77 / 78
25話(3)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
しおりを挟むーーーーーーーーーーー
■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー
──四年後。
「ついに完成しましたね」
色とりどりの花が咲き乱れる庭を見ながら、藤若は隣に立つ人物に話しかけた。
「えぇ。巷の人たちは、ここを『花の御所』と呼んでいるそうよ」
高橋殿は、広大な新御所を誇らしそうに眺めた。
皇居の二倍もある御所には珠玉や金銀がちりばめられた甍(いらか)が輝き、庭には諸大名から献上された名木名花がところ狭しと植えられている。
「花の御所、ですか?」
「えぇ。雅やかな名前よね。何でもここが室町通りにあることから、大樹様の治世は室町幕府と呼ばれているとか。あ、そうそう。御所といえば、最近、変な噂を聞いたのだけど」
高橋殿が藤若に顔を近づけ、こそっと耳元で囁いた。
「どうやら近頃、御所の周りで夜な夜な、美しい稚児が化け物退治にまわっているらしいわよ。助けられた人が何人もいるとか。藤若殿は、この噂をご存じ?」
上げられた高橋殿の顔には、茶目っ気のある微笑みが浮かんでいた。
六条御息所の花鬼と約束してから、藤若は良基が紹介してくれた術師について花鎮めの修行をしていた。今では、花鬼のみならず御所の周りに出没する物の怪も、藤若が退治している。
高橋殿も、そのことは知っているはずだが……。
「ふふ」
と、高橋殿は口元を押えた。
「ごめんなさい。貴方を見ていると、ついからかいたくなっちゃうのよ。この四年間、大樹様の寵愛を独り占めしているのだもの。嫉妬もしちゃうわ」
高橋殿はあっけらかんと言った。そこには、何の他意も感じられない。
四年前。六条御息所の花鬼事件のあと、高橋殿は責任をとって義満に暇を乞うた。
「こんなことをしでかしてしまった以上、もう貴方様のお側にはいられません」
そう言う高橋殿に、義満はきっぱりと告げた。
「お前ほど強い女が、俺から逃げるのか」
傍らで聞いていた藤若は、あんまりだと思った。
義満の周りには、これからも多くの人たちが集まってくるだろう。高橋殿はいつか自分の居場所を取られるかもしれない恐怖に耐え、我慢していかなければならないのか。
たとえどんなに強い女でも、それでは壊れてしまう。
心を決して意見しようとすると、
「言いましたね」
高橋殿が毅然と顔を上げた。その瞳には、揺るぎのない光が宿っていた。
「ならば、私はこれからも大樹様のお側におりましょう。大樹様と藤若殿が未来を賭けて競っているように、恋いも戦いです。この先、私はいかなる恋の炎に焼かれ続けようとも、貴方様が去れというまで去るつもりはありません。覚悟しておいて下さい。もしかしたら、焼かれるのは貴方の方かもしれない」
凄絶なまでの艶をまとった笑顔に、義満は参ったと言うように手を上げた。
「あぁ、覚悟はしているさ」
藤若には、この二人のやりとりの意味がよくわからなかった。
しかしそれ以来、高橋殿は全てがふっきれたように、以前と変わらず義満に仕え、稚児や妾の世話までしていた。
「辛くはないんですか?」
と一度、尋ねたことがある。すると高橋殿は、
「もう側にいられるだけで十分なの。私の中にあった憎しみや嫉妬の心は、あの鬼が連れていってくれたみたい。そもそも恋の戦いなんて、好きになってしまったら、もうそこで負けみたいなもの。それで言ったら、私は完敗ね」
と言って、少し寂しそうに笑った。
「高橋、ゼア。こんなところにいたのか」
束帯(そくたい)に身を固めた義満がやってきた。
今日は新御所、室町第の完成を記念した祝賀会が催される。普段ならめったにお目にかかることのない公家の人々や、一国の大名まで来ている中、弱冠二十二歳の将軍は誰よりも光り輝いていた。
「ゼア、準備はもう終っているのか」
義満は、訝しげに庭の一画に設けられた舞台を見た。
義満の計らいから、これよりそこで祝賀の申楽が披露されることになっているのだ。
舞台を取り囲むように作られた桟敷には、色鮮やかな着物を着た貴族や大名が待ち遠しそうに談笑している。
義満が、どんと肘で藤若を小突いた。
「さあさ、いつまでもこんなところで油を売っていないで行け。今日は公家の者たちも多く来ている。申楽が卑賤(ひせん)の芸ではないことを示す絶好の機会だぞ。そんなに悠長にしていてどうする」
「ご心配なさらず。この日のために、父上からみっちり搾られましたから。それより大樹様はいいんですか? ここで成功すれば、僕が勝利に一歩近づく」
ふふんと義満があざ笑った。
「何を言っている。この式の真の目的は、新御所の造成祝いでも、申楽の新作のお披露目でもない。俺の官位昇進を祝ったものだぞ」
この度、義満は権大納言(ごんだいなごん)、右近衛大将(うこんえのだいしょう)に官位を上げた。武家の者としては異例の早さである。これにより、義満は天皇の践祚(せんそ)すら決定できるほどの絶大な権力を持つこととなる。近頃では、義満の家臣たちも「そろそろ南北朝合一も近いだろう」と噂しているほどだ。
0
あなたにおすすめの小説
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる