君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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純愛

動き出す

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 Side-芙美

 随分大声で泣き叫んだせいで、頭がぼーっとしている。
 なんだか喉も痛くなって、部屋で一人ベッドに潜っていた。

 コンコン。
 ドアがノック音を鳴らす。

「はい。どうぞ」

 開いたドアから顔をだしたのは、奈々さんだ。
 気遣いの笑顔を添えて、こう言った。

「イチゴあるよー。一緒に食べへん?」

「嬉しい。でも気持ちだけ受け取っておく。ありがとう」

「食欲ないん? 晩御飯も食べてへんやんか」

「なんだか、頭が痛くて」

 奈々さんは急に心配そうに目を見開いて部屋に入って来た。

「どれどれ」
 額に手を当てて

「ふむ。熱はないみたい」

 そして、ベッドに腰を下ろした。

「このままでええの?」

「え?」

「彼の事、好きなんやろ?」

「……」

「彼にはもう彼女がおるのかもしれへんけど、気持ちを伝えるのは自由やで」

「奈々さん……」

「芙美ちゃんはまだまだ若いしきれいよ! 見た目だけじゃなくて身も心も。思いのままに突っ走たらええんよ」

「うん、そっか。そうだよね」

「恋は鮮度が命よ。いつまでも温めとったら、そのうち腐るで」

 奈々さんの言葉は不思議だ。
 中身は本当は30のおばさんなのに、若返ったみたいに、なんでもできる気がした。
 急に羽が生えたみたい。

「私、行ってくる」

 奈々さんは、慌てて壁掛けの時計に視線を移した。

 時刻は23時。

「急ぎ! 終電まだ間に合う」

「うん!」

 部屋着のトレーナーにロングスカート。
 その上にロングコートを羽織って、私はゲストハウスを飛び出した。
 雨上がりの冷えた風が暴力的に肺に流れ込んで、呼吸器官を刺激する。

 履きなれたスニーカーで、駅まで全力で走る。

 大牙に気持ちを伝える。

 今度こそ、伝えなきゃ――。



 Side-大牙

 社用車で、梨々花の自宅に到着したのは23時だった。
「じゃあね。おやすみ」
 後部座席を開けて、梨々花を下ろすと、しゅんと寂しそうな顔を見せる。
 デートの帰り際はいつもそうだった。
 まだ帰りたくないの顔。

「明日、休みだからクリスマスプレゼント買いに行こうか?」

「本当?」

「うん。ミュウミュウが欲しいんだろ。帰ったら、電話するよ」

「うん! ねぇ、大牙君」

「なに?」

「もう一回キスして」

 僕は周りを見回した。
 マンションの裏側の細い路地。人通りは少ないが、周囲には高層マンションが林立していて誰に見られているかわからない。
 さっきは、周囲もカップルだらけでさして気にはならなかったけれど。

「ここで?」

「うん」

 僕は彼女のおでこにそっとキスを落とした。

「それだけ?」

 不満げに僕を睨みつけるように見上げる。
 なだめるように髪を撫でて、抱きすくめようとした時、車のヘッドライトがこちらを照らした。

 車は路肩に寄せているが、対向車が続いているせいで、通れないんだ。

「ほら、車邪魔だって。また明日ね」

 そう言って、そそくさと車に乗った。

 片方の頬をぷくっと膨らませながら、バイバイと手を振る彼女に、片手を挙げてバイバイした。


 Side-梨々花

「ただいまー」
 玄関を開けると、腕組みしたママが立っていた。
 いつになく真剣な、怒った顔だ。

「遅い!」

「ごめんなさい。車が混んでたのよ」

「泉さんから連絡もらってたから知ってるわ」

「じゃあ、なーに?」

 部屋に入ろうとする私の腕を掴んだ。

「泉さんと付き合ってるの?」

「え? どうして?」

 ママはベランダの方を指さしてこう言った。
「見てたのよ」

「そう」

「あなた、まだ15歳なのよ」

「15歳だって恋ぐらいするわ。彼氏がいたっていいじゃない」

「いいけど、泉さんはダメ!」

「どうして?」

「彼はまだアシスタントで、お給料だって安いの。梨々花の彼氏には相応しくないわ」

 ママは常日頃、梨々花の彼氏はお金持ちしか認めないって言ってる。
 自分の実家が貧乏で、パパと結婚するまで苦労したからだ。
 うちのパパはお金持ちで、ママより16歳も年上。
 お金のためだけに、ママはパパと結婚した。

「ママ、安心して。大牙君はお金持ちよ」

「え?」

 ママの顔色が変わった。

「大牙君のお父さんは大手の美容ディーラーの社長さんよ」

「そうなの?」

「関東の大手美容サロンは大体取引があって、コンサル業務? もやってるんだって。大牙君もゆくゆくはお父さんの会社を手伝うんだって。その下積みとして、今は美容師をやってるだけよ」

「じゃあ、次期社長候補?」

「当たり前じゃない。大牙君は一人っ子だし」

「そう」

 ママは含みのある笑いをかみ殺すように、真剣な顔を整える。

「さっさとお風呂に入りなさい」
 と言って、リビングに入って行った。

 自分の部屋に入って、コートと帽子を脱ぎ、早速スマホでLINEにアクセス。
 イルミネーションの下で撮った写真を添付して、タイムラインを更新する。

 タイトル:彼氏ができたー!
『目黒川沿いのイルミ行って来た。
 すっごくきれいだった。
 明日もデートです。』

 幸せエフェクトをたくさん貼り付けて、送信ボタンを押した。

 勢いよく増えていく『イイネ』とコメント。

 鈴:えー、彼氏ってもしかして社会人とか?

 田口:りりたん、可愛いー。よく撮れてるね。

 深水:その人知ってるかも。あの美容室の人?


 あっ!
 伊藤さんから『イイネ』来た!




 Side-大牙

 社用車を駐車場に停めて、歩いて帰宅する。
 ここに来て、どっと疲れが押し寄せる。
 長い一日だったなぁ。
 心の中で一人ごちながら、アパートの敷地を踏むと――。

「え? ええ? ちょ、芙美!!」

 玄関ドアを背に、座り込んでいる芙美が目に飛び込んだ。

 芙美は青白い顔で、目を閉じている。

「芙美! 芙美ーーー!!」

 急いで駆け寄ると、意識が朦朧としていて目を開けようとしない。
 上体を抱き起してみて気付いた。

 すごい熱だ。
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