腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

文字の大きさ
9 / 61

不審な行動(一)

「お屋敷での朝食の時間は、毎日決まっているのですか?」
「は、はい」

 田口は正継を気にしながらも、鈴木へ答を返した。

「七時です。食事は母屋の食堂で、離れにお住まいの香織様達も揃ってお召し上がりになります」

 保正と雪子が存命中は、両親と娘一家の計五人で食事を取っていたことになる。

「七時に食事開始なら、食べ終わるのはだいたい七時半頃ですね。その後にお皿を洗うとして、九時半まで台所に人は残っていますか?」 
「いえ……。九時台でしたら、使用人は別の雑務に就いているはずです」 
「先に挙げた植草さん達以外にも、台所に出入りして不自然ではない人は居ますか?」 

 犯行に及んだ者が外部の人間、例えば強盗犯だとしたら、その者はあらかじめ自分で武器を用意してから来ただろう。しかし使われた凶器は屋敷の台所に有った物だった。
 日常品を凶器に選ぶ人間とは、普段から台所に出入りしている者か、台所に人が居なくなる時間帯を知っている者。その二つの可能性が高い。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたまさか、俺達の中に母さんを殺した犯人が居ると言いたいのか!?」

  固太り正継が吠えた。威張るだけの愚鈍そうな男に見えたが、察する頭は持っていた。

「犯人は金目当ての強盗に決まっている。木条家は町一番の資産家だからな!」 
「本件において盗難被害の報告は受けておりませんが」

 さらりと鈴木にかわされ、正継はぐぬぬと唸った。

「おおかた、侵入してすぐ母さんに発見されて……何も盗れずに逃げたのさ!」

 代わりに発言したのは雪子の次男の勝成だった。この男も恰幅かっぷくが良いが、筋肉質の正継と違いポヨポヨと丸い。不摂生な食生活が窺えた。

「そうだな、勝成の言う通りだ。そうに違いない!」

 正継が弟の意見に諸手を挙げて賛成した。

「泥棒の顔を見たお袋は、不幸にも口封じの為に殺された。そんなところだろうよ」

 凜々花は兄弟の態度を冷ややかに見ていた。

(お母さんが亡くなったばかりだというのに、このお二人からは悲しみが全く感じられません……)

 雪子に夫の遺産を放棄させようとしていた二人の息子達。強欲さは母の死をも超えるのか。 
 鈴木が切り口を変えた。

「お屋敷には正門と裏門、玄関と勝手口の四ヶ所に防犯カメラが設置されていて、出入りする人間を記録していますよね?」

 これもナイスミドル資料から得た情報だ。

「それらの映像をチェックした結果、一昨日の夜から昨日の昼まで関係者以外の出入りは有りませんでした」 
「泥棒が素直に玄関から入って来たとは限らないだろう? きっと塀を乗り越えて、その後は窓や縁側を使ったのさ」 

 勝成が憎たらしい表情でふん、と鼻を鳴らした。そんな彼を鈴木は涼しい笑顔で問い質した。

「そうかもしれませんね。ところで勝成さん、貴方は昨日の午前九時五十分、何のご用が有って裏門を使って屋敷に来られたのですか?」 
「「「え!?」」」

 何人もの驚きの声が重なり、視線が勝成に集まった。

「お、俺はこの家の子供だ。べべ別にいつ来たっていいだろう?」

 勝成は反論したがその刹那、汚らしい怒鳴り声が大広間に響いた。 

「勝成、おまえ昨日一人でここへ来たのか!?」

 正継が勝成に詰め寄った。

「え、兄貴、あの、それは……」 
「お袋の元へ来る時は二人で一緒にって、前から取り決めておいたはずだよな? 昨日だって夕方に俺と来る予定だったじゃないか。どうして一人で来たんだよ? おまえ……おまえ……まさかお袋に……」

 正継の瞳が疑惑の色に輝いた。彼は母の死に関わったかもしれない弟の襟首を掴んだ。すっかり威勢を無くした勝成は兄にされるがままだった。 

「抜け駆けして自分だけ遺産を多く貰おうと、お袋を懐柔しようとしたんだな!?」 

(はぁ!?)

 凜々花は思わず声が出そうになった。

(怒るポイントはそこじゃねーだろ! 弟が母を傷付けたかどうか、そこを論点になさいな。こんの業突張ごうつくばりがぁ!!)

「刑事さん、こいつが犯人に違いないですよ! こいつはお袋に金の無心をして、断られてカッとなって殺したんです。弟の会社は経営が上手くいってないそうですしね!」

 正継は刑事達が立つ方向に勝成を突き飛ばした。金が絡むと兄弟同士も敵となるようだ。 

「ちょっとお義兄にいさん、ウチの人に何をするんですかぁ!」

 メイクが派手な若い女性が間に入った。鈴木の点呼で彼女は勝成の後妻だと判明している。名前は望だ。軽薄そうな風貌だがなかなか可愛い。
 四歳の子持ちだが、今日はシッターに預けたとかでこの場に子供は居ない。

「出た、若妻」

 いちいち小声で凜々花に囁いてくる道庭が地味にウザい。

「引っ込んでろ、これは木条家の問題だ!」
「そうよ。外から来た人間は分をわきまえなさい」

 正継と香織が望を疎外した。望だって嫁入りしたのだから木条の人間だろうに。

「でもウチの人は人殺しなんてできる人じゃありませんよぉ。ねぇ、あなた!」 
「あ、当たり前だろう。俺は何もやっていない!」

 若妻の援護を受けて勝成は元気を取り戻した。鈴木がニッコリと笑い返した。 

「では、昨日の朝の行動理由を教えて下さい」 
「う……。理由なんて別に……。こ、子供が実家に顔を出すのに理由がるか!?」 
「いいえ。普通は理由なんてりませんよ。普通ならね」

 鈴木が意味深に繰り返した。 

「勝成さん、貴方は午前九時五十分に裏門を通って、東側の勝手口から屋敷に入りましたね。しかしわずかその十五分後に、やはり勝手口と裏門を使って敷地内から出ています」

 事実を並べられて勝成は言い返せない。

「僕が不思議に思うのは滞在時間の短さと、どうして正門ではなく裏門や勝手口を使ったか、この二点です。裏門は道路に面していて車を停めるには不向きですよね、用水路も在りますし。どうしてわざわざ、昨日に限って正門ではなく裏門を使ったのですか?」 
「……………………」 

 勝成は黙ってしまった。たった十五分間の滞在は確かに不自然だ。そして駐車問題。

(鈴木氏が車について田口氏に聞いていたのは、この裏付けを取る為だったんですな)

 鈴木以外の刑事達は納得した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。