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不審な行動(一)
「お屋敷での朝食の時間は、毎日決まっているのですか?」
「は、はい」
田口は正継を気にしながらも、鈴木へ答を返した。
「七時です。食事は母屋の食堂で、離れにお住まいの香織様達も揃ってお召し上がりになります」
保正と雪子が存命中は、両親と娘一家の計五人で食事を取っていたことになる。
「七時に食事開始なら、食べ終わるのはだいたい七時半頃ですね。その後にお皿を洗うとして、九時半まで台所に人は残っていますか?」
「いえ……。九時台でしたら、使用人は別の雑務に就いているはずです」
「先に挙げた植草さん達以外にも、台所に出入りして不自然ではない人は居ますか?」
犯行に及んだ者が外部の人間、例えば強盗犯だとしたら、その者は予め自分で武器を用意してから来ただろう。しかし使われた凶器は屋敷の台所に有った物だった。
日常品を凶器に選ぶ人間とは、普段から台所に出入りしている者か、台所に人が居なくなる時間帯を知っている者。その二つの可能性が高い。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたまさか、俺達の中に母さんを殺した犯人が居ると言いたいのか!?」
固太り正継が吠えた。威張るだけの愚鈍そうな男に見えたが、察する頭は持っていた。
「犯人は金目当ての強盗に決まっている。木条家は町一番の資産家だからな!」
「本件において盗難被害の報告は受けておりませんが」
さらりと鈴木にかわされ、正継はぐぬぬと唸った。
「おおかた、侵入してすぐ母さんに発見されて……何も盗れずに逃げたのさ!」
代わりに発言したのは雪子の次男の勝成だった。この男も恰幅が良いが、筋肉質の正継と違いポヨポヨと丸い。不摂生な食生活が窺えた。
「そうだな、勝成の言う通りだ。そうに違いない!」
正継が弟の意見に諸手を挙げて賛成した。
「泥棒の顔を見たお袋は、不幸にも口封じの為に殺された。そんなところだろうよ」
凜々花は兄弟の態度を冷ややかに見ていた。
(お母さんが亡くなったばかりだというのに、このお二人からは悲しみが全く感じられません……)
雪子に夫の遺産を放棄させようとしていた二人の息子達。強欲さは母の死をも超えるのか。
鈴木が切り口を変えた。
「お屋敷には正門と裏門、玄関と勝手口の四ヶ所に防犯カメラが設置されていて、出入りする人間を記録していますよね?」
これもナイスミドル資料から得た情報だ。
「それらの映像をチェックした結果、一昨日の夜から昨日の昼まで関係者以外の出入りは有りませんでした」
「泥棒が素直に玄関から入って来たとは限らないだろう? きっと塀を乗り越えて、その後は窓や縁側を使ったのさ」
勝成が憎たらしい表情でふん、と鼻を鳴らした。そんな彼を鈴木は涼しい笑顔で問い質した。
「そうかもしれませんね。ところで勝成さん、貴方は昨日の午前九時五十分、何のご用が有って裏門を使って屋敷に来られたのですか?」
「「「え!?」」」
何人もの驚きの声が重なり、視線が勝成に集まった。
「お、俺はこの家の子供だ。べべ別にいつ来たっていいだろう?」
勝成は反論したがその刹那、汚らしい怒鳴り声が大広間に響いた。
「勝成、おまえ昨日一人でここへ来たのか!?」
正継が勝成に詰め寄った。
「え、兄貴、あの、それは……」
「お袋の元へ来る時は二人で一緒にって、前から取り決めておいたはずだよな? 昨日だって夕方に俺と来る予定だったじゃないか。どうして一人で来たんだよ? おまえ……おまえ……まさかお袋に……」
正継の瞳が疑惑の色に輝いた。彼は母の死に関わったかもしれない弟の襟首を掴んだ。すっかり威勢を無くした勝成は兄にされるがままだった。
「抜け駆けして自分だけ遺産を多く貰おうと、お袋を懐柔しようとしたんだな!?」
(はぁ!?)
凜々花は思わず声が出そうになった。
(怒るポイントはそこじゃねーだろ! 弟が母を傷付けたかどうか、そこを論点になさいな。こんの業突張りがぁ!!)
「刑事さん、こいつが犯人に違いないですよ! こいつはお袋に金の無心をして、断られてカッとなって殺したんです。弟の会社は経営が上手くいってないそうですしね!」
正継は刑事達が立つ方向に勝成を突き飛ばした。金が絡むと兄弟同士も敵となるようだ。
「ちょっとお義兄さん、ウチの人に何をするんですかぁ!」
メイクが派手な若い女性が間に入った。鈴木の点呼で彼女は勝成の後妻だと判明している。名前は望だ。軽薄そうな風貌だがなかなか可愛い。
四歳の子持ちだが、今日はシッターに預けたとかでこの場に子供は居ない。
「出た、若妻」
いちいち小声で凜々花に囁いてくる道庭が地味にウザい。
「引っ込んでろ、これは木条家の問題だ!」
「そうよ。外から来た人間は分を弁えなさい」
正継と香織が望を疎外した。望だって嫁入りしたのだから木条の人間だろうに。
「でもウチの人は人殺しなんてできる人じゃありませんよぉ。ねぇ、あなた!」
「あ、当たり前だろう。俺は何もやっていない!」
若妻の援護を受けて勝成は元気を取り戻した。鈴木がニッコリと笑い返した。
「では、昨日の朝の行動理由を教えて下さい」
「う……。理由なんて別に……。こ、子供が実家に顔を出すのに理由が要るか!?」
「いいえ。普通は理由なんて要りませんよ。普通ならね」
鈴木が意味深に繰り返した。
「勝成さん、貴方は午前九時五十分に裏門を通って、東側の勝手口から屋敷に入りましたね。しかし僅かその十五分後に、やはり勝手口と裏門を使って敷地内から出ています」
事実を並べられて勝成は言い返せない。
「僕が不思議に思うのは滞在時間の短さと、どうして正門ではなく裏門や勝手口を使ったか、この二点です。裏門は道路に面していて車を停めるには不向きですよね、用水路も在りますし。どうしてわざわざ、昨日に限って正門ではなく裏門を使ったのですか?」
「……………………」
勝成は黙ってしまった。たった十五分間の滞在は確かに不自然だ。そして駐車問題。
(鈴木氏が車について田口氏に聞いていたのは、この裏付けを取る為だったんですな)
鈴木以外の刑事達は納得した。
「は、はい」
田口は正継を気にしながらも、鈴木へ答を返した。
「七時です。食事は母屋の食堂で、離れにお住まいの香織様達も揃ってお召し上がりになります」
保正と雪子が存命中は、両親と娘一家の計五人で食事を取っていたことになる。
「七時に食事開始なら、食べ終わるのはだいたい七時半頃ですね。その後にお皿を洗うとして、九時半まで台所に人は残っていますか?」
「いえ……。九時台でしたら、使用人は別の雑務に就いているはずです」
「先に挙げた植草さん達以外にも、台所に出入りして不自然ではない人は居ますか?」
犯行に及んだ者が外部の人間、例えば強盗犯だとしたら、その者は予め自分で武器を用意してから来ただろう。しかし使われた凶器は屋敷の台所に有った物だった。
日常品を凶器に選ぶ人間とは、普段から台所に出入りしている者か、台所に人が居なくなる時間帯を知っている者。その二つの可能性が高い。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたまさか、俺達の中に母さんを殺した犯人が居ると言いたいのか!?」
固太り正継が吠えた。威張るだけの愚鈍そうな男に見えたが、察する頭は持っていた。
「犯人は金目当ての強盗に決まっている。木条家は町一番の資産家だからな!」
「本件において盗難被害の報告は受けておりませんが」
さらりと鈴木にかわされ、正継はぐぬぬと唸った。
「おおかた、侵入してすぐ母さんに発見されて……何も盗れずに逃げたのさ!」
代わりに発言したのは雪子の次男の勝成だった。この男も恰幅が良いが、筋肉質の正継と違いポヨポヨと丸い。不摂生な食生活が窺えた。
「そうだな、勝成の言う通りだ。そうに違いない!」
正継が弟の意見に諸手を挙げて賛成した。
「泥棒の顔を見たお袋は、不幸にも口封じの為に殺された。そんなところだろうよ」
凜々花は兄弟の態度を冷ややかに見ていた。
(お母さんが亡くなったばかりだというのに、このお二人からは悲しみが全く感じられません……)
雪子に夫の遺産を放棄させようとしていた二人の息子達。強欲さは母の死をも超えるのか。
鈴木が切り口を変えた。
「お屋敷には正門と裏門、玄関と勝手口の四ヶ所に防犯カメラが設置されていて、出入りする人間を記録していますよね?」
これもナイスミドル資料から得た情報だ。
「それらの映像をチェックした結果、一昨日の夜から昨日の昼まで関係者以外の出入りは有りませんでした」
「泥棒が素直に玄関から入って来たとは限らないだろう? きっと塀を乗り越えて、その後は窓や縁側を使ったのさ」
勝成が憎たらしい表情でふん、と鼻を鳴らした。そんな彼を鈴木は涼しい笑顔で問い質した。
「そうかもしれませんね。ところで勝成さん、貴方は昨日の午前九時五十分、何のご用が有って裏門を使って屋敷に来られたのですか?」
「「「え!?」」」
何人もの驚きの声が重なり、視線が勝成に集まった。
「お、俺はこの家の子供だ。べべ別にいつ来たっていいだろう?」
勝成は反論したがその刹那、汚らしい怒鳴り声が大広間に響いた。
「勝成、おまえ昨日一人でここへ来たのか!?」
正継が勝成に詰め寄った。
「え、兄貴、あの、それは……」
「お袋の元へ来る時は二人で一緒にって、前から取り決めておいたはずだよな? 昨日だって夕方に俺と来る予定だったじゃないか。どうして一人で来たんだよ? おまえ……おまえ……まさかお袋に……」
正継の瞳が疑惑の色に輝いた。彼は母の死に関わったかもしれない弟の襟首を掴んだ。すっかり威勢を無くした勝成は兄にされるがままだった。
「抜け駆けして自分だけ遺産を多く貰おうと、お袋を懐柔しようとしたんだな!?」
(はぁ!?)
凜々花は思わず声が出そうになった。
(怒るポイントはそこじゃねーだろ! 弟が母を傷付けたかどうか、そこを論点になさいな。こんの業突張りがぁ!!)
「刑事さん、こいつが犯人に違いないですよ! こいつはお袋に金の無心をして、断られてカッとなって殺したんです。弟の会社は経営が上手くいってないそうですしね!」
正継は刑事達が立つ方向に勝成を突き飛ばした。金が絡むと兄弟同士も敵となるようだ。
「ちょっとお義兄さん、ウチの人に何をするんですかぁ!」
メイクが派手な若い女性が間に入った。鈴木の点呼で彼女は勝成の後妻だと判明している。名前は望だ。軽薄そうな風貌だがなかなか可愛い。
四歳の子持ちだが、今日はシッターに預けたとかでこの場に子供は居ない。
「出た、若妻」
いちいち小声で凜々花に囁いてくる道庭が地味にウザい。
「引っ込んでろ、これは木条家の問題だ!」
「そうよ。外から来た人間は分を弁えなさい」
正継と香織が望を疎外した。望だって嫁入りしたのだから木条の人間だろうに。
「でもウチの人は人殺しなんてできる人じゃありませんよぉ。ねぇ、あなた!」
「あ、当たり前だろう。俺は何もやっていない!」
若妻の援護を受けて勝成は元気を取り戻した。鈴木がニッコリと笑い返した。
「では、昨日の朝の行動理由を教えて下さい」
「う……。理由なんて別に……。こ、子供が実家に顔を出すのに理由が要るか!?」
「いいえ。普通は理由なんて要りませんよ。普通ならね」
鈴木が意味深に繰り返した。
「勝成さん、貴方は午前九時五十分に裏門を通って、東側の勝手口から屋敷に入りましたね。しかし僅かその十五分後に、やはり勝手口と裏門を使って敷地内から出ています」
事実を並べられて勝成は言い返せない。
「僕が不思議に思うのは滞在時間の短さと、どうして正門ではなく裏門や勝手口を使ったか、この二点です。裏門は道路に面していて車を停めるには不向きですよね、用水路も在りますし。どうしてわざわざ、昨日に限って正門ではなく裏門を使ったのですか?」
「……………………」
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