014年12月21日。

 この日は日曜日で、18時には受付が終了する。
 レッスンも休み――だが。

 現在時刻18時30分。

 中高生は昨日から冬休みだ。
 しばし鎖から解き放たれるかの如く、彼女たちは校則違反であるカラーやパーマをしたがる。
 新学期が始まるまでのフリーダムを楽しみたいのだ。
 そういうお年頃。

 そんな子たちで、店はごった返していて、早上がりという週に一度のスタッフの楽しみはサロンワークで溶かされる。

 ジュニアスタイリストとしてデビューしていた僕は、優先的に中高生客が回され、うんざりするほど彼女らの髪を染めた。

 今、セット面に座ってしきりにスマホをいじってるJKのカラーが終わればひと段落だ。
 額に滲む汗を肩口で拭って、最後の客のカラーを塗り終えようとしている時だった。

「泉さん、お電話でーす」

 受付けカウンターから声が飛んできた。

「はーい!」

 ヘルプに入ってくれているスタッフに作業を変わってもらい

「ラップして20分。加温なしで」
「かしこまりました」

 手袋を外しながらカウンターに向かう。

 忙しいだとか、疲れただとか、そんな事を思う暇さえない。

「もしもし、お電話ありがとうございます。泉です」

「大牙くーん!」

 クスクス笑うような愉し気な声が僕の名を呼んだ。

「はい?」

 本当は誰なのかすぐにわかったが、わざと惚けて見せる。

「梨々花ー! どうしてわからないの?」

「あー、梨々花ちゃん。ごめんごめん。店が騒々しくて」

「今からカラーしに行ってもいい?」

 予約ぐらいでわざわざ呼び出すな! 何のための受付スタッフだと思ってるんだ。

「あー、ごめんね。今日はもう……」

 いや、待てよ。
 これは、進展のチャンスだ!
 今から来店させて、カラーして仕上げた頃には、最後の客になっているはず。
 梨々花も昨日から冬休みで羽目を外したい時期か。

「あー、いいよ。すぐ来れる?」

「うん! すぐ行く!」

「は~い、じゃあお待ちしてま~す」


 およそ30分後。

「すみません。今日はもう受付時間終わってますよね」
 梨々花の母親がこぎれいなトレンチの襟を抱きしめながら、申し訳なさそうに店に入って来た。
 10年前の義母だ。
 優しくてきれいな人だったが、10年前の彼女は若さという武器によって更に輝いている。
 若いといっても確か38か……。
 すらりとした身を低く屈めて、娘のわがままを何度も詫びる。

「どうしても今から行きたいって聞かなくて」

「いいですよ。ちょうど予約も途切れた所で。帰りは僕が送りますね」

「なんだかいつも申し訳ないわ」

 しっとりとした笑顔のまま、眉尻を下げて肩幅を狭くした。

「全然問題ないです。サロンの大事なモデルさんですので、僕に任せてください」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます」

「ねぇ、大牙君! 髪の毛終わったらイルミネーション見に行きたい!」

「え? イルミネーション? けど……」

 僕は伺うように、母親の顔を見た。

「りり! 泉さん困ってらっしゃるじゃない」

「いえ! 僕はいいんですけど、そんなに遅くまで連れまわしていい物かどうか……」

「ねぇ、ママ。いいでしょう?」

 母親は僕の顔を見て、困った顔で首を傾げた。

「僕は全然構いませんよ」

「じゃあ……お願いしちゃおうかしら。本当にお仕事でお疲れの所……」

「いえ。いつもなら、まだまだ受付中の時間ですし、若いんで大丈夫です」
 そう言って、笑顔を貼り付けた。

「わぁい! やったー! ママ、大好き」

 梨々花は母親に抱きついて喜びを表現した。

「じゃあ、髪の毛きれいにしてからね。たくさん写真撮ろうね」

「うん!」

「じゃあ、お預かりします。あまり遅くならないように送り届けますので」

 母親は心から申し訳なさそうに何度も会釈をして、サロンを後にした。

 セット椅子に座らせて、先ずは鏡越しに笑顔で話しかける。
「どんな色にする?」

「あまり目立たないように。でも、わかるぐらい」

「オッケー! インナーカラーとか入れてみる?」

「インナーカラー?」

「うん、髪の表面はそのまま。内側に少し明るめのカラーリングを入れるんだ。クリスマスだし、ピンクブベージュとかどうかな。かわいいと思うよ」

「じゃあ、それにする」

 ヘルプのスタッフに薬剤の調合とホイルの準備を指示して、僕は彼女に黒いクロスをかけた。

 髪をブロッキングしていると、梨々花はスマホで何やら閲覧している。

 そっとのぞき込むと、黒いエナメルのハイヒール。ゴールドの飾りが付いていて変わったデザインだ。

「可愛い靴だね」

「そうでしょう! ミュウミュウよ。お年玉もらったらこれ買うんだ」

「ああ! ミュウミュウか」
 この時期確か流行ってたな。ミュウミュウにフェラガモ。ココルルにセシルマクビー。
 梨々花と付き合い出してからは随分ねだられて、必死で働いたっけ。

「いくらするの?」

「5万8千円」

「へぇ、ミュウミュウって意外と安かったんだな」

「へ?」

「あ、ああ、いや……」

 しまった。億を手にしたせいで、金銭感覚がバグってる。

「はは……」
 誤魔化し切れるか?

「もしかして大牙君ってお金持ちだったの?」
 胡麻化せないかー。

「いや。僕はびんb……」

 待てよ。
 貧乏美容師に、梨々花を落とせるか?
 この時代ならいけると思ったが、金を持ってる感じを匂わせた方が、確率は上がる!

「いや、僕はそんなんじゃないけど、親がね」

「へぇ、家がお金持ちなんだ?」

「まぁ、一応、親父は会社の社長だからね。未だに脛かじらせてもらってるよ」

「へぇ、そうなんだ」

 あからさまに喰いついた。
 舌なめずりの音まで聞こえてきそうな程に。

「じゃなきゃ、渋谷で一人暮らしなんてできないよ。ここだけの話だけど、美容師ってめっちゃ給料安いからね」

 耳元に口を寄せて、さりげなく接近した。
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