丑三つ時の俺達 ~お知り合いがお尻愛に変わる時~

水無月礼人

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事の発端(プロローグ)

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 俺の腹には料理包丁が刺さっている。比喩表現ではない。

 二ヶ月前のある晴れた日の仕事帰り、恋人である沙穂サホと同棲中のアパート前で、やけに鼻息の荒い見知らぬキモ男に突然刺された。

「ボ、ボクこそがサホたんの運命の恋人なんだ! おま、おまえが居るからサホたんは真実の恋に気づけないんだ!!」

 大量の唾を飛ばしながらソイツは主張した。腹の激痛にたまらず倒れ込んだ俺へ蹴りを入れるというオマケ付きで。他にもいろいろ言っていたようだが聴覚、と言うより全ての感覚が遠ざかっていった俺には届かなかった。
 痛みが和らいでラッキーだと思えたのはほんの一瞬。まぶたを開けているのに視界が暗くなってきたもんでヤベェと感じた。指先が冷たく震えていたことを妙に覚えている。

 俺を刺してで逮捕された大馬鹿野郎は、サービス業に従事する沙穂に一目惚れした挙句、ストーキング行為を繰り返すようになった迷惑野郎らしい。
 ストーカーの存在は沙穂の口から直接聞いていた。「お店に来る変な客に粘着されている」と。しかし交際六年目に突入して倦怠期けんたいきに入っていた俺は真剣に取り合わず、「はいはいモテ自慢乙」と彼女の訴えを右から左へ受け流していた。
 そのいい加減な態度で警戒を怠っていた俺は、間抜けにも二十八歳で人生の幕を降ろす結果となってしまった。沙穂が働く店を出入り禁止となったストーカーが、沙穂に会えない鬱憤を恋人の俺相手に晴らしたのだ。

 腹にはもう痛みは無い。それどころか命すら無い。俺は死んだのだ。
 しかしこの世に未練は残った。だってまだ若いのに殺されたんだぞ? やりたいことがたくさん有ったのに。納得なんてできるか。
 ストーカーに刺し殺された俺は成仏できず浮遊霊となり、この世を彷徨さまようことになった。
 そして幽霊となってみて知った。俺みたいな奴が大勢居るんだと。

 気をつけろよ、生者ども。俺達は自分の存在をアピールしようと、おまえ達の後ろに常にスタンバっている。写真や鏡に写り込んだ影、耳元で誰かに囁かれたような感覚、アレ、気のせいじゃないからな。
 霊感ゼロだと思って油断するなよ? 波長(チャンネル)さえ合えば俺達は繋がる。嫌なら肝試しスポットへ探検に向かったり、安易な降霊術を試すことを避けるんだな。
 優しい死者からの忠告だ。

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