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第五章:オルグの潜む遺跡

第20話 オルグの潜む遺跡

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「本当にデュラハンを討伐したのですかっ! あっ、ワンニャン!!」


 ローラン村のデュラハン討伐を終えて村の歓迎を受けた翌日、チャンス達はセブンブリッジの冒険者ギルドへと戻り、依頼達成報告を行った。

 報告を聞いた冒険者ギルドの受付嬢であるベスティアは思わず語尾を忘れて叫んでしまう。


 ベスティアが叫ぶのも無理もない、冒険者ギルド側の常識としてはデュラハンを討伐できるのはゴールドクラスが必要だ。

 ところが登録したてのカッパークラス一人とアイアンクラス3人で死人も出さずに討伐できたのだから叫びたくもなるだろう。


「ああ、確かにデュラハンはチャンスが倒した。そいつは俺達兄弟が保証する!」

「ローラン村の村長も依頼達成を認める一筆書いてある。虚偽の達成報告じゃないぜ」

「お二方が言うなら信じますワンニャン。ところでどうやって討伐したワンニャン?」


 ギルドに残っていた冒険者たちも聞き耳を立てる。カッパークラスが一人とアイアンクラスが三人で欠員も出さずに討伐できた方法だ。再現できるなら自分たちも取り入れたいと思うだろう。


「望郷の—――むぐっ!?」

「どうしても聞きたいなら情報料。生きて帰れたといっても命がけだったのには変わりない。ちゃんと対価貰わないと教えられないよ」

「チッ……マトイちゃんはしっかりしてるねワンニャン。じゃあ会議室用意するから、そこで報告して、報告内容に応じて情報料出すワンニャン」


 チャンスが討伐方法を教えようとしてマトイに口を塞がれてしまう。

 マトイが情報料を求めるとベスティアは小さく舌打ちして、会議室を用意する。

 ベスティアとマトイのやり取りを見て聞き耳を立てていた冒険者たちも諦めて自分たちのチームの輪に戻ったり、酒場へと向かう。


「別にあそこで教えてもいいと思うけど……」

「あのねチャンス、僕たち今回報酬ほとんどないんだよ。ショーンのご両親が出してくれたけど、あまり低い報酬で依頼受けてると冒険者全体の迷惑になるんだからね!!」


 ぼそりとチャンスが呟くとマトイが食って掛かる。マトイが言うにはチャンスのように安請け合いすると冒険者に払う報酬の相場が下がってしまうらしい。


「ほかの冒険者から余計な恨みを買わないためにも、正当な評価と報酬を受け取る! わかった?」

「まっ、前向きに鋭意努力する所存でございます……はい」

「デュラハンを討伐したチャンスでも女にはかなわねぇみたいだな、ヒャッハ」


 会議室へ向かう途中チャンスはマトイから説教を食らい、二人の様子を見てモヒカン兄弟は和やかに微笑む。

 会議室はギルドの二階にあり、今回案内されたのは部屋の中央に円卓が置かれた会議室だった。


「それじゃあ、さっそく報告してほしいワンニャン」


 ギルド職員であるベスティアが羊皮紙を広げて、どうやってデュラハンを討伐したか聞き出す。


「なるほどなるほど、望郷の鏡という魔法の道具で太陽の光を作り出して浴びせることでデュラハンを弱体化させたわけねワンニャン」

「ああ、チャンスのファルシオンも魔法の武器だったおかげで何とか倒せたってわけさぁ、ヒャッハー!」


 調書を取り終えたベスティアは羊皮紙を丸めていったん出ていく。しばらくして木製の盆に小さな革袋を人数分乗せて戻ってくる。


「お待たせだワンニャン。情報料として一人銀貨十枚の支払い許可が出たワンニャン」


 モヒカン兄弟は中身を確認せずに革袋を受け取って懐にしまう。マトイはその場で枚数を数えて十枚あることを確認するとにっこり笑って懐にしまう。


「今回は助かりました」

「はは、おれたちゃあんまり役立てなかったがなぁ……また困ったことがあればいつでも頼れよぉ、ヒャッハー!」


 依頼完了の処理を終えてギルドを出るとモヒカン兄弟と別れ、チャンスとマトイはダーヴィスの屋敷へと戻った。

 ダーヴィスの屋敷に戻る頃には夕食の時刻となっており、チャンス達はダーヴィス一家と共に夕食をとる。


「今日はいい魚が入ったのよ」


 魚介のトマト煮、貝のワイン煮、白いパン、焼いたキノコと野菜のサラダが食卓に並ぶ。


「はっはっは、ハニーの手料理はいつも最高だね」

「んもう、ダーリンったらぁ」


 ダーヴィスはアミンの手料理に舌鼓を打ち、腕前を誉める。アミンはダーヴィスに抱きつき、二人の世界に突入する。一方チャンスは無心になって料理を食べていた。


「僕、お金貯めて宿探すよ……」

「慣れないならそれもいいかも?」


 翌朝、またぐったりしたチャンスは近いうちにダーヴィスの屋敷から出て宿を借りることを決意する。


「よぉ~、チャンス! ちょっとこっち来てくれ」


 冒険者ギルドにたどり着くと酒場になっているエリアでモヒカン兄弟が手を振って声をかける。

 チャンスがモヒカン兄弟の方を見るとテーブルにはモヒカン兄弟と一人の女性がいた。


(どう見ても、素行の悪い冒険者が女性冒険者に絡んでいるように見えるなぁ……)


 そんな感想をチャンスは抱きながら手招きしているモヒカン兄弟の元へ向かう。


「チャンス、お前手空いてるか? 手が空いてるならちょっとこのねーちゃんが受けたオルグ討伐依頼、俺達と一緒に手伝ってやってくれないか?」

「理由聞いてもいい?」


 モヒカン兄弟は同席している女性を指さし、依頼を手伝ってくれないかと聞いてくる。

 チャンスが口を開く前にマトイが理由を聞きだした為、チャンスは改めて女性の姿を見る。

 ウィンプルで髪を隠し、黒いローブ姿の女性。見える範囲の肌の色は青白いほど色白で、唇はぷっくりとしたアヒル唇で、ルージュを塗っているのか赤く、深紅の濡れた瞳にハニーブロンドの眉毛をしている。

 首には梟の頭部をあしらったペンダントを下げており、武器らしい武器は見当たらなかった。


「彼女の名前はエリザベート、最近南の国コレリアから来た冒険者なんだが……一人で依頼受けようとしてなぁ」

「あー……そういうこと……」


 モヒカン兄弟の兄モヒが大まかな事情を説明し、マトイが納得したようなリアクションを返す。

 チャンスとエリザベートと呼ばれた女性だけが理解していないのか、戸惑った表情を浮かべた。


「セブンブリッジ……というかよぉ、ナブー王国の冒険者は可能な限りチームを組んだり複数で活動することが推奨されてるんだぜぇ。あと、ナブーじゃソロで活動する冒険者はハグレと思われちまう」

「ハグレ……ですか?」

「おう、ハグレっていうのはだな……」


 弟のカンがチャンスとエリザベートにハグレについて説明する。

 ハグレとは仕事を探す時だけ、一時だけのチームを作ったり。 急ぎの時には、何処かのチームに入ったりする基本的に固定のチームメンバーなどがいないソロの冒険者をさす。


 このハグレというのはいい噂や話が少ない。

 例えば、特に有名なのが分け前に煩く、自分勝手の利己主義な者か。

 依頼を請けた後、仕事をする中で誰が役立ち、誰が不必要だったかを並べて。

 自分がちょっとでも貢献しているならば、余り存在が要らなかった者の分の報酬を自分に寄越せ、と強情に主張するので在る。


 こうゆう場合は、この一時的に加わる者が、自分で遣りたい依頼を持ち掛ける事が多い。だから、持ち掛けた者が情報を多く持って居れば、この言い分を通す事が出来るとか。

 他にも、チームに入るまでは、大人しくして見せて居ながらいざ、依頼を受けて旅立てば、チームワークもクソも無く。腕の有る者と未熟な者に違う対応をして、内部分裂を引き起こす者も居る。


 所詮は、冒険者も実力の世界で在る事には、何ら変わりない。有能な者を集めてチームを作ろうとする、そんな狡猾な者が居るのだ。ま、こうゆうチームの末路は、良くて解散。悪ければ、全滅と云う。極端な事が多い。


 他に聞く酷い話では、実力を付け始めたチームを妬み、仕事を台無しにさせて一人で逃げた……なんて話もある。


 地元に生活基盤を持たず、各国の冒険者ギルドを流浪して回る冒険者は、ハグレと呼ばれ、この手の一人者は、どこに行っても敬遠される。

 然し、全ての流れ者が、全て悪い訳でも無い。 良いチームに巡り会わない、とか。何らかの理由で心に傷を負い、一つのチームに長居しない者も、中には居る。


「因みに、地元に生活の基盤を持ち、必要な時だけ冒険者をする奴をナブーでは根降ろしって言ってる。一般的に結婚した者や農業や漁業等、主だった家業が在る者だ。仕事の切れ間だったり、季節の変化で暇となって収入を求め、一時的に冒険者やってるやつらさ」

「へえ、そうなんですか。詳しいですねえ」


 チャンスが素直に称賛するとカンはそっぽ向いて木製のジョッキの中身を呑み照れ隠しをする。

 エリザベートも声には出さないがなるほどといった様子で頷いている。


「どっちにしろ、一人で依頼を受けるのはよろしくねえし、姉ちゃんもこれからここで活動するなら、知り合い増やして損はねぇだろ? どうだ?」

「ちょっと待って、彼女が受けた依頼内容聞いてから、僕達も手伝うか決めるから」


 なし崩しにエリザベートが受けた依頼を手伝う流れになりかけていたのをマトイが止める。


「私が受けようとしてたのはこれです」


 エリザベートがテーブルに一枚の羊皮紙を広げる。

 羊皮紙にはホップ村と呼ばれる村の近くに枯れた遺跡があり、その遺跡にオルグと呼ばれるモンスターが住み着いて農作物や家畜に被害が出ている為、討伐を依頼する旨が書かれていた。


「ふむふむ、報酬は成功報酬だけど、一人頭金貨5枚、オルグの首一体につき全体報酬で銀貨3枚か……悪くはないね」

「だろ? 俺たち自身も受けたかったというのもあるが、さすがにこのねーちゃん一人で行かせるのはちょっと荷が重いと思ってな、声をかけたんだわ」

「僕はエリザベートさんでしたっけ? 彼女が承諾するなら手伝いますよ」


 チャンス達全員の視線がエリザベートに注がれる。エリザベートは少し困ったような悩む仕草をしたあとため息つく。


「ここで皆様と出会えたのもクロト様の導きかもしれません。もしよろしければご協力お願いできませんか?」

「おーっし、決まりだな。改めて自己紹介するぜ、俺の名はモヒ、こっちは弟のカンだ。」

「よろしくな、ヒャッハー!」

「僕はマトイ」

「ラスト・チャンスと申します。よろしくお願いします」


 チャンス達はエリザベートとチームを組み、枯れた遺跡に潜むオルグ討伐に向かうことになった。
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