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木条家の人々(三)
親族に続いて点呼されたのは屋敷で働く従業員達。
従業員には早番と遅番、それと深夜番の三通り有るそうだが、課長に召集されて今日は全員が揃っていた。総勢八名。
・植草進 (69)……早番。使用人頭。
・田口良 (46)……早番。車の運転と力仕事担当。
・島津美和子(58)……早番。家事担当。
・戸田倫子 (42)……早番。家事担当。
・森江亜矢子(38)……遅番。家事担当。
・山上佳乃 (29)……遅番。家事担当。
・富長征司 (42)……深夜番。夜間警備担当。
・前川直紀 (36)……深夜番。夜間警備担当。
「皆さんの勤務体制はどうなっているのですか? 交代時間を教えて下さい」
鈴木が従業員のリーダーである植草に尋ねたが、彼は虚ろな目をして座っているだけだった。「私が」と断りを入れてから、田口が答えた。
「使用人達は八時間交代制で働いております。早番の者は朝六時から昼の二時まで。遅番の者はそこから引き継いで夜の十時まで。深夜番は夜十時から翌朝六時までが勤務時間です」
つまり屋敷には常に従業員の誰かが居るという訳だ。
「なるほど。では昨日の通報時刻、午前十時八分に屋敷に居た従業員は早番の植草さん、田口さん、島津さん、戸田さんの四名ですね?」
「いえ。我々は週に二日ずつお休みを頂いておりまして、昨日は島津が休みで居ませんでした」
「巡査部長、新情報は全てメモしておいて下さい」
「はい」
鈴木に言われるよりも先に、凜々花は自分のメモ帳にペンを走らせていた。横目で彼女を窺った鈴木は感心したように小さく微笑んだ。
「どなたが食事を用意しているのですか?」
「女性の使用人と植草です。植草はとても器用で、家事全般に精通しています」
「普段お屋敷の台所に出入りしているのは、植草さんと女性の使用人。これで間違い有りませんね?」
念押しした鈴木へ田口が不安そうに尋ね返す。
「そうですが……、台所がどうかしたのですか?」
「雪子さんの胸に刺さっていた凶器となったペティナイフは、お屋敷の台所に常備されていた物なんです。昨日行われた事情聴取で証言して下さった方が居られました」
大広間の一同が一斉に息を呑んだ。
「余計なことをバラしたのは誰だ!」
憤怒の形相で従業員達を睨みつけたのは正継だ。
「バラすって……、後ろ暗い所が有るって言ってるようなものじゃん」
道庭の小さな小さな呟きに凜々花も苦笑してしまう。
鈴木が蔑む眼で正継を窘めた。
「警察への情報提供を咎めないで下さい。事件解決に必要なことです」
舌打ちをしたものの正継は引き下がった。
「話を戻します。司法解剖の結果が出ました。雪子さんの死因は心臓への一撃ですが、彼女には手の平に防御創、そして背中にも肺から腰にかけて縦に傷が有りました。これら全ての傷は同じペティナイフによって付けられたものです」
犯人は雪子を何度も斬り付けた。その行為には確実な殺意が感じられた。
植草と田口の話では悲鳴が聞こえなかったそうだが、雪子は驚きと恐怖で声も出せなくなってしまったのだろうか。手の平を犯人へ向けることが、彼女にできる唯一の命乞いだったのかもしれない。その願いは届かなかったようだが……。
(あ、やってしまいました……)
雪子が殺害された情景を想像した凜々花は、ペンを握る手に力を込め過ぎて手帳の紙に穴を開けてしまった。
(いけませんな、刑事は冷静でいなければならないのに)
「あの、話の途中ですみません、ペティナイフってどんなナイフなんですか?」
正継の長男が遠慮がちに鈴木へ質問した。 彼は料理をしないようで、刃物の種類が判っていなかった。
「ああ失礼、説明不足でした。ペティナイフとは洋物の小型包丁です。野菜や果物の皮剝きに適しています」
「要は果物ナイフですね。そんな物ならたくさん流通しているでしょうに、どうしてこの家の所有物だと断定できるのですか?」
「特殊な柄を持つナイフだからです。昨日中に町の金物屋で、こちらのお宅から発注されたオーダーメイド品だと確認が取れました」
「特殊な柄って……?」
「馬をかたどった物でした」
「!!」
雷が落ちたような、そんな緊張感が大広間を瞬時に支配した。
鈴木が探る視線を雪子の近親者達へ向ける。
「馬は木条の家にとって、とても重要なモチーフらしいですね」
全員が押し黙った。地域の住民達から「騎馬一族」と称されている家系なのである。
「法医学者の見立てでは、死亡推定時刻は午前九時三十分から十時の間です。植草さんと田口さんが雪子さんの部屋に突入したのが、およそ十時。お二人の証言で、直前まで部屋からは物音がしていたそうですから、死亡時間は十時直前と見ていいでしょう」
(無表情な美形が淡々と事実を述べて容疑者達を追い詰める……。ふおぉ、サスペンス映画のワンシーンみたいですな! 撮影、撮影をしたいですぞ!!)
思ったものの、人が亡くなっている状況なので凜々花は自粛した。
従業員には早番と遅番、それと深夜番の三通り有るそうだが、課長に召集されて今日は全員が揃っていた。総勢八名。
・植草進 (69)……早番。使用人頭。
・田口良 (46)……早番。車の運転と力仕事担当。
・島津美和子(58)……早番。家事担当。
・戸田倫子 (42)……早番。家事担当。
・森江亜矢子(38)……遅番。家事担当。
・山上佳乃 (29)……遅番。家事担当。
・富長征司 (42)……深夜番。夜間警備担当。
・前川直紀 (36)……深夜番。夜間警備担当。
「皆さんの勤務体制はどうなっているのですか? 交代時間を教えて下さい」
鈴木が従業員のリーダーである植草に尋ねたが、彼は虚ろな目をして座っているだけだった。「私が」と断りを入れてから、田口が答えた。
「使用人達は八時間交代制で働いております。早番の者は朝六時から昼の二時まで。遅番の者はそこから引き継いで夜の十時まで。深夜番は夜十時から翌朝六時までが勤務時間です」
つまり屋敷には常に従業員の誰かが居るという訳だ。
「なるほど。では昨日の通報時刻、午前十時八分に屋敷に居た従業員は早番の植草さん、田口さん、島津さん、戸田さんの四名ですね?」
「いえ。我々は週に二日ずつお休みを頂いておりまして、昨日は島津が休みで居ませんでした」
「巡査部長、新情報は全てメモしておいて下さい」
「はい」
鈴木に言われるよりも先に、凜々花は自分のメモ帳にペンを走らせていた。横目で彼女を窺った鈴木は感心したように小さく微笑んだ。
「どなたが食事を用意しているのですか?」
「女性の使用人と植草です。植草はとても器用で、家事全般に精通しています」
「普段お屋敷の台所に出入りしているのは、植草さんと女性の使用人。これで間違い有りませんね?」
念押しした鈴木へ田口が不安そうに尋ね返す。
「そうですが……、台所がどうかしたのですか?」
「雪子さんの胸に刺さっていた凶器となったペティナイフは、お屋敷の台所に常備されていた物なんです。昨日行われた事情聴取で証言して下さった方が居られました」
大広間の一同が一斉に息を呑んだ。
「余計なことをバラしたのは誰だ!」
憤怒の形相で従業員達を睨みつけたのは正継だ。
「バラすって……、後ろ暗い所が有るって言ってるようなものじゃん」
道庭の小さな小さな呟きに凜々花も苦笑してしまう。
鈴木が蔑む眼で正継を窘めた。
「警察への情報提供を咎めないで下さい。事件解決に必要なことです」
舌打ちをしたものの正継は引き下がった。
「話を戻します。司法解剖の結果が出ました。雪子さんの死因は心臓への一撃ですが、彼女には手の平に防御創、そして背中にも肺から腰にかけて縦に傷が有りました。これら全ての傷は同じペティナイフによって付けられたものです」
犯人は雪子を何度も斬り付けた。その行為には確実な殺意が感じられた。
植草と田口の話では悲鳴が聞こえなかったそうだが、雪子は驚きと恐怖で声も出せなくなってしまったのだろうか。手の平を犯人へ向けることが、彼女にできる唯一の命乞いだったのかもしれない。その願いは届かなかったようだが……。
(あ、やってしまいました……)
雪子が殺害された情景を想像した凜々花は、ペンを握る手に力を込め過ぎて手帳の紙に穴を開けてしまった。
(いけませんな、刑事は冷静でいなければならないのに)
「あの、話の途中ですみません、ペティナイフってどんなナイフなんですか?」
正継の長男が遠慮がちに鈴木へ質問した。 彼は料理をしないようで、刃物の種類が判っていなかった。
「ああ失礼、説明不足でした。ペティナイフとは洋物の小型包丁です。野菜や果物の皮剝きに適しています」
「要は果物ナイフですね。そんな物ならたくさん流通しているでしょうに、どうしてこの家の所有物だと断定できるのですか?」
「特殊な柄を持つナイフだからです。昨日中に町の金物屋で、こちらのお宅から発注されたオーダーメイド品だと確認が取れました」
「特殊な柄って……?」
「馬をかたどった物でした」
「!!」
雷が落ちたような、そんな緊張感が大広間を瞬時に支配した。
鈴木が探る視線を雪子の近親者達へ向ける。
「馬は木条の家にとって、とても重要なモチーフらしいですね」
全員が押し黙った。地域の住民達から「騎馬一族」と称されている家系なのである。
「法医学者の見立てでは、死亡推定時刻は午前九時三十分から十時の間です。植草さんと田口さんが雪子さんの部屋に突入したのが、およそ十時。お二人の証言で、直前まで部屋からは物音がしていたそうですから、死亡時間は十時直前と見ていいでしょう」
(無表情な美形が淡々と事実を述べて容疑者達を追い詰める……。ふおぉ、サスペンス映画のワンシーンみたいですな! 撮影、撮影をしたいですぞ!!)
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