【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~

郁嵐(いくらん)

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【和風ファンタジー】7話 (2)【あらすじ動画あり】

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【あらすじ動画】 
◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94

◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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「わかった。辰っあん、あとは頼んだ!」
「おう、任せとけ! ——おい、お前ら!」

辰政は片腕を振り上げ、黒団員に呼びかけた。
その腕で黒数珠が鈍く光る。

「女の尻を追っかけている軟派ナンパ野郎どもに、浅草男の心意気を見せてやれっ!」

ワァァァ!

辰政のときの声とともに、黒団員が一斉に親衛隊へ突っ込んだ。
親衛隊も負けじと「紅子ちゃんのためにっー!」と迎え撃つ。

両者は、派手な音をたてて激突した。


銀次はその喧噪の中を身をかがめ、ひらひらとすり抜けた。
時折、飛んでくる腕を交わし、足払いをかけながら前進する。

無我夢中だった。

ようやく混戦を抜けた時、銀次は一度だけ後ろを振り返る。
通りでは紅黒が入り乱れ、殴る蹴るの大騒ぎだった。

その中心で、辰政が神輿頭のように暴れ回っている。

銀次はそれを確認すると、紅子を追って再び走り出した。

向かう先は——わかっていた。
この先に行くところがあるとすれば、あそこしかない。


紅子は、花屋敷を少し行った先の空き地に立っていた。

十二階跡。
震災後、十二階の残骸は爆破され、今はただの空き地になっていた。
かつて「西洋由来の最高峰の建築」と謳われた建物の影は、ひとかけらも残っていない。

銀次は静かに歩み寄る。

「紅子……だよな?」

声をかけると、少女は感情のない瞳でこちらを見た。

「えぇ、この姿の時はね」
「この姿……? どうゆうことだ?」
「気づいているでしょう?」

紅子は小首を傾げる。その仕草は、カラクリ仕掛けの人形そっくりだった。

「紅子も変装の一つなの。ただ私の場合、魂ごと変えるから、姿や性格も入れた魂によって変化する」
「魂……?」

銀次は彼女が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

「——人形なのさ、その女子おなごは」

そのとき、銀次の袖から白い蛇がするりと這い出る。
陵蘭だった。

「この女子には、魂がない。普通、この状態になった者は気が狂って、やがて死ぬ。だが、そうはなっていないということは、大方、他人の魂を喰って生き延びているのだろう」
「他人の魂…⁈ じゃぁ、紅子も妖怪ってこと⁈」

銀次は信じられない思いで紅子を見た。
目の前の少女は可憐そのもので、魂をとって喰らう化け物には見えない。

銀次の動揺を感じたのか、紅子はふっと笑った。

「残念だけど、私は人間よ。一応ね」

紅子の声は、どこまでも乾いていた。

「確かに他人の魂をもらってる。でも、ほんの欠片だけ。小さな記憶や感情。それだけで充分なの。……けれど、欠片だから消耗も早い。そのたびに、私は魂を入れ替えなきゃいけない。姿や性格が変わるのは、その副作用よ」

ふと銀次は、あることに気がついた。

「じゃぁ、紅団員は——」
「そう、紅団員なんていない。全部、私の変装なの」

紅子は自らの胸にそっと手を置いた。

「浅草紅団の頭領・紅子という人格は、私が初めてもらった魂。でもこれは本物の人間の魂じゃない。紙の上に創られた、架空の人物の魂なの」
「紙の上……?」
「そう。だからこそ、長く持っている。……そして、私自身、この紅子が一番しっくりきてる」

銀次は、ごくりと息を呑んだ。

「長く……? じゃぁ、君はずっとこんな…?」

無表情のまま、紅子は首を振る。

「いいえ。私も以前は普通の娘だった気がする。こんな風になったのは、あの震災から——」
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