【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~

郁嵐(いくらん)

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【和風ファンタジー】5話 (2)【あらすじ動画あり】

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【あらすじ動画】 
◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94

◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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「で、何かわかったのか……?」

黙って話を聞いていた辰政が、低く問いかける。
銀次は、ゆっくりと首を振った。

「いや……わからなかった。誰も、兄ぃのことは見てないって」
「そうか……」

重たい沈黙が流れる。
だが、辰政がもう怒っていないことは、銀次にもわかった

辰政に裏町のことを言えなかった理由は、他にもあった。

——眼だ。
辰政の片目は、震災の日に失われてしまった。

あの日、銀次と辰政は火の海の中、必死で逃げていた。すると、焼け爛れた太い木柱が、二人めがけて倒れてきた。

辰政は迷わず銀次を庇い、自分が傷を負った。
右目を焼かれ、医者に「視力は戻らない」と言い渡された。

その時の絶望は、今も銀次の胸に深く刻まれている。

——お互い、助け合って生きていこう。

焼け跡となった花川戸の前で、二人はそう誓った。
その約束どおり、共に生き抜いてきたつもりだった。

だが銀次は知っている。
自分は辰政に守られてばかりで、辰政に何ひとつ返せていないことを。

むしろ、自分がいたから——辰政は眼を失った。

彼の片目を見るたびに、そのことを思い知らされる。

だからこそ、銀次は決意した。

今度こそ、自分が辰政を助ける。
——いや、償いをするのだ、と。

以来、銀次は兄を探す傍ら、辰政の眼を求めて裏町を廻った。

裏町の市には臓器を売る店もあったが、何のモノかもわからないそれを使うわけにはいかなかった。

できることなら、なくした本人の眼を取り戻したい。

そのためには、渡りの商人を探し出さなければならなかった。

だが、渡りの商人は滅多に姿を現さない。仮に会えたとしても、彼らは法外な代価を求める。

それでもかまわなかった。
銀次は、何を差し出してでも辰政に眼を返したかった。

だが、そんなことを辰政本人に言えば、きっとすぐに止めろと言うだろう。
だから、今まで何も言えずにいた。

今になって銀次は、辰政をここに連れてきてしまったことを後悔した。

「——ところで、銀坊」

重たい空気を破るように、陵蘭のゆったりとした声が響く。

「何やら難しい顔をしているところ悪いが、今回の探しモノは何かのぅ。お前さん、そのために来たのだろう?」
「あ……」

すっかり忘れていた。
今日、裏町に来たのは、あの男装の麗人から受けた依頼のためだった。

「ええっと、今日は女の子を探しに来たんだ。紅子っていう——」
「紅子!? それって紅団の紅子か?」

食い気味に聞き返してきたのは、辰政だった。

「う、うん。何でも、数週間前から姿を消してるらしくて……」
「嘘だろう……そりゃ、やっかいだな……」

苦々しい顔をした辰政に、銀次は首を傾げる。

「どうゆうこと?」
「いや、それがな……エンコの不良少年団には、それぞれ所場が決まってる。時々、その縄張り争いで小競り合いはあるけど、今は何とかバランスを保っている。だが、もし最大勢力の紅団の頭領がいないとわかれば、他の団が乗り込んでくるかもしれねぇ。そうなれば、黒団だって巻き込まれる。そういうことだ」

辰政は顔を上げ、きっぱりと言う。

「だから、俺も紅子を探す。それと、清一郎さんもだ」

一拍置いて、辰政は静かに頷く。

「正直、あんまり覚えてねぇんだけど……清一郎さんには、色々と世話になった気がする。恩は返すのが江戸っ子の礼儀ってもんだ。紅子のこともそうだ。紅団がいなけりゃ、地元うちの仲間も何人か路地裏で凍えて死んでた」
「辰っあん……でも……」
「でも、はなしだ。約束しただろ? 俺たちは、何でも助け合うってさ」

銀次は何かを言いかけて、けれど結局、何も言えなかった。

「よし、これで決まりじゃのぅ」

銀次が迷っている間に、陵蘭が勝手に話をまとめてしまう。

「して、お前さんたち。その紅子とやらを探すなら、わてがいい情報を持っておるぞ」
「ちょ、ちょっと待て……!」

銀次は、慌てて陵蘭の口を塞ぐ。

「……ちなみに、そのお代は? 同じ手に何度も乗るほど、うつけじゃないからな」
「なあに、いらんよ。さっきのタダ働きの返礼だ」

本当かなぁっと思っているうちに、陵蘭は話を先に進める。

「あれは二、三日前だったかのぅ。わての知り合いの妖怪のところに不思議な女子おなごが訪ねてきたそうじゃ。何でも、その娘は『べに』と名乗り、髪に赤いリボンを結んでいたとか——」
「「それだっ!」」

銀次と辰政は、声を揃えて陵蘭に詰め寄った。
赤いリボンは紅子のトレードマークなのだ。

「で、その知り合いの妖怪って……?」
「なに、銀坊。お前さんもよく知っている連中だよ。いつも一緒に仕事しておろう?」
「は? 一緒に……?」

銀次は必死に記憶をたどったが、思い当たる節がない。

「わからないかのぅ? ではこう言えばわかるか。——花ちゃん、やーい」

楽しそうに呼びかける陵蘭を前に、銀次は固まった。

「え? 嘘だろう……」
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