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推しとバディを組む腐女子(二)
「す、鈴木……警部!?」
凜々花は相手の名と階級を呼んで事実確認をした。間違いなく現実だ。
全国で二番目に多い「鈴木」の姓を持ちながら、決してその他大勢とはならない彼は鈴木将意。
最難関と言われる国家公務員採用総合職試験に合格し、警察庁に入ったキャリア組だ。地方で経験を積む為に凜々花達が勤務する御宅市警に出向してきたが、何事も無ければ二年で県警本部へ戻り、警視に昇進するとの噂が出ている。
これだけでもすごいのにイケメンときている。まるで漫画に登場するチートキャラだ。初出勤日に御宅署の全女性職員を虜にした彼は、凜々花にとっても最推し、妄想の養分となった。
「あなたが早見巡査部長、ですよね。話が有りますので第二会議室まで来て下さい」
その推しに名を呼ばれ、個室へ誘われた凜々花は前後不覚となった。
(な、ななななな、何が起きておりますか?)
「俺は? 早見先輩だけっスか? ズル~い」
何がズルなのか解らない。気の抜けた道庭の声で一瞬正気を取り戻した凜々花であったが、
「そうです。早見巡査部長に重要なお話が有ります」
推しの強めの肯定で再度動揺した。
(上官からの重要なお話って、まさか勤務態度に対する注意勧告でありますか!? 覗き見していたのがバレた!? 気をつけたのに!!)
後ろ暗い所の有る凜々花はエスコートと言うよりも連行に近い形で、鈴木と共に第二会議室へと赴いたのであった。
「おう、来たか早見」
約束の地にはナイスミドル課長が待ち構えていた。
よく知る課長に明るい声で出迎えられた凜々花は安堵した。怒られる展開ではないようだ。
「二人ともまぁ座れや」
課長に促されてパイプイスにそれぞれ座った。
しかしナイスミドル自身は立ったままで、キャスター付きのホワイトボードを押して鈴木と凜々花の前へ移動させた。
「早見はこの県出身だが、生まれ育ったのは御宅市ではないよな?」
「はい。実家は県庁所在地に在ります」
御宅市は読みを変えると「オタク氏」となる。オタ活動に自由時間の大半を捧げる凜々花にピッタリな市名。
勤務先は自分で選べないのでこの御宅署に配属が決まった時、凜々花は運命を感じて大いに喜んだ。
「馬参道町に親しくしている相手は居るか?」
課長が御宅市に存在する地域名を一つ挙げた。
「馬参道町ですか? いいえ。そちらに住んでいる親類は……あ、友人も居ないはずです」
何を意図した質問だろうかと凜々花は首を傾げた。
「ならいい。関係者を捜査に加える訳にはいかないからな」
「はい?」
「おまえには馬参道町で起きた事件を担当してもらう」
「!」
課長の提案に、凜々花の上半身が仰け反った。
(わ、私が事件担当ですと!? ここ数年間現場から離れて、データ入力と書類整理マスィーンと化しているこの私が!?)
本日十時八分、御宅署には住民の不審死を告げる通報が入っていた。現場状況から見て他殺である線が濃厚だ。
ここしばらく交通事故による死者しか出ていなかったので、管轄内で殺人事件が起きたことに一時署内が騒然となった。
「課長自ら現場へ行かれたんですよね? その事件ですか?」
「そうだ」
午前中に課長が部下数名を引き連れて通報元へ急行していた。正午過ぎに彼だけ署へ戻ってきたが、部下と鑑識チームはまだ事件現場で作業を続けている。
「今日は俺が赴いたが、明日から正式にチームが結成されて本格的な捜査が始まる。指揮を執るのは鈴木警部だ」
(えっ、警部と言えど赴任して二日目の新人に殺人事件の指揮を執れと!? 丸投げですか!?)
課長は鬼だと凜々花は憤慨しそうになったが、熱い課長の眼差しと自信有り気に頷いた鈴木を見て考えを改めた。
(違いますな……。これは親心です。課長は鈴木氏に手柄を立ててもらいたいのです)
キャリア組は大きなミスさえしなければ順当に出世していく。だからこそ一般警官達から妬まれ嫌われやすい。
(殺人事件という大きなヤマを解決し、ちゃんと実績を積ませた上で鈴木氏を本部へ帰したいと思っておいでなのですな。素敵過ぎますぞ課長殿……☆)
凜々花から賞賛の視線を受けた課長が満足そうに述べた。
「ははっ、早見、おまえもヤル気満々だな。瞳が輝いてるぞ? 相棒としてしっかり鈴木のサポートを頼むな」
さらりと紡がれた台詞には不穏なワードが含まれており、デキる女・凜々花はそれを見逃さなかった。
「相棒……とは?」
「おまえと鈴木のことだよ。今日からおまえ達はバディだ」
「………………」
(ひょえぇぇぇぇぇぇ~~~~!!!!)
一拍置いてから凜々花は言葉の意味を理解した。
(無理っ、無理無理! 私は推しを遠くから見守りたいタイプなのです!! それ故に殿方に免疫が無いのです~~!!)
そんな言い訳が通用するはずはない。押し黙った彼女に代わり、鈴木が遠慮がちに発言した。
「あの……、早見巡査部長は課長のご推薦ですが、僕としてはやはり女性と組むのは遠慮したいと思います」
課長が即座に反論する。
「早見の情報分析能力は大したモンだぞ? 小さなことにもよく気がつくしな。騙されたと思って連れてけって、絶対役に立つから」
「女性蔑視しているのではありません。僕は女性と行動していると噂になりやすいので、早見巡査部長にご迷惑をかけるのではと心配なんです」
イケメン故の悩みである。
「あ、大丈夫大丈夫。早見は一度もそういった方面の、浮ついた噂を出したことがないヤツだから」
「その言い方は巡査部長へのセクハラになるのでは……」
「身持ちの固い女だと褒めてるんだよ。ほら、鈴木と組むと聞いても動じてないだろ?」
「まぁ……そうですね。他の女性警官の反応とは違う感じですね」
実際の凜々花は口から魂が抜け出そうな心境だった。自分を推薦したナイスミドルを恨んだ。
しかし優等生の彼女はいつもの癖でポーカーフェイスを作ってしまうのだった。染み付いた習性が哀しい。
凜々花は相手の名と階級を呼んで事実確認をした。間違いなく現実だ。
全国で二番目に多い「鈴木」の姓を持ちながら、決してその他大勢とはならない彼は鈴木将意。
最難関と言われる国家公務員採用総合職試験に合格し、警察庁に入ったキャリア組だ。地方で経験を積む為に凜々花達が勤務する御宅市警に出向してきたが、何事も無ければ二年で県警本部へ戻り、警視に昇進するとの噂が出ている。
これだけでもすごいのにイケメンときている。まるで漫画に登場するチートキャラだ。初出勤日に御宅署の全女性職員を虜にした彼は、凜々花にとっても最推し、妄想の養分となった。
「あなたが早見巡査部長、ですよね。話が有りますので第二会議室まで来て下さい」
その推しに名を呼ばれ、個室へ誘われた凜々花は前後不覚となった。
(な、ななななな、何が起きておりますか?)
「俺は? 早見先輩だけっスか? ズル~い」
何がズルなのか解らない。気の抜けた道庭の声で一瞬正気を取り戻した凜々花であったが、
「そうです。早見巡査部長に重要なお話が有ります」
推しの強めの肯定で再度動揺した。
(上官からの重要なお話って、まさか勤務態度に対する注意勧告でありますか!? 覗き見していたのがバレた!? 気をつけたのに!!)
後ろ暗い所の有る凜々花はエスコートと言うよりも連行に近い形で、鈴木と共に第二会議室へと赴いたのであった。
「おう、来たか早見」
約束の地にはナイスミドル課長が待ち構えていた。
よく知る課長に明るい声で出迎えられた凜々花は安堵した。怒られる展開ではないようだ。
「二人ともまぁ座れや」
課長に促されてパイプイスにそれぞれ座った。
しかしナイスミドル自身は立ったままで、キャスター付きのホワイトボードを押して鈴木と凜々花の前へ移動させた。
「早見はこの県出身だが、生まれ育ったのは御宅市ではないよな?」
「はい。実家は県庁所在地に在ります」
御宅市は読みを変えると「オタク氏」となる。オタ活動に自由時間の大半を捧げる凜々花にピッタリな市名。
勤務先は自分で選べないのでこの御宅署に配属が決まった時、凜々花は運命を感じて大いに喜んだ。
「馬参道町に親しくしている相手は居るか?」
課長が御宅市に存在する地域名を一つ挙げた。
「馬参道町ですか? いいえ。そちらに住んでいる親類は……あ、友人も居ないはずです」
何を意図した質問だろうかと凜々花は首を傾げた。
「ならいい。関係者を捜査に加える訳にはいかないからな」
「はい?」
「おまえには馬参道町で起きた事件を担当してもらう」
「!」
課長の提案に、凜々花の上半身が仰け反った。
(わ、私が事件担当ですと!? ここ数年間現場から離れて、データ入力と書類整理マスィーンと化しているこの私が!?)
本日十時八分、御宅署には住民の不審死を告げる通報が入っていた。現場状況から見て他殺である線が濃厚だ。
ここしばらく交通事故による死者しか出ていなかったので、管轄内で殺人事件が起きたことに一時署内が騒然となった。
「課長自ら現場へ行かれたんですよね? その事件ですか?」
「そうだ」
午前中に課長が部下数名を引き連れて通報元へ急行していた。正午過ぎに彼だけ署へ戻ってきたが、部下と鑑識チームはまだ事件現場で作業を続けている。
「今日は俺が赴いたが、明日から正式にチームが結成されて本格的な捜査が始まる。指揮を執るのは鈴木警部だ」
(えっ、警部と言えど赴任して二日目の新人に殺人事件の指揮を執れと!? 丸投げですか!?)
課長は鬼だと凜々花は憤慨しそうになったが、熱い課長の眼差しと自信有り気に頷いた鈴木を見て考えを改めた。
(違いますな……。これは親心です。課長は鈴木氏に手柄を立ててもらいたいのです)
キャリア組は大きなミスさえしなければ順当に出世していく。だからこそ一般警官達から妬まれ嫌われやすい。
(殺人事件という大きなヤマを解決し、ちゃんと実績を積ませた上で鈴木氏を本部へ帰したいと思っておいでなのですな。素敵過ぎますぞ課長殿……☆)
凜々花から賞賛の視線を受けた課長が満足そうに述べた。
「ははっ、早見、おまえもヤル気満々だな。瞳が輝いてるぞ? 相棒としてしっかり鈴木のサポートを頼むな」
さらりと紡がれた台詞には不穏なワードが含まれており、デキる女・凜々花はそれを見逃さなかった。
「相棒……とは?」
「おまえと鈴木のことだよ。今日からおまえ達はバディだ」
「………………」
(ひょえぇぇぇぇぇぇ~~~~!!!!)
一拍置いてから凜々花は言葉の意味を理解した。
(無理っ、無理無理! 私は推しを遠くから見守りたいタイプなのです!! それ故に殿方に免疫が無いのです~~!!)
そんな言い訳が通用するはずはない。押し黙った彼女に代わり、鈴木が遠慮がちに発言した。
「あの……、早見巡査部長は課長のご推薦ですが、僕としてはやはり女性と組むのは遠慮したいと思います」
課長が即座に反論する。
「早見の情報分析能力は大したモンだぞ? 小さなことにもよく気がつくしな。騙されたと思って連れてけって、絶対役に立つから」
「女性蔑視しているのではありません。僕は女性と行動していると噂になりやすいので、早見巡査部長にご迷惑をかけるのではと心配なんです」
イケメン故の悩みである。
「あ、大丈夫大丈夫。早見は一度もそういった方面の、浮ついた噂を出したことがないヤツだから」
「その言い方は巡査部長へのセクハラになるのでは……」
「身持ちの固い女だと褒めてるんだよ。ほら、鈴木と組むと聞いても動じてないだろ?」
「まぁ……そうですね。他の女性警官の反応とは違う感じですね」
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