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不審な行動(二)
「では従業員の皆さんにお聞きします」
鈴木の言葉で従業員達の肩がビクッと震えた。
「昨日の朝、勝成さんの姿を見かけたり、彼から声をかけられたという方はいらっしゃいますか?」
問われた彼らは一様に首を横へ振った。家に入った勝成を目撃した者は一人も居なかったのだ。
誰の目にも触れないようにコソコソと……。勝成の行動が一層怪しく思えた。
「田口さん、門の開閉は普段どうなっていますか?」
「門は通常閉じております。香織様ご一家の外出時、お客様がいらした時……、それと使用人が交代する時にだけ開けています」
「門は内側からしか開かないのですか?」
「かんぬきを使用していた昔はそうでしたが、現在は正門も裏門も電子タイプに替わりましたので、カードキーを使えば外からでも開閉できます」
鈴木の目がすうっと細くなった。
「カードキーの枚数と所有者の名前を全て挙げて下さい」
「屋敷に二枚保管されておりますが、従業員はインターフォンで同僚を呼び、中から門を手動で開けてもらう規則ですのでカードキーには触れられません。他には……ええっと……」
田口は頭を掻いて雪子の近親者達を見た。従業員の立場上、彼らの前では言いにくそうだった。
結局は話してくれたのだが。
「離れにお住まいの香織様、悟様、伊織様が全員一枚ずつお持ちで、あとは……、別居されている正継様と勝成様がやはり一枚ずつお持ちです」
「なるほど、勝成さんもね」
鈴木が悪い顔でニタリと笑ったが、勝成は顔を背けて追及から逃れようとした。
「玄関と勝手口の鍵も門と同じタイプですか?」
「門とは違う旧式のものですが、昼間は使用人達が庭と屋敷を頻繁に出入りするもので、玄関と勝手口の鍵は掛けておりません。夜間はしっかり施錠します」
「では明るい時間帯は、門さえ通れば屋敷の中へ簡単に入られる訳ですね」
「はい……、そういうことになります」
S系男子鈴木の顔がどんどん怖くなっていく。獲物を見つけた捕食者の眼だ。
「勝成さん、門のカードキーを所持しているあなたですが、屋敷へ来た時は……」
「ちょっと待ってよ」
鈴木の楽しい狩りが中断された。割り込んできたのは勝成の若妻・望だ。
「田口はさっき、お義兄さんやお義姉さん一家も鍵を持ってるって言ったじゃん。だったらウチの人じゃない、別の誰かの可能性だって有る訳でしょう?」
キンキンと高い声で彼女は夫を擁護した。夫婦仲は取り敢えず良いようだ。
邪魔をされた鈴木の声が一段階低くなった。
「ええ、もちろん全ての可能性を視野に入れて捜査します。望さん、あなたが勝成さんからカードキーを借りて屋敷へ来た可能性も含めて」
「えっ」
自分に話を振られると予想していなかった望は、しどろもどろになった。
「ア、アタシは別にそんな事してないもん……。と、とにかくさぁ、ウチの人ばっかりイジメるんじゃなくて、他の人も疑ってよぉ!」
「若妻ピンチ」
さりげなく合いの手を入れてくる道庭がうるさい。
「はい、全ての嫌疑を一つずつ検証していきます。そして今は、あなたの配偶者の番です」
キッパリと言い切った鈴木に望は気後れしたのか、唇を噛んで俯いた。
邪魔者を排した捕食者が仕切り直した。
「勝成さんは屋敷へ来た時は、台所にも出入りしているのですか?」
「いや……。食事のことなんかは使用人に任せているから、俺は台所には立ち寄らない……」
勝成はモゴモゴと否定しようとしたが、意外な人物がそれを許さなかった。
「勝成様は、お屋敷にいらした時はよく冷蔵庫の中を漁られます!」
意気消沈していたはずの植草であった。
「ご自分で酒の摘みを作られることも有りますので、勝成様なら台所の刃物の種類を把握されております!」
「植草、貴様……!!」
睨む勝成を植草は睨み返した。仕えている主人側の人間を告発するには、どれだけの勇気が必要だっただろう。或いはどれだけの恨みが。
植草は雪子の仇を取ろうとしているのかもしれない。
「勝成、やっぱりおまえがお袋を殺したんだな!? とんでもない奴だ!!」
正継が弟を罵倒した。
「勝成兄さん、どうしてそんな酷い事をしたの!?」
香織も兄を非難した。
「これでおまえにはもう、親父とお袋の遺産は一文も入らんからな!」
「木条の家名に傷を付けるなんて、兄さんという人は……」
「解った、解ったよ、話すから。全部話すから!」
両隣から交互に責められて勝成は、ついに白旗を掲げたのだった。
「罪を認めるんだな?」
「違うって。俺は何もしてない。そうなんだよ、何もせずに帰ったんだよ!」
「どういうことだ?」
勝成は深呼吸をして息を整えた。
「……俺は昨日、確かにこの家に来た。母さんに会う為にな。会社の資金繰りが苦しくて、母さんに少しばかり都合をつけてもらいたかったんだよ」
「でも断られて、それで母さんを……」
「違うって! 最後まで聞いてくれよ兄貴。俺は母さんに会えなかったんだよ」
「え……?」
「母さんに一人で会ったのがバレたら兄貴に怒られると思って、使用人に見つからないようにコッソリ行動したんだ。裏門を使ったのもその為さ。でもな、慎重にし過ぎたせいで俺はなかなか母さんの部屋へ辿り着けなかった」
証言に合わせた光景を想像して刑事達は頷いた。
脂肪で横幅の有る勝成が、広い屋敷とはいえ巨体を人目から隠すのは大変な作業となる。隠密行動のできるデブというのはそうそう居ない。
「そうこうしている間に騒ぎが起こったんだ。母さんが誰かに刺されたって、使用人達が叫んでいるのが聞こえた。最初は俺だって母さんの元へ駆け付けようとしたよ? でもさ、ふと思ったんだ。誰かに刺されたって、それは誰のことだよって」
勝成が再度コフーと深呼吸した。
「まだ犯人が判ってないって意味だろ? そんな場面にコッソリ行動していた俺が現れたらどうなる? 俺が疑われてしまうんじゃないかってさ、そう考えてしまったんだよ」
意外にも勝成は、脂肪の奥に危機感知能力を備えていた。
鈴木の言葉で従業員達の肩がビクッと震えた。
「昨日の朝、勝成さんの姿を見かけたり、彼から声をかけられたという方はいらっしゃいますか?」
問われた彼らは一様に首を横へ振った。家に入った勝成を目撃した者は一人も居なかったのだ。
誰の目にも触れないようにコソコソと……。勝成の行動が一層怪しく思えた。
「田口さん、門の開閉は普段どうなっていますか?」
「門は通常閉じております。香織様ご一家の外出時、お客様がいらした時……、それと使用人が交代する時にだけ開けています」
「門は内側からしか開かないのですか?」
「かんぬきを使用していた昔はそうでしたが、現在は正門も裏門も電子タイプに替わりましたので、カードキーを使えば外からでも開閉できます」
鈴木の目がすうっと細くなった。
「カードキーの枚数と所有者の名前を全て挙げて下さい」
「屋敷に二枚保管されておりますが、従業員はインターフォンで同僚を呼び、中から門を手動で開けてもらう規則ですのでカードキーには触れられません。他には……ええっと……」
田口は頭を掻いて雪子の近親者達を見た。従業員の立場上、彼らの前では言いにくそうだった。
結局は話してくれたのだが。
「離れにお住まいの香織様、悟様、伊織様が全員一枚ずつお持ちで、あとは……、別居されている正継様と勝成様がやはり一枚ずつお持ちです」
「なるほど、勝成さんもね」
鈴木が悪い顔でニタリと笑ったが、勝成は顔を背けて追及から逃れようとした。
「玄関と勝手口の鍵も門と同じタイプですか?」
「門とは違う旧式のものですが、昼間は使用人達が庭と屋敷を頻繁に出入りするもので、玄関と勝手口の鍵は掛けておりません。夜間はしっかり施錠します」
「では明るい時間帯は、門さえ通れば屋敷の中へ簡単に入られる訳ですね」
「はい……、そういうことになります」
S系男子鈴木の顔がどんどん怖くなっていく。獲物を見つけた捕食者の眼だ。
「勝成さん、門のカードキーを所持しているあなたですが、屋敷へ来た時は……」
「ちょっと待ってよ」
鈴木の楽しい狩りが中断された。割り込んできたのは勝成の若妻・望だ。
「田口はさっき、お義兄さんやお義姉さん一家も鍵を持ってるって言ったじゃん。だったらウチの人じゃない、別の誰かの可能性だって有る訳でしょう?」
キンキンと高い声で彼女は夫を擁護した。夫婦仲は取り敢えず良いようだ。
邪魔をされた鈴木の声が一段階低くなった。
「ええ、もちろん全ての可能性を視野に入れて捜査します。望さん、あなたが勝成さんからカードキーを借りて屋敷へ来た可能性も含めて」
「えっ」
自分に話を振られると予想していなかった望は、しどろもどろになった。
「ア、アタシは別にそんな事してないもん……。と、とにかくさぁ、ウチの人ばっかりイジメるんじゃなくて、他の人も疑ってよぉ!」
「若妻ピンチ」
さりげなく合いの手を入れてくる道庭がうるさい。
「はい、全ての嫌疑を一つずつ検証していきます。そして今は、あなたの配偶者の番です」
キッパリと言い切った鈴木に望は気後れしたのか、唇を噛んで俯いた。
邪魔者を排した捕食者が仕切り直した。
「勝成さんは屋敷へ来た時は、台所にも出入りしているのですか?」
「いや……。食事のことなんかは使用人に任せているから、俺は台所には立ち寄らない……」
勝成はモゴモゴと否定しようとしたが、意外な人物がそれを許さなかった。
「勝成様は、お屋敷にいらした時はよく冷蔵庫の中を漁られます!」
意気消沈していたはずの植草であった。
「ご自分で酒の摘みを作られることも有りますので、勝成様なら台所の刃物の種類を把握されております!」
「植草、貴様……!!」
睨む勝成を植草は睨み返した。仕えている主人側の人間を告発するには、どれだけの勇気が必要だっただろう。或いはどれだけの恨みが。
植草は雪子の仇を取ろうとしているのかもしれない。
「勝成、やっぱりおまえがお袋を殺したんだな!? とんでもない奴だ!!」
正継が弟を罵倒した。
「勝成兄さん、どうしてそんな酷い事をしたの!?」
香織も兄を非難した。
「これでおまえにはもう、親父とお袋の遺産は一文も入らんからな!」
「木条の家名に傷を付けるなんて、兄さんという人は……」
「解った、解ったよ、話すから。全部話すから!」
両隣から交互に責められて勝成は、ついに白旗を掲げたのだった。
「罪を認めるんだな?」
「違うって。俺は何もしてない。そうなんだよ、何もせずに帰ったんだよ!」
「どういうことだ?」
勝成は深呼吸をして息を整えた。
「……俺は昨日、確かにこの家に来た。母さんに会う為にな。会社の資金繰りが苦しくて、母さんに少しばかり都合をつけてもらいたかったんだよ」
「でも断られて、それで母さんを……」
「違うって! 最後まで聞いてくれよ兄貴。俺は母さんに会えなかったんだよ」
「え……?」
「母さんに一人で会ったのがバレたら兄貴に怒られると思って、使用人に見つからないようにコッソリ行動したんだ。裏門を使ったのもその為さ。でもな、慎重にし過ぎたせいで俺はなかなか母さんの部屋へ辿り着けなかった」
証言に合わせた光景を想像して刑事達は頷いた。
脂肪で横幅の有る勝成が、広い屋敷とはいえ巨体を人目から隠すのは大変な作業となる。隠密行動のできるデブというのはそうそう居ない。
「そうこうしている間に騒ぎが起こったんだ。母さんが誰かに刺されたって、使用人達が叫んでいるのが聞こえた。最初は俺だって母さんの元へ駆け付けようとしたよ? でもさ、ふと思ったんだ。誰かに刺されたって、それは誰のことだよって」
勝成が再度コフーと深呼吸した。
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