君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

文字の大きさ
42 / 52
純愛

ミュウミュウと特上寿司と香水

しおりを挟む
 Side-大牙

 未来の僕が書いたという日記は、日記というより10年前の自分に宛てた手紙のような物だった。
 メッセージと言うべきか。
 いくつかのミッションと、これまでの詳細な出来事。

 そして、未来の僕の気持ち。
 保坂さんの気持ち……
 痛み、想い、苦しみ。

 それらにリベンジするのが、僕の役目というわけだ。


「ごめんね。財布を家に忘れて来ちゃってて」

 西部渋谷であれこれとクリスマスプレゼントを物色している梨々花ちゃんに駆け寄った。

「お金おろして来た?」
 彼女は鏡の前でピンクのワンピースを体に当てがって、こちらを振り向かずにそう訊いた。

「うん。たくさん下ろして来たよ」

 未来の僕は一体どんな風に彼女と接していたのだろうか?
 あのノートによると、けっこうチャラい感じだったようだけど、僕にできるだろうか?
 彼女が本当に僕なんかと付き合ってくれるのだろうか?

 いや、もう付き合ってる……はずなんだよな。

 キスまでしちゃったなんて、にわかに信じがたいんだけど。

「それ、よく似合ってる。それにする?」

「うーん。でも……」

 彼女はワンピースの袖に付いているタグをちらっと見せた。

 283000円。
 いちじゅうひゃくせん……
 強気な値段に一瞬仰け反った。

 しっかりしろ! オレ!
 未来の僕は従業員100人以上を束ねる会社の社長なんだ。
 胸を張って、顔色一つ変えずに、きっとこう言うだろう。

「安いね。それも買おうか?」

「え? 本当?」

「うん。バッグと靴はどれにするの?」

 梨々花ちゃんは周囲まで明るくするようなお花畑みたいな笑顔を見せた。

 お金なら100万円下ろして来た。
 ドンと来い!

「靴とバッグはこれに決めたの」

 靴もバッグも似たような色合いの可愛らしい物だった。
 値段はもちろん可愛くない。

「全身ピンクになっちゃうけどいいの?」

「うん!」

「じゃあ……えっと。お会計お願いします」

 ずっとニコニコ笑いながら梨々花ちゃんに付き添う店員にそう声をかけると「かしこまりました」とお辞儀をした。
 とても丁寧だった。

 会計は全部で56万円。

 34万円も余った。

 袋詰めされた荷物を持ち、スキップするように歩く彼女の後ろを付いて歩く。
 短いスカートから伸びる素足が生々しい。ついそこばかりに視線が釘付けになりがち。

「そろそろお昼だね。ご飯でも食べる?」

 そう訊ねると、彼女はくるっと体ごと振り返って「お寿司が食べたい」と言った。

「いいよ。行こうか」

 てっきり回転ずしだと思ったが、彼女が選んだお店は立派な割烹で、予約なしでも入れるのか不安だったが、幸いカウンターの席に座れた。

 初めてこういう店に入ったが、これも経験だ。

「特上二人前お願いします」
 おしぼりを持って来てくれたおかみさんらしき人にそう告げた。

「キャビア乗せたい!」

 彼女は黄色い声でそう言った。

「え? キャビア?」

「はい、当店自慢のキャビア乗せ寿司でございます」
 おかみが腰を浅く折ってにっこり笑った。

「あ、じゃあ、彼女の分にキャビア乗せてください」
「ありがとうございますぅ」

「わぁ、ありがとう、大牙くぅん」

 僕は本当にこの子と結婚する運命なのだろうか?

 今の所、一ミリも好きだとか素敵だとか思えない。

 およそ1時間ほどで、僕はもう帰りたくなっている。

 金なら唸るほどある。
 だからちっとも惜しいとは思わない。

 だけど、この子とこうしている時間は苦痛だ。

 早く返って、保坂さんをもう一度抱きしめたい。

「大牙君。本当にありがとう」

 彼女はいきなり僕の手を握ってきた。

「え? ああ、全然。君が喜んでくれたならよかった。僕も嬉しいよ」
 言いながら、すっと手を引き抜いて、おしぼりで拭いた。

「素敵ー」

 彼女は僕の肩によりかかる。

 その瞬間、彼女から強めの香水の匂いが漂って、僕はなんだか恥ずかしくなった。
 とても場違いな所に来てしまったようで、急に座り心地の悪さを感じた。

 せっかくの特上寿司が台無しじゃないか?

「ハイ! お待ちー」

 カウンターの向こうから店主が威勢よく豪華な寿司桶を目の前に置いてくれた。

「ありがとうございます」

 中は至ってシンプルだった。

「すごーい。大きい。美味しそうー。わぁキャビアだ」

 彼女はバッグから取り出したスマホをお寿司に向けて、パシャパシャと写真を撮り始めた。

 本当に恥ずかしい。

 確か彼女はお嬢様のはずだ。
 山内さんのお客様のご息女。
 父親は確か、ジュエリーショップのオーナー。

 どんな教育を受けてるんだか全く……。

 とっとと伊藤に押し付けたい。

 そういう状況でも、特上の寿司は美味しい。
 これまでに食べた事があるネタばかりなのに、初めての味にとろけそうになる。

 彼女は未だ箸を付けずにスマホを操作している。

「食べないの?」

「タイムラインに写真載せてから」

「そっか。最近はインスタグラムってやつが流行り出したね。梨々花ちゃんはやらないの?」

「ちょっと!」
 彼女は急に声を荒げた。

「な、なに?」

「梨々花って呼ぶ約束でしょ!」

「え? そうなの? あ、いや、そうだった。ごめんごめん。梨々花」

 あっぶな。
 そんな事日記に書いてなかったぞ。

 けど、あの日記のお陰で前回よりはマシだ。
 期間が短かったからよかったけれど。
 あれで、僕や保坂さんの運命が少しは変わったのかな?

 彼女は僕に体を寄せて、目の前にスマホを掲げた。

「え? なに?」

「ツーショット」

 パシャ!
 ピカっとフラッシュが光って、スクリーンに惚けた顔の僕と、決め顔の彼女が収まった。

「ラインに載せていい?」

「ああ、別にいいよ」

「あ、そうだ。昨日の私のライン投稿見た?」

「いや、見てない」
 未来の僕は見たかも?

「これ」

 彼女はそう言ってスクリーンを僕に見せた。
 これは……。
 昨夜か。
 昨夜、未来の僕は彼女にデートを仕掛けたのだ。
 その時の写真だ。
 僕のスマホに、同じ服装の彼女の写真があった。
 日付は昨日だった。

「でね、これ見て。伊藤さんからイイネ来たの」

「へ? へぇ……」

 なるほど。
 そういう事か。
 未来の僕からの指示は、惜しみなく梨々花にブランド物をプレゼントしろ、だった。

 彼女がこうやって僕たちの事をSNSに上げてマウントを取れば、自然と伊藤が釣れるってわけか。

 プライドの高い伊藤は、必ず僕に対抗心を燃やして来る。
 
 そして、必ず梨々花に接近する!!
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...