腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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捜査チーム結成!

 四月三日。 雪子の死から一夜明けた。
 警察署の業務開始時刻である八時三十分の少し前に、凜々花は第二会議室で木条家の事件を担当する刑事達と顔合わせしていた。

(な、なんですとぉ~~!?)

「先~輩、俺も行くことになりました~。ちっすちっす」

 馴れ馴れしく挨拶してきたのは道庭新である。現場でもこいつに付きまとわれるのかと凜々花は頭が痛くなった。

「そろそろ道庭にもの現場を体験させておきたくてな。いい経験になるだろう」

 彼をメンバーに選んだナイスミドル課長がしれっとのたまった。
 確かに……。凜々花と同じく高卒で警官となった道庭はまだ二十三歳。刑事課に配属されたものの、現場出動は近隣トラブルの仲裁くらいである。ほとんどの案件が民事不介入に該当するので、当事者達に「お互いよく話しあってね」とさとすだけで終わる。

「おい道庭、人が死んでんだぞ。気を引き締めろよ」
「あ、はい。すんません」

 道庭に注意した筋肉質な大柄男は郷島遼ごうじまりょう。警部補へ昇進したばかりの三十八歳である。
 ちなみに警部以上は昇任試験が格段と難しくなるので、警察機構に所属するノンキャリア組の大半は巡査、巡査部長、警部補の三つの役職にいている。
 大卒であるが国家公務員採用総合職試験を受けず、現場で実績を積んで警部にまでなった課長は大したお人なのである。

「郷島、道庭の面倒を見てやってな」
「お任せ下さい」

 ベテランで筋肉モリモリの郷島とバディを組まされた道庭は「うへぇ」という顔をした。凜々花は「ざまぁ」と思った。

「鈴木、早見、郷島、道場。この四名がかなめとなって捜査を進めてもらう」

 集められた全員が頷いた。

「三十分後に現場へ向かいます。課長が作成して下さった資料に目を通しておいて下さい」

 チームリーダーとなった鈴木に指示を出されて、郷島と道庭が長テーブルに置かれていた書類に手を伸ばした。
 ホッチキスで留められた三枚の紙。昨日事件現場で得た知識をナイスミドルがまとめてくれていた。

「なるほど、第一発見者は二人の従業員なんスね」
「従業員が何人も必要とか、相当にデカい家なんだな」

 それぞれ感想を言い合いながら二人は資料を読み進めた。

「まんまお屋敷だったよ」

 課長の補足が入った。

「昨日は屋敷に居た人間のみに話を聞いたが、今日は別居している近親者にも集まってもらう。事件当日の彼らの行動をしっかり確認しておいてくれな」
「アリバイ確認スか……。うぉ、俺ホントに刑事みたい。今度の相手は酔っ払いでも、道路を横断しようとするカルガモ親子でもないんだぁ!」

 また浮ついた発言をした道庭が郷島に睨まれたが、血気盛んな若者が興奮するのは仕方のないことかもしれない。

「親族も従業員も、けっこうな人数だな……」

 最初の内は関係者の名前と顔を一致させるだけでも大変そうだ。課長から昨日の内に事件の概要を聞いていた鈴木と凜々花も、資料をめくって関係者の名前と続柄を復習した。

「ちょ、この人、オッサンの分際でめっちゃ若い奥さんもらってる! 歳を考えろって!!」

 資料に見入る道庭が失礼発言をかました。

「見て先輩! ほらここんトコ!」
「……見てるよ。雪子の次男だな」
「すっげ、奥さんも奥さんだよ、よく二十三歳で六十近いオサーンと結婚しようと思ったな」

 更に資料を読み進めた道庭の目が点となる。

「……はへ? 四歳の子供有り? え? ええ? じゃあ結婚したの十代!? 有り得んし。ぜって~コレ、女の方は金目当てっスよ!!」

 下衆な推測を口にした道庭に反論する者は居なかった。資料に目を通した全員が、彼と同じ感想を抱いていたのである。

「道庭巡査、被害者遺族の前では軽口を封印して下さいね。他の皆さんも現場ではできるだけポーカーフェイスでお願いします」

 鈴木がやんわりと注意するだけに留まった。


☆☆☆


 予定通り、四名の刑事は二台の警察車両に分乗して馬参道ばさんどう町へおもむいた。
 もちろん凜々花は鈴木と一緒の車である。ハンドルを握る彼女のドライビングテクニックを鈴木が褒めた。

「早見さんは運転も正確で丁寧ですね」
「ありがとうございます」

(推しに不快な思いはさせられませんからな。ああ誰か、私と鈴木氏の車中ツーショットをカメラに収めてくれませんかね)

 警察署から車で幹線道路を二十分ほど走った後に、住宅街に続く細めの道へ入って更に十二分。最寄り駅からだいぶ離れた小高い丘の上、そこに木条の屋敷は在った。 
 事前におおよその到着時刻を伝えておいたので、屋敷の正門前には出迎えの従業員が立っていた。あご髭剃ひげそり跡が残る彼は田口たぐちと名乗った。 

「すみません、本来ならば使用人がしら植草うえくさがお出迎えすべきところなんですが……」 
 
 使用人がしらとはまた古風な呼び名だ。植草に田口……。確か資料に載っていた、雪子の遺体第一発見者の名前がそうだった。 

「植草は奥様の死に強いショックを受けていまして。彼は勤続年数が長い分、奥様との思い出も多いんです」 
「うーん」 
 
 鈴木が腕組みした。 

「関係者全員からお話を伺いたかったのですが、その状態では植草さんは無理でしょうか」
「どうでしょう。通常通り朝六時前に出勤しては来たのですが、その、心ここに在らずって感じでして……。植草はたぶん今、奥様のお部屋近くに居ると思います」 
「雪子さんのお部屋ですか」 
「はい。他の皆さんは従業員も含めて大広間にお揃いです」 

  雪子の近親者と従業員達は全員、午前十時を目安に木条家本邸に集まるようにと、昨日の内に課長が要請しておいたのである。任意での事情聴取となるが、どうやら全員が来てくれたようだ。

「大広間より先に、雪子さんのお部屋へ連れて行って下さい。植草さんにもお会いしたいので」
「承知しました」 

  鈴木の申し出を受けた田口に先導され、捜査チームは広い邸内へ足を踏み入れた。
 玄関で田口からスリッパを勧められたが、咄嗟とっさに走った時にスリッパだと転びやすい為、刑事チームは全員辞退した。靴下やストッキング越しに床板のひんやりとした感触が足に伝わった。 

「ああそれと田口さん、お庭の駐車場には我々の物以外の車が二台停まっていましたが、あれはお屋敷所有の物ですか?」 
「いいえ、お屋敷で使う車はガレージに入っております。あの二台はそれぞれ、奥様の二人のご子息の車です」 
正継まさつぐさんと勝成かつなりさんですね。お二人はこちらにいらっしゃる際は、いつも車を使われるのですか?」 
「はい。同じ町内にお住まいですが、お屋敷が坂の上に在るせいか、徒歩で来られることはまず無いですね」 
「そうですか……」 

  鈴木はあごに手を当てて考えるポーズを取った。車がどうしたというのだろうか。 
 それにしてもいい天気だ。縁側から澄んだ青い空を凜々花は眺めた。
 昨日この家でむごたらしく人が死んだなどと、現場仕事から長い間遠ざかっていた彼女にはなかなか実感が湧かなかった。
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