君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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純愛

ずっと君の傍にいたかった

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 Side-大牙

 白んだ陽光が窓辺から差し込んで、真っすぐな光を作っていた。
 時刻は朝8時。

 芙美を温めるように添い寝していた僕は、まだ夢の中にいる彼女を起こさないようにそっと布団を出た。
 歯を磨いて、顔を洗う。
 ついでに頭まで濡らして、寝ぐせも直す。

 洗面所の鏡が、冴えない顔を映し出した。
 目の下には真っ黒いクマ。

 うとうとしていたような気がしていたが、殆ど眠れていなかった。

 今日が休みでよかった。

 頭をゴシゴシとタオルで拭いながらリビングに戻ると、芙美は目を覚ましていて、僕にほほ笑んだ。

「おはよう」

「おはよう。気分はどう?」

「少し喉が痛いけど、もう大丈夫よ。若いって素晴らしいね」

「そうだね。体は二十歳だからね。回復力ハンパないね」

 そう言って笑い合い、僕はスマホを取り出した。

「どうしたの?」

「ん? 今日、梨々花と逢う約束をしていたんだ。キャンセルするよ」

「どうして?」

「君のそばにいる。心配だから」

「いいの!」

「え?」

「行って!」

「どうして?」

「計画通りに進めましょう」

「芙美……」

「私はもう大丈夫よ」

「僕が君の傍にいたいんだ」
 そう言って、布団の上に膝を斜めに折る彼女の背中に回り、包み込む。
 僕の匂いを移した髪が頬を撫でた

 彼女は胸元に回した僕の手をぎゅっと握った。

「その言葉だけで十分。大牙……私、幸せよ」

 微熱を帯びた首筋に優しくキスをした。

 まだ僕たちの体は結ばれていない。
 彼女は僕の気持ちを受け入れるのに時間はかからなかったが、体を受け入れる事が不安だったんだと泣いた。

 彼女がキスをせがむから、気が済むまで唇を重ね合った。

「じゃあ、ここにいてくれる? できるだけ早く帰って来るから」

「うん。わかった。晩御飯作っておく」

「うん。じゃあ、晩御飯は食べずに帰ってくるよ」

「何が食べたい?」

「芙美が食べたい物が食べたい」

 彼女は僕の手にキスをして、人差し指を甘く噛んだ。

「それは……僕を食べたいって事でいい?」

 彼女は大きな声でケラケラと笑って、首を横に振る。
 僕は首筋にかかる髪の毛をどけて、彼女の耳たぶを噛んだ。
 くすぐったそうに体をよじって笑い転げる。

 こんな時間が心から幸せで、愛おしいと思った。

 
 梨々花との約束は10時。
 ハチ公前で待ち合わせだ。
 9時半に出れば十分間に合う。
 ギリギリまで彼女と体温を分け合うかのように抱きしめ合って、ここまでの事を日記に記した。

「じゃあ、行ってくるよ」

「いってらっしゃい。頑張ってね」

 玄関で見送る彼女の顔に陰は微塵もなくて、晴れ渡った空のように澄んでいた。


 ハチ公前に差し掛かり、梨々花に電話をした。
 通話はすぐに繋がって、楽し気な笑い声が聞こえる。

「今どこ? ハチ公前にもうすぐ着くけど」

「うふふ。後ろ!」

「え?」

 振り返ると、ファー付きのコートにミニ丈のスカートからスラリと長い足を伸ばした梨々花が立っていた。

「おはよう」

「おはよう」

「すぐわかった?」

「うん。ちょうど大牙君が目の前を通り過ぎるのが見えた」

「そっか。じゃあ、行こうか」

「どこに行くの?」

「どこに行きたい?」

「西部」

「オッケー。昨日、帰り遅くなっちゃったけど、大丈夫だった?」

 梨々花は少し口ごもったがすぐに平気な顔を作ってこう言った。

「ちょっとだけママに怒られたけど、大丈夫だった」

「そっか。僕からも後で電話入れとくよ」

「うん」

 西部渋谷店に到着し、早速2階にあるお目当てのショップを目指した。

 品数は多くはないが、0の数は多い。
 財布には10万ほど現金を入れてきたが、大丈夫か?

 ざっとバッグや靴を見て回ると、上品そうな店員が近付いてきた。

「バッグをお探しでしょうか?」

「えっと、彼女に靴とバッグを」

「かしこまりました。本日のお洋服に合わせますか?」

「はい。お願いします」
 と梨々花。

 店員はにっこり笑顔で会釈して、3点ほどバッグをショーケースの上に並べた。
 148000円、185000円、283000円の順。

「え?」
 全然金が足りない。

「ちょ、ちょっとさ、お金おろしてくるから、選んでて」
 そう梨々花に耳打ちした時だった。

 グラっと視界が揺れて
「うわっ」
 と思わず声が漏れた。

 寝不足が祟ってる?

 しばし、状態を支えるように膝に手を付き、床を眺めていた。

 視界は大きく歪み始め、クロスフラッシュ。

 ――ヤバイ! 来る。


 うわぁぁぁぁぁぁああーーーーーーーーーー

 心の中で雄たけびを上げた。


「大牙君? どうしたの大丈夫?」

「え? えええ??? どうして君がここに?」
 僕の目の前には、苑田梨々花。
 サロンの客であり、カットモデルのJKだ。

「何言ってるの? 大牙君??」

 その前に、どうして僕がここに?

 僕は確か伊藤と保坂さんの結婚式に参列していた。
 新郎新婦がお色直しで会場を出て……、それから――。

 記憶がない。

 こういう事は初めてじゃなかった。

 そう、あの時――。

 仕事中に急に意識がなくなり、気が付いた時には渋谷の駅前にいた。
 目の前には保坂芙美。

 彼女は、なんだか怒った様子で逃げるように走り去ったのだ。

 わけがわからないまま家に帰ると、汚かった部屋がきれいになっていて、不思議な事が色々あった。

 病気?

 僕はきっと脳になんらかの異常があるに違いない。

「大牙君?」

 梨々花ちゃんが心配そうな顔で僕を見ている。

「えっとー。今何しようとしてたっけ?」

「お金、下ろして来るんでしょ?」

「お金?——あ、そっか。うん、うん。下ろしてくる」

 僕は逃げるようにその場を去った。

 下ろす金なんて、ない。
 カードも限度額オーバーだ。

 とにかく落ち着く時間が必要だ。
 街並はクリスマス一色。
 真夏に近い9月から、突如真冬に飛ばされた気分だ。

 およそ3ヶ月。
 僕は一体何をしていたんだ?

 息を切らしながら、ようやく家にたどり着いた。

 ポケットから鍵を取り出し、玄関を開けた。

 直後
「お帰り、大牙。早かったのね」

 僕はあまりの驚きに尻もちをついた。

「は、あわわわわわ……ほ、ほ、保坂、さん?」

 彼女はまるでお化けにでも遭遇したかのような顔をして両手で口元を覆った。
 じわじわと悲しそうな顔になっていく彼女。

「一体、どうなってるの?」
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