聖女様は貧乏性

ぶらっくたいがー

文字の大きさ
2 / 27

第1話 異世界へ

しおりを挟む
「姉ちゃん、お弁当できたよ」
「うん、ありがとー、いってきまーす」

悠里からお弁当を受け取り、私はバイトに出かける。

お父さんがいなくなって1年がたった。

頼れる親戚もおらず、貯金もそれほどないため
私は高校をやめて、家計を稼ぐためバイトを始めた。

悠里も朝は新聞配達をするようになった。
中学を卒業したら働くと言っていたがそれは止めている。

「いい悠里?男の子はね、一流の大学を出て、
 一流の会社に入ってお金をいっぱい稼ぐように
 努力しないといけないの、それが義務なんだからね、めざせ年収1000万。」

そんな義務はないのだけど、さすがに中卒だと就職先も限られてくるし、
家計が原因で悠里の将来を閉ざしたくない。
母さんも働くと言い出したが、体の弱い母さんを働かせるわけにはいかない。
倒れるのが目に見えている。

「かぐやもはたらいて、おかねをかせぐの!」

輝夜も働くと言いはじめたが、さすがに小学生が働ける場所はない。
輝夜はものすごくかわいいし、
頭もすごくいいので芸能界で子役として働けるかもしれない。
でも、お金を稼ぐために小学生の輝夜に働かせるなんて、
そんなことお姉ちゃんであるこの私が許すはずがない。
だから…私が働くしかない。



「お疲れ様でしたー」

今日の最後のバイトであるスーパーのレジ打ちのバイトが終わった。

「光姫ちゃんお疲れ様、これが今月の給料だよ。」

店長がバイト代を手渡ししてくれる。
私はその場で中身に間違いがないか確認を行う。
お金の確認は大事です。

明細と差異がないことを確認していると

「ああ、それから今日はこれを持って帰っていいよ」

売れ残りのお惣菜等だ。

「店長、いつもありがとうございます。」

売れ残りが出るのは店としてはあまりよろしくないのだろうけど
前に売れ残りを持って帰りたいと店長にお願いしたら

「いいよ、どうせこの後捨てるものだしね、
 好きなだけ持っていっていいよ、でも賞味期限は気をつけてね」

と、気にしないで持って帰ってかまわないと笑顔で言ってくれた。
だから、ここのバイトが大好きです。




時計の針は午後11時を指している。

(輝夜はもう寝たかな?母さんと悠里は私が帰るまで起きてるんだろうな。)

自宅への帰り道、そんなことを考えていた。
信号待ちで足を止めてふと夜空を見上げると、
今日は満月だったはずなのに月が欠けていた。

(そういえば、今日って月蝕だったかな、ニュースでやっていた気がする。)

少しの間夜空を見上げていると、完全に月が隠れた。

(いけない、何をやってるんだろう、早く帰らないと心配をかけちゃう)

我に返り、自宅へ向けて歩き出そうとしたそのときだった。
突然足元が光り始めた。

「え?なにこれ…?」

光が消え去ったとき、その場所には誰もいなかった。




「聖女様だ、聖女様の召喚がなされたぞ!」

光に包まれている中、私に聞こえてきたのはそんな声だった。

光が収まり、辺りを見渡すとそこは私の見知らぬ場所だった。
なんだろう、テレビでしか見たことのないお城や宮殿の中のような場所だ。
天井には煌びやかなシャンデリア、壁には大きな絵画がかけられており、
足元は大理石に文様のようなものが刻まれている。
そして、見知らぬ見たことのない服装に身を包んだ人たちに囲まれていた。
髪の色、目の色、顔立ちからして日本人とは思えない。
中には鎧を着ている人もいて、でも流暢に日本語を話している。
それが私を余計に混乱させていた。

「あの…ここはどこですか?」

おそるおそる尋ねてみると、金髪碧眼の王子様って感じの
容姿の整った男の人が私の前に進み出てきた。

「ここはフェルタニア王国です。ようこそ召喚に応じてくださいました聖女様。
 我々フェルタニア王国一同はあなたを歓迎します。」

フェルタニア王国?聖女?なにそれどういうこと?

「申し遅れました、私はフェルタニア王国第一王子、
 ランスロット・エルトザール・フェルタニアと申します。」

王子様っぽいとか思ってたら本当に王子様だったー、ってどういうことなの?
混乱している私の前に、にこりとやさしそうな笑顔を浮かべながら王子様がひざまづく

「聖女様、あなたのお名前をお教えいただける栄誉を私にいただけないでしょうか?」
「え…?あ、はい、私は茜坂光姫です。光姫がファーストネームです。」

さっきから言われている聖女ってなんだろう…?私のことを指してるようだけど。

「ミツキ様」

私の名前を呼び、王子様は私の手を取り甲に口付けをする。
って、なにしてるのー!?

「どうか、フェルタニア王国を、我々の世界をお救いください」

王子が説明するところによると
この世界は徐々に瘴気というものに侵され、
生物の生きることのできない地が増えていっているという。
その瘴気を浄化できるのは聖女だけであり、聖女は異世界からの召喚でのみ現れる。
その召喚で聖女として呼び出されたのが私ということだそうだ。

私がこの世界が異世界であることをにわかには信じられずにいると
この世界が異世界であるという証明に、シルフという小さな妖精をつれて来た。
羽の生えた30cmくらいの少女の姿をした妖精だ。
確かに、この妖精は地球にはいないだろう。

私を呼び出した経緯は大体わかったし、ここが異世界であることも納得した。
でも、私が気になっているのはそこじゃない。

「あの、ところで私は元の世界に戻れるのでしょうか?」

今、私が一番気になっているところだ。
聖女になって人助け?そのお礼でお金がもらえるなら何の問題もない。
世界を救うとか大それたことは思わないけど、
人助けをしてお金がもらえるなら、なんてすばらしいことなんだろう。
けど、問題なのはそこじゃない、いくらお金があったって
お母さんが、悠里が、輝夜が、
大切な家族がいない世界でお金持ちになったって意味がない。

私のその質問に王子は沈痛な面持ちで答えた。

「申し訳ありません、我々にはミツキ様を元の世界に戻す術はありません」

戻れないの?もう二度と家族に会うことはできないの?
どうして?お母さんは働ける体じゃないんだよ
悠里はまだ中学生で、輝夜にいたってはまだ小学生なんだよ。
いま、私がいなくなったら残った家族はどうなるの…?

そこから先のことはよく覚えていない
泣きじゃくった私は侍女に連れられ寝室に案内されたようだ。
寝室に入っても、私は泣いていた。

『我々の世界をお救いください』

別に救うのはかまわない、私の手で助かる人がいるというのなら喜んで手を貸す。
けど、それは私が、私の家族が犠牲にならないという前提の話だ。
私にとって一番大事なのは家族がそろって幸せになることだ。
よく知らない世界を、他人を救うことじゃない。


この世界が、私の家族が犠牲にならなければ救えない世界だというのなら

滅んでしまえ、こんな世界
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...