記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作

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第五章:オルグの潜む遺跡

第23話 疑惑

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「ボンララゴギヅヅギデジャス!」

「くっ……何言ってるかわからねえし、臭い息吹きかけんじゃねえ!!!」


 二丁の斧と角の生えた髑髏の装飾された鈍器で鍔迫り合いをしているモヒとベルグ。

 ベルグの方が力が上なのか徐々に押し込まれて膝をつくモヒ。だが、不意にベルグの力が緩む。

 何が起きたかベルグの様子を見れば、ベルグの両わき腹に太いダガーが刺し込まれていた。


「僕、こう見えて近接も得意なんだよ」


 いつの間にかモヒと対峙していたベルグの背後にマトイが忍び寄り、両わき腹から胸骨の隙間を滑り抜け、肺と心臓を一突きして命を奪っていた。


(いつの間に忍び寄った? いや、それより慣れたように心臓を一突きだと? まるで暗殺者じゃないか……)


 モヒはマトイの奇麗すぎる手際に驚愕して生つばを飲み込む。マトイはそんなモヒの視線に気づき、何?と言いたげな顔でベルグの心臓を刺したダガーを抜いて血のりを振り払う。


「皆と合流するよ」

「お、おう……」


 マトイはモヒの思惑など気づいた様子もなく、そのままエリザベードの元へ向かう。


「兄者! 無事か!?」

「おう、マトイの嬢ちゃんに助けてもらった。加勢するぜ!!」


 モヒは弟のカンに助成しに向かい、調度品を振り回すベルグの背後に回り込む。

 兄のモヒと弟のカンの間にベルグを挟み対峙する。ベルグはグルルと唸り声をあげて警戒している。


「行くぞ、カン!」

「おう、兄者っ!!」


 その掛け声が合図となってモヒとカンはベルグに向かって駆けだす。ベルグは同時に駆けだしたモヒカン兄弟のどちらを狙うか一瞬戸惑い、兄のモヒに向かって調度品を振り回す。


「ヒャッハーッ!!」

「ギャガッ!?」


 モヒはベルグの攻撃をスライディングで回避してベルクの股の間を通り抜ける。

 通り抜ける際にベルグの太腿に斧を撃ち込み、ダメージを与えた。

  太腿を斧で斬られたベルグは悲鳴を上げて膝をつく。そのベルグの背後には鋲付きの鈍器を両手に持って大きく振り上げたカンがいた。


「ヒャッハー!!」


 奇声を上げてカンが鋲付き鈍器をベルグの後頭部に振り下ろす。ベルグは地に落ちて弾ける石榴のように頭を割られ、脳みそや衝撃で飛び出した目玉が飛び散る。


 一方エリザベートと対峙していたベルグはボロボロだった。体中痣だらけで、顔はぼこぼこに腫れて、歯は折れ鼻血が流れ続けている。


「ボッ……ボンブゴゴンバ……ガアアッ!!」


 ぜえぜえ息を切らしながらベルグは何か喋り、体格差を生かして組み付こうとする。


「それは悪手ですよ」


 エリザベートは慌てた様子もなく半歩踏み込み、打ち上げるような掌底をベルグの顎に打ち込む。

 血反吐とまた数本折れた歯が空を舞い、顎を打たれたことで脳震盪を起こしたベルグは意識が遠のく。


「せいっ!!」


 エリザベートはそのままベルグの腕を掴むと合気道の四方投げのように自分の体格よりも大きなベルグを投げ飛ばす。


「マトイさん!」

「んっ!!」


 加勢に向かっていたマトイの存在に気づいていたのか、エリザベートはマトイの名前を叫ぶ。

 マトイは短く返事をすると新しいダガーを錬成しており、アイスピックスタイルと呼ばれる刃先を下に向けたナイフの持ち方で投げ飛ばされたベルグの喉と頸動脈を斬り裂く。

 ぱっくりと開いた傷口からぴゅーっと粗悪な笛のような空気の抜ける音と共に噴水のように血が噴き出し、廃墟の床を赤く染め上げていった。


「チャンスは?」


 マトイがチャンスの方に視線を向けるとチャンスの双剣の舞は終局を迎え、対峙していたベルグはチャンスという名の死神との舞踏によって全身刀傷による満身創痍だった。

 チャンスがフィニッシュを決めるようにステップを踏み、クロスを描くようにファルシオンを振り下ろす。一拍間をおいてベルグの胸から血が噴き出し崩れ落ちる。


「今終わったよ」


 チャンスは双剣のファルシオンを納刀してマトイに笑顔で答えた。



「ここはオルグ達の寝床になってたみたいだね……え、なにこれ」


 オルグ達を倒したチャンス達は小休憩を取り、探索を再開する。

 マトイが家探ししていると何か発見したのか、驚いた声を上げる。


「マトイ、どうしたの?」

「チャンス、これ見て。オルグ達が寝てた場所だと思うんだけど」


 マトイが指さすのは衣類の山。おそらくオルグ達の寝藁代わりにされていたのだろうか、少々獣臭いが絹や更紗、ビロードといった高級生地で作られている衣類が無造作に山積みされている。


「おい、こっちを見ろよ。お宝がたっぷりだぜ、ヒャッハー!」


  別のエリアを探索していたモヒカン兄弟は金銀宝石の装飾品を両手に抱えて戻ってくる。


「あれ? たしかここって枯れた遺跡じゃ……?」

「ん~? 実は枯れていなかったとか? 別にいいじゃん、損するわけじゃないし」


 戦利品を見たチャンスが疑問を口にする。マトイは気にした様子もなく、衣類から価値のありそうなものを厳選し、双子の小人亭の殺人事件で手に入れた便利な物入れ袋に収納していく。


「そういうこった。ま、これまできた冒険者が間抜けだったってことよ、ヒャッハー!」

「私もそこまで気にすることではないと思いますが……」


 モヒカン兄弟もエリザベートも特に気にした様子もなく、チャンスも深く考えすぎたかなと思い始めた。


 家探しを再開し、モヒカン兄弟がオルグ達の食べ残しや排泄物を見つけてしまい悲鳴を上げたり、マトイが別件でこの遺跡を探索してオルグに殺されたと思われる冒険者の白骨死体など見つけていた。


「ん?」


 パラパラと砂が零れ落ちる音が聞こえ、チャンスは天井を見上げる。先ほどの激しい戦闘のせいか、それとも長い年月による老朽化か、エリザベードの頭上の天井に罅が入り崩れ落ちそうになる。


「あぶないっ!!」

「え? きゃっ!?」


 天井が崩れ落ちることに気づいたチャンスはエリザベートを抱き抱えて飛びのく。とっさのことで油断していたのかエリザベートは短い悲鳴を上げる。

 間一髪、その言葉が似合うようにチャンスがエリザベートを抱き抱えて飛びのいたと同時に天井の瓦礫が崩れ落ちてくる。


「エリザベートさん、大丈……夫?」

「あ、ありがとうございます。チャンスさん、お怪我を……おお、“静かなる夜の狩人”クロト・シュタットよ、その偉大なるお力をお借りし、この者の傷を癒したまえ……軽治療」


 チャンスはエリザベートに声をかけるが、怪訝な表情を浮かべる。

 エリザベートはチャンスのその表情には気づかず、崩落時の瓦礫で切ったのか、こめかみから血を流しているチャンスの傷口に手を添えて呪文を唱えるとエリザベートの手が暖かい光に包まれ、チャンスの傷を治す。


「あ……ありがとう」

「どういたしまして」

「二人ともさっさと離れる。また崩れるかもしれないからもう出よう」


 マトイがチャンスを起こし、強引に引っ張ってエリザベートから引きはがす。チャンスは引っ張られながらちらりとエリザベートを見る。


 チャンスがエリザベートを抱き抱えた時、自分の手がエリザベートの肌に触れた時に違和感を感じた。


(体が異様に冷たかった……まるで死体みたいに……)


 エリザベートの肌は生きている人間の体温が感じられなかった。


 一方エリザベートは自分の手のひらについたチャンスの血を見つめていた。

 怪我を治す際に傷口に手を添えた時に付着したチャンスの血。エリザベートはそれを見つめて、ゆっくりと口元に近づけさせ、ぬらりと濡れ光る舌を伸ばす。


「あ、ん……あ……んん……」


 べちゃりとチャンスの血をじっくり味わうように舐めとり、ゆっくりとその甘露を味わうように声を漏らし、ごくりと飲み込む。


「はぁ……」


 極上の酒に酔いしれるようにエリザベートは甘い吐息を漏らし、残りの血も舐めとる。

 エリザベートはうっとりとした表情でチャンスの背中を見つめ……はっとした顔で我に返ると胸元でローブを握り締め、悲痛な表情を浮かべる。


 まるで……先ほどの血を舐めとる行為を悔恨するように……
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