【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~

郁嵐(いくらん)

文字の大きさ
6 / 23

【和風ファンタジー】2話 (3)【あらすじ動画あり】

しおりを挟む
=============
【あらすじ動画】 
◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94

◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
=============



「お前、よくこんなところに住んでいられるよな。迷ったりしないのか?」

巡査が追ってきていないか、壁際からそっと覗きながら辰政が言った。

「う~ん。今は迷うことはないかな。抜け道も知ってるし——」

銀次は、慌ててその先の言葉を呑み込む。
このことは、誰にも言ったことはないのだ。

慌てて話題を変えようとした時、

「お前たちぃ~そこにいるのはわかってるんだぞ!」

牛島の怒声が、魔窟に木霊した。

「ゲッ! 犬かよ、あいつは!」
通りの向こうからやってくる牛島を見て、辰政が体を引っ込めた。

「よし、こうなったら力づくで——」

辰政は袖をまくり上げ、路地から飛び出そうとする。
銀次は、慌ててその腕を掴んで止めた。

「ちょ、ちょっと待って! 辰っあん!」

どうやら、辰政の悪い癖が出たようだ。
「火事と喧嘩は江戸の華」とはよく言ったもの。
辰政は喧嘩と聞けば、すぐにでも飛び出して行ってしまう性質なのだ。

——けれど、今だけは止めなければ。
警官相手に喧嘩なんて仕掛けたら、それこそ豚箱行きだ。

(……しょうがないか)

銀次は一瞬だけ躊躇い、すぐに覚悟を決めた。
辰政の肩を軽くトントンと叩き、路地の奥を指さす。

「辰っあん、こっち」

指さした先には〈この先、抜けられます〉と書かれた看板があった。
辰政が、それを見て眉をひそめる。

「おい、銀。あれは——」

そう言いかけたとき、牛島の荒々しい足音がすぐ近くまで迫っていた。

「隠れても無駄だぞ! 今すぐ出てこい、悪ガキども!」
「くそっ! ほら、辰っあん! 急いで!」

銀次は辰政の腕をぐいと引いたが、辰政は踏みとどまったまま動かない。

「待てよ、銀。この先は抜けられないぞ。ここらじゃ〈抜けられます〉だの〈近道〉だのって看板があっても、たいていは行き止まりか、元の道に戻るだけだ。女たちが客を追い込む仕掛けだよ。ここは、俺が——」

辰政は拳に息を吹きかけ、喜々として来た道を戻ろうとする。
けれど銀次も、今度ばかりは譲らない。ここまできたら意地だ。

「大丈夫。この先に道はある。いいから、ついてきて!」

サッサと歩きだした銀次を見て、辰政は渋々ながら付いて行く。

案の定、先は行き止まりだった。

「ほら、やっぱり——って、うわっ!」

突然、袋小路の壁が、凹凸レンズを覗いたようにグニャリと歪んだ。

そこに現れたのは——細い一本の道だった。

細路の両脇では、鬼灯ホオズキの提灯が並び、チラチラと誘うように揺れている。

「な、なんだ……これは……」

覗きカラクリのように急に現れた光景を見て、辰政は一歩下がった。

「おい、銀次。ここは? こんな道、前からあったか?」

戸惑いを隠せずにいる辰政をよそに、銀次は歩き始める。

「うーん。あるにはあるけど、誰にでも行けるような道じゃないんだ。——そら、ついた」

提灯が導くその先を、銀次は手で示す。そこからはガヤガヤした人の喧噪と、土砂の大通りが漏れ見えていた。

「ここは、浅草の知る人ぞしる裏町うらまち幻燈町げんとうちょうなぁりぃ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...