記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作

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第六章:扶桑騒乱

第31話 カゾクノカタチ

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「お初、おめにかかります。私の名は、アズラエル。父上と母上の――」

「父上? 母上?」


 チャンス達が泊まる宿屋の食堂。チャンスとユイ以外のメンバーが夕食をとっていると、アズラエルと名乗る中性的な顔立ちの少女がいきなりやってきて自己紹介を始めた。


 テーブルにいた面々が『え? 誰、この子?』と言いたげなきょとんとしている中、マトイが疑問を口にする。


「はい、父上はラスト・チャンス、母上はユイ! あなたはおふたりの仲間と聞いております――」

「ぶえ!? ゴホッゴホッ……おぶっ、おふたりの!? こんなに大きなお子さんが!?」

「落ち着こう、エリザベート、深呼吸」


 アズラエルの爆弾発言にエリザベートは果実水が器官に入ったのか咽て、マトイが背中を叩いて落ち着かせる。


「いやいや、いくらなんでも数日で子供はここまで大きくならんだろ?」

「それ以前に、数日で子供ができぬわ! たわけっ!!」

「? なのか?」


 富貴が手を横に振りながら突っ込み、吉比姫がそれ以前の問題だと富貴の頭を叩いて突っ込む。


「あーもう、どう話そうか悩んでいる間に……」

「? 何か、段取りが必要でしたか? 父上」


 宿について仲間たちがいる場所を指さした途端、アズラエルが走り出し、チャンスが止める間もなく自己紹介を始めてしまった。

 チャンスが頭を抱えているとアズラエルは無邪気に小首をかしげる。


「あー……ウン」

「なるほど、それは失敬」


 チャンスは怒るに怒れず、がっくりした様子で頷き、アズラエルは深々と頭を下げて謝罪する。


「これには、ちょっと込み入った事情が、うん……」

「母上!」


 遅れてユイが合流するとアズラエルが笑みを浮かべて甘えるようにユイを母上と呼ぶ。

 チャンス達から漏れ聞こえる話し声に聞き耳を立てていたほかの客がユイを見て『え? あれが経産婦? 通報案件?』と同テーブルに座る仲間たちとぼそぼそ相談しあっている。


「……人間じゃないでしょ、その子」

「!?」


 マトイがアズラエルを睨んでそう告げる。

 アズラエルは自分を睨むマトイの瞳の色が黒から紫に変わったことに気づき怯える。


「あ、大丈夫。何にもしない」


 マトイがそう言うと、マトイの瞳は元の黒に戻り、アズラエルにほほ笑む。

 だが、アズラエルはマトイに怯えてチャンスの後ろに隠れる。


「……嫌われちゃった?」

「あー、とりあえず、説明させてくれる?」


 怯えて隠れるアズラエルを見てマトイは小首をかしげ、チャンスはグダグダの空気を入れ替えようと説明を始める。


「君、式神なの?」

「はい!」


 チャンスとユイが受けた依頼で式神としてアズラエルが生まれた事を説明するチャンス。

 マトイがアズラエルを見ながら本当に式神なのか問えば、アズラエルは誇らしげに返事を返す。


(受肉できるレベルでの存在確立? あり得……るか? 陰陽術の基本は太極図、陰と陽――男と女……いやいや! それでもこれは異常じゃぞ、これはっ!?)


 吉比姫はチャンスの説明を聞いて思案する。理論上はアズラエルが受肉して生まれることはあり得る。だが、確率論で例えるとその成功確率は那由他に一つともいえる途方もない確率であることに驚愕し、アズラエルを見る。


「そうだったのですか、驚きました……まさか、お二人がいつの間にそんな事に、と……」


 エリザベートは何を想像したのか、頬を赤く染めてコホンと咳払いしながらチャンス達の事情を聴いてほっとしている。


「……チャンス、背負いすぎ」

「自覚はあるよ……ただ、ほら、こう……生んだ責任ってもんがあるし……?」


 マトイは呆れた顔でチャンスを見る。チャンスは親に悪戯が見つかった子供のような顔で必死にあれこれ言い訳しようとあたふたしている。


「ユイも?」

「あ、いや、せっかく産まれたんだから、ほら、ね!?」


 マトイがユイの方を向けばユイもチャンスと同じくあたふたしており、出会った当初の無口でクールなイメージは星の彼方へと消え去っていた。


「ご、迷惑だった……でしょうか?」


 チャンスとユイの様子を見たアズラエルが涙をこらえながら質問する。


「ふ、あ……ッ」


 チャンスは微笑みながらアズラエルの頭を愛し気に撫でる。不意打ち気味に頭を撫でられたアズラエルは気持ちよさげな声を上げる。


「そこはもう、覚悟決めてるから大丈夫だよ。アズラエルは僕達の傍にいてもいい、迷惑じゃないから」

「……はい、父上」


 チャンスは優しく微笑み、アズラエルは傍にいてもいいといわれるとエへへと笑みがこぼれる。


「……お父さんしてますね」

「多分、あれがチャンスの理想の父親像」


 テーブル席でチャンスとアズラエルの親子のスキンシップを見ていたエリザベートが微笑まし気に感想を述べ、マトイがそれに答える。


「子供が辛い時には、傍にいて励ましてあげて、間違えた時には、ちゃんと叱ってくれて、そんな父親に傍に居て欲しかった――そういう願望の現われだと思う」


 マトイはチャンスの背中を見つめながら、アズラエルに見せている姿がチャンスが理想とする父親像であるとエリザベートに伝える。


「当然だと思う、だってチャンスは父親の記憶を失っているんだもん。だから、こうだったらいいなって言うのを演じるしかないんだよ。……それがうまくいってる間は、それでいいんじゃない?」

「……マトイさんは、よくわかりますね? そういうの」


 饒舌に喋るマトイを見てエリザベートはチャンスの気持ちがよくわかるものだと感心する。


「ん、まぁね――僕も通った道だから」


 マトイはチャンスの背を通して、何処かの誰かを思い浮かべていた。




「あー、もう今日一日色々ありすぎて……頭が、こんがらがる」


 仲間にアズラエルを紹介するのを終えたチャンスは宿屋の中庭で夜風に当たっていた。


「 …………父親って、何やればいいんだろ? ちょっとアズラエルの様子でも見てくるかな……」


 チャンスはユイとアズラエルがいる部屋を訪ねる。

 最初は宿屋側が気を利かせたつもりなのか、チャンスとユイとアズラエルは三人部屋に割り振られそうになりひと悶着があった。


「どうされましたか? 父上?」

「いやー、どうしてるかなって?」


 アズラエルとユイが宿泊している部屋をノックすると、アズラエルが応対に出てる。

 奥にいたユイと目が合うとお互いぎこちなく付き合ったばかりの恋人同士のように気恥ずかし気に顔を赤くして視線を逸らす。


「エヘヘ」

「? 急にどうした?」


 そんな二人の様子を見たアズラエルは嬉しそうに微笑み、チャンスが急に上機嫌になったアズラエルに声をかける。


「私個人としては、父上と母上が仲睦まじいのは嬉しいのです」

「……出会って、こう、そんなに立ってないんだけどね?」

「結構、馬車で急いで進んでるんだけどね?」


 アズラエルはユイとチャンスが仲良くしてくれる事が嬉しいという。

 ユイとチャンスは出会って間もないこと、アメノハバキリという宝刀をあるべき場所へ戻すため、狙っている存在から逃げるために旅としては急ぎの速度で進んでいたことを伝える。


「驚きです、こんなに相性の良い生き見本がここにいるのに」

「へっ!?」


 アズラエルからチャンスとユイの相性が良いといわれてチャンスは間抜けな声を漏らす。


「いや、もう母上なんて父上を逃せば――」

「生々しく不吉な事言わないの!」


 アズラエルがユイに向かってチャンスと結ばれなければ婚期が来ないと不吉なことを言いかけ、ユイは苦笑しながらアズラエルの口を塞ぐ。


「うーん、実は僕、記憶喪失で、家族の記憶もないし……そこんとこが、ぴんと……」

「………チャンス」

「そ、れは父上が、悪いのでは……」


 ぼそりと呟いたチャンスの一言で部屋の空気が固まる。

 ユイは驚いた顔でチャンスを見つめ、アズラエルは必死にチャンスを励まそうと言葉を探す。


「あ、いや、そういう事じゃ、みっともない愚痴みたいなもんで……」

「家族など、他人の寄せ集めだ」

「ユイ?」


 自分の発言でしんみりとした空気になったことに気づいたチャンスはごまかそうとする。そんな中、不意にユイが家族とは他人発言をした。


「……私の義理の馬鹿姉の台詞よ。『秘密も作れば、嘘もつく、裏切られもすれば、傷つけもする』『家族は、自分ではないのだから、他人の寄せ集めに決まってる』『ただ、同じ血が流れている程度で家族だなどと片腹痛い』ってね」

(良いか、ユイ。その証拠に――)


 ユイは自分を救ってくれた腹違いの義姉の言葉を思い出す。


「『家族の核である父と母は、他人ではないか』『家族とはあるのではなく、なるものだ』――なんてね。そういう意味では、笑えるぐらいに家族っぽいわよね。 私もあなたも――アズラエルも」

「……あるんじゃなくて、なるもの、か」


 家族とは最初からある物でなく、なっていく物……チャンスはユイの義姉の言葉に納得していた。


「ん、と……私とチャンスは、置いておくとしても……私がアズラエルの母親で、貴方がアズラエルの父親で……そういう『形』は『矛盾しない』って、うん、そういうことよ……」


 ユイは顔を真っ赤にさせながら今の自分たちの形を伝えた。

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