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第六章:扶桑騒乱
第33話 出島フソウ
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大海原を木造の弁才船が走る。
「おお、すごい! これが船か」
「フソウに入るなら、これが最速だからな」
チャンスは縁から海原を覗き込み、潮風がチャンスの銀髪を撫で、太陽が銀髪を照らす。
「フソウ、ですか? 吉比姫殿、どのような場所なのでしょう?」
「うむ、文化自体はまさにスオウと言ったところじゃ。ムスタファーは西にスオウの文化が混じっておったが、フソウはスオウ文化を下地に西の文化が混じった……そのような側面が大きくなるのじゃ」
アズラエルは吉比姫にフソウについて聞けば、教師のようにすらすらとアズラエルの質問に答えていく。
「 フソウは代々、ミカドにより任命された武将が納めておる。今は、徳川家の……まぁ、うつけが納めることになっている。……織田の大うつけの推薦らしいが、まぁ、悪くはない統治者じゃ」
「チャンスよりいくつか上の若い奴でさ、気持ちのいい奴だぜ? 葵のやつは」
フソウを現在治めている領主……スオウではダイミョウと呼ばれる特権階級が存在し、現在のフソウのダイミョウは徳川葵という齢18の青年だという。
「スオウでは、ミカドは象徴、もっとも実力のある武将が政治を執り行う。そのように、学びましたが……」
「……いつの間に、そんな勉強してたんだ?」
アズラエルは自分が知っているスオウについての知識を喋る。
チャンスは何時の間に覚えたのかと驚いていると。
「吾は学ぶ意志を持つ幼子に教鞭をとるのはやぶさかでないぞ」
「あ、ありがとうございます……」
吉比姫が自慢げに自分が教えたと伝え、チャンスは頭を下げてお礼を述べる。
「スオウの首都は基本3万~4万程度の大きな都市、統治者を推薦で入れ替えても政治体制が乱れない。それだけ、ミカドの権威が確たるもの、という表れなのでしょう」
アズラエルは吉比姫から習ったスオウについての知識を披露し続ける。外見は15歳前とはいえ生まれたばかりの式神、吸収した知識を披露するのが楽しくてたまらないようだ。
「うむ、それこそスオウのもっともたる強味よ。ミカドはメイリュウ様の加護をいただく、まさに現人神であらせられるからな? 出島のフソウでも、言の葉に関しては注意しておくに越したことはないぞ」
「はい、吉比姫殿」
優秀な生徒であるアズラエルを見て満足げに微笑む吉比姫。
そんな二人のやり取りを見て置いてきぼり気味のチャンスは話に入れずにいた。
「心配するな、チャンス。おれも政治はさっぱりだよぉ」
「あ、うん……」
そんなチャンスの肩を叩く富貴は満点の笑みで自分も政治は分からないとカミングアウトする。
「ああ、ここにいらっしゃいましたか、みなさん。そろそろ、スオウの港に着くそうですよ?」
「ああ、エリザベート殿……マトイ殿は?」
船室から出てきたエリザベートがチャンス達を見つけるともうすぐ港につくことを知らせる。
アズラエルはエリザベートしか甲板に出てきてないことに気づき、マトイの所在を聞く。
「やっぱり、陸に戻らないと駄目そうですね。船室で横になってユイさんが看病しています」
「じゃあ、マトイの分の荷物もまとめておきましょうか」
マトイは重度の船酔いを発症して船室で横になっている。ユイが船室に残りマトイの看病をしているが、あまりよくなっていないようだ。
「凄いな、ムスタファーで見た花右京院さんの屋敷みたいなのがいっぱい並んでいる」
港に辿り着いたチャンス達はフソウの城下町に目を奪われる。
「……フソウって、本当変化ないよね……昔、来たことあるけど……」
杖をつき、青い顔でふらふらとした足取りで陸に上がったマトイはフソウの街並みを見て弱弱しく感想を述べる。
「まずは、こちらとそちらの目的を果たそう。直接、メイリュウ神社へ向かうとしよう」
「ここから、近いのですか?」
「フソウのダイミョウが住むフソウ城よりかはマシじゃな、ちょっと歩くが……」
吉比姫が大事そうに懐にしまっているアメノハバキリを服の上から触って神社へ向かうことを伝える。
エリザベートがどれくらいの距離なのか、マトイの方を見ながら聞く。
吉比姫も苦笑しながら城より近いと言って苦笑しながらマトイの様子を見る。
「……そ、そう」
「……背負うよ、乗って」
「う、う……助かる……」
「では、荷物は私が」
今にも限界を迎えそうなマトイを見てチャンスは背を貸すことにした。
マトイは中途なくチャンスの背に飛び乗るとぎゅっと抱きしめる。
「うう、船よりもずっと乗り心地がいい……」
チャンスはマトイの軽さに驚きながら、神社を目指す。
「――――」
「? どうされました? 母上」
ユイはチャンスに背負われるマトイを見て、胸の奥がもやもやする。
動き出さないユイを心配したアズラエルが声をかける。
「あ……うん、何でもないわ。アズラエルも、はぐれないようにね?」
「……はい」
フソウの城下町の端にある山、その山の長い石段を上り終わると、鬱蒼とした竹林に包まれた参道が遠くまで伸びている。
「……あ、富貴殿、吉比姫殿!? お帰りになったのですか!?」
「おう、桜か。うむ、つい今しがた戻ったばかりじゃ」
その参道を竹箒で掃除していた白い服に赤いスカート、長い黒髪を後ろで纏めた女性が富貴の肩に座る吉比姫を見て手を振ってあいさつする。
「ところで、あの後ろの一団は?」
「今回のお役目のために雇った護衛じゃ」
マトイを背負ったまま石段を登り終えた途端ばてて倒れているチャンス。船酔いからやっと回復したのか、チャンスの背から元気に飛び降りて、伸びをしているマトイ。
チャンスをねぎらう様にエリザベートとユイとアズラエルが汗を拭いたり、水筒の水を飲ませている。
「冥龍様の気を感じると思えば……無事アメノハバキリを取り戻したようじゃのう」
休憩をとっている一向に社から身の丈2m近くある筋骨隆々の美丈夫の女性がやってくる。
桜と呼ばれた女性と同じ白い服と赤いスカートをはいているが、今にも布が破れそうなほどのはちきれんばかりの乳房、六つに割れた腹部を晒し、二の腕は太く筋肉が盛り上がっている。
銀というよりは純白の髪と一度も日に焼けたことのないような色白の肌。蛇を連想するような目に紅で染めた赤い唇。熟した色香を漂わせる雰囲気の女性だった。
その口には喧嘩キセルという鉄でできた太く重い煙草をくわえており、酒という文字が入った瓢箪を腰にぶら下げている。
「白蛇様、お役目果たしました」
「悪いけど、先に吉比姫の報告を聞かないといかん。桜、奥の客間に客人をを案内せよ。少々こやつらにも頼みたいことがある」
「あ、はい……」
白蛇と呼ばれた女性は富貴と吉比姫だけを連れて社に戻る。
「あ、その、突然、色々とすみません……」
「いえ、お気になさらずに……どうぞ、みなさん、こちらです」
取り残されたチャンスが申し訳なさそうに謝り、桜は白蛇に言われた客間へとチャンス達を案内する。
(……この男、節操のない)
案内する最中、桜はチャンスが連れている女性たちに視線を向ける。
女性陣のチャンスに向ける視線や仕草から妾か何かと勘違いし、桜は心の中でチャンスに侮蔑の感情を抱いていた。
「おお、すごい! これが船か」
「フソウに入るなら、これが最速だからな」
チャンスは縁から海原を覗き込み、潮風がチャンスの銀髪を撫で、太陽が銀髪を照らす。
「フソウ、ですか? 吉比姫殿、どのような場所なのでしょう?」
「うむ、文化自体はまさにスオウと言ったところじゃ。ムスタファーは西にスオウの文化が混じっておったが、フソウはスオウ文化を下地に西の文化が混じった……そのような側面が大きくなるのじゃ」
アズラエルは吉比姫にフソウについて聞けば、教師のようにすらすらとアズラエルの質問に答えていく。
「 フソウは代々、ミカドにより任命された武将が納めておる。今は、徳川家の……まぁ、うつけが納めることになっている。……織田の大うつけの推薦らしいが、まぁ、悪くはない統治者じゃ」
「チャンスよりいくつか上の若い奴でさ、気持ちのいい奴だぜ? 葵のやつは」
フソウを現在治めている領主……スオウではダイミョウと呼ばれる特権階級が存在し、現在のフソウのダイミョウは徳川葵という齢18の青年だという。
「スオウでは、ミカドは象徴、もっとも実力のある武将が政治を執り行う。そのように、学びましたが……」
「……いつの間に、そんな勉強してたんだ?」
アズラエルは自分が知っているスオウについての知識を喋る。
チャンスは何時の間に覚えたのかと驚いていると。
「吾は学ぶ意志を持つ幼子に教鞭をとるのはやぶさかでないぞ」
「あ、ありがとうございます……」
吉比姫が自慢げに自分が教えたと伝え、チャンスは頭を下げてお礼を述べる。
「スオウの首都は基本3万~4万程度の大きな都市、統治者を推薦で入れ替えても政治体制が乱れない。それだけ、ミカドの権威が確たるもの、という表れなのでしょう」
アズラエルは吉比姫から習ったスオウについての知識を披露し続ける。外見は15歳前とはいえ生まれたばかりの式神、吸収した知識を披露するのが楽しくてたまらないようだ。
「うむ、それこそスオウのもっともたる強味よ。ミカドはメイリュウ様の加護をいただく、まさに現人神であらせられるからな? 出島のフソウでも、言の葉に関しては注意しておくに越したことはないぞ」
「はい、吉比姫殿」
優秀な生徒であるアズラエルを見て満足げに微笑む吉比姫。
そんな二人のやり取りを見て置いてきぼり気味のチャンスは話に入れずにいた。
「心配するな、チャンス。おれも政治はさっぱりだよぉ」
「あ、うん……」
そんなチャンスの肩を叩く富貴は満点の笑みで自分も政治は分からないとカミングアウトする。
「ああ、ここにいらっしゃいましたか、みなさん。そろそろ、スオウの港に着くそうですよ?」
「ああ、エリザベート殿……マトイ殿は?」
船室から出てきたエリザベートがチャンス達を見つけるともうすぐ港につくことを知らせる。
アズラエルはエリザベートしか甲板に出てきてないことに気づき、マトイの所在を聞く。
「やっぱり、陸に戻らないと駄目そうですね。船室で横になってユイさんが看病しています」
「じゃあ、マトイの分の荷物もまとめておきましょうか」
マトイは重度の船酔いを発症して船室で横になっている。ユイが船室に残りマトイの看病をしているが、あまりよくなっていないようだ。
「凄いな、ムスタファーで見た花右京院さんの屋敷みたいなのがいっぱい並んでいる」
港に辿り着いたチャンス達はフソウの城下町に目を奪われる。
「……フソウって、本当変化ないよね……昔、来たことあるけど……」
杖をつき、青い顔でふらふらとした足取りで陸に上がったマトイはフソウの街並みを見て弱弱しく感想を述べる。
「まずは、こちらとそちらの目的を果たそう。直接、メイリュウ神社へ向かうとしよう」
「ここから、近いのですか?」
「フソウのダイミョウが住むフソウ城よりかはマシじゃな、ちょっと歩くが……」
吉比姫が大事そうに懐にしまっているアメノハバキリを服の上から触って神社へ向かうことを伝える。
エリザベートがどれくらいの距離なのか、マトイの方を見ながら聞く。
吉比姫も苦笑しながら城より近いと言って苦笑しながらマトイの様子を見る。
「……そ、そう」
「……背負うよ、乗って」
「う、う……助かる……」
「では、荷物は私が」
今にも限界を迎えそうなマトイを見てチャンスは背を貸すことにした。
マトイは中途なくチャンスの背に飛び乗るとぎゅっと抱きしめる。
「うう、船よりもずっと乗り心地がいい……」
チャンスはマトイの軽さに驚きながら、神社を目指す。
「――――」
「? どうされました? 母上」
ユイはチャンスに背負われるマトイを見て、胸の奥がもやもやする。
動き出さないユイを心配したアズラエルが声をかける。
「あ……うん、何でもないわ。アズラエルも、はぐれないようにね?」
「……はい」
フソウの城下町の端にある山、その山の長い石段を上り終わると、鬱蒼とした竹林に包まれた参道が遠くまで伸びている。
「……あ、富貴殿、吉比姫殿!? お帰りになったのですか!?」
「おう、桜か。うむ、つい今しがた戻ったばかりじゃ」
その参道を竹箒で掃除していた白い服に赤いスカート、長い黒髪を後ろで纏めた女性が富貴の肩に座る吉比姫を見て手を振ってあいさつする。
「ところで、あの後ろの一団は?」
「今回のお役目のために雇った護衛じゃ」
マトイを背負ったまま石段を登り終えた途端ばてて倒れているチャンス。船酔いからやっと回復したのか、チャンスの背から元気に飛び降りて、伸びをしているマトイ。
チャンスをねぎらう様にエリザベートとユイとアズラエルが汗を拭いたり、水筒の水を飲ませている。
「冥龍様の気を感じると思えば……無事アメノハバキリを取り戻したようじゃのう」
休憩をとっている一向に社から身の丈2m近くある筋骨隆々の美丈夫の女性がやってくる。
桜と呼ばれた女性と同じ白い服と赤いスカートをはいているが、今にも布が破れそうなほどのはちきれんばかりの乳房、六つに割れた腹部を晒し、二の腕は太く筋肉が盛り上がっている。
銀というよりは純白の髪と一度も日に焼けたことのないような色白の肌。蛇を連想するような目に紅で染めた赤い唇。熟した色香を漂わせる雰囲気の女性だった。
その口には喧嘩キセルという鉄でできた太く重い煙草をくわえており、酒という文字が入った瓢箪を腰にぶら下げている。
「白蛇様、お役目果たしました」
「悪いけど、先に吉比姫の報告を聞かないといかん。桜、奥の客間に客人をを案内せよ。少々こやつらにも頼みたいことがある」
「あ、はい……」
白蛇と呼ばれた女性は富貴と吉比姫だけを連れて社に戻る。
「あ、その、突然、色々とすみません……」
「いえ、お気になさらずに……どうぞ、みなさん、こちらです」
取り残されたチャンスが申し訳なさそうに謝り、桜は白蛇に言われた客間へとチャンス達を案内する。
(……この男、節操のない)
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