11 / 61
不審な行動(三)
「だから俺は何もせずに逃げ帰った。そうするしかなかったんだ。俺は何もしていないよ。母さんを殺したのは誓って俺じゃない!」
勝成の告白を聞いた正継と香織は互いに顔を見合わせた。告白が真実か嘘か判断しかねている風だった。
鈴木が場を収めた。
「勝成さんのお話は、一応筋道が立っています」
「だろう? 俺が犯人じゃないって解ってくれたか!?」
「いえ。お話だけでは残念ながら、あなたが雪子さんの部屋に行っていないという証明にはなりません」
「そんな……」
「勝成さんにはいずれ現場検証に立ち会って頂き、再度お話を伺うことになります。さて、次は伊織さんにお尋ねします」
「へっ、お、俺!?」
鈴木が唐突に指名したのは香織の息子の名前だった。
プロフィールでは地元大学卒業後、短期のアルバイト以外の職には就かず実家暮らし。日々趣味のバイクいじりに勤しんでいる、典型的な金持ちのボンボンだ。
「俺が、何なんスか……?」
「あなたも防犯カメラに映っていました。昨日の午前九時四十分、玄関と正門を通って屋敷の敷地内から外へ出ていますね」
「えっ、あ、はい」
「現在は仕事に就いていないようですが、何のご用で外出したのですか?」
「ああ、そのことっスか。ひゃは、何を聞かれるのかと勘ぐって、俺ビビッちゃいましたよ~。ひゃははは~~」
伊織という名の青年は、美しかった祖母と母の遺伝を受け継ぎ顔立ちは整っていたものの、猫背と卑屈そうな態度がそれを台無しにしていた。
喋り方は道庭と似ているが、笑い声が比較にならないほど下品だった。
「町のバイク屋に行ったんス。一昨日の夕方にですね、注文していた部品が入荷したってバイク屋から電話が有ったもんで、昨日は開店時刻に合わせて店に向かいました」
「そうですか。店の名前と所在地を教えて下さい」
「いいっスよ。ちょっとスマホ見ますね。ええと、馬参道町四丁目の……」
伊織は携帯電話に登録してあった店の住所と名前を告げた。凜々花が速記でメモ帳へ記す。
「続いて伊織さんのお母様である香織さん、午前九時三十分から十時の間、あなたは何をされていましたか?」
「わたくし……ですか?」
「はい」
「……自分の部屋に居りました。ええ、この屋敷の離れに在る我が家で、その時間帯は読書をしていたと思います」
「それを証明してくれる人は居ますか?」
「あの……?」
香織は困惑し、にわかに大広間が騒然となった。
Sっ気の有るハンサム警部が関係者全員の現場不在証明、所謂アリバイ確認をしていることに人々は気づいたのだ。
「いいえ、夫はとっくに出勤していましたし、息子とも朝食以降は顔を合わせなかったものですから……。ですが、本当にその時刻は自分の部屋に居りましたわ」
(香織どのは自室、夫の悟氏は県庁に居た……と)
凜々花の手帳に新情報が続々と書き込まれていく。
「悟さんは事件発生当時、職場でお仕事中だったことに間違い有りませんか?」
「ええ。タイムカードを調べるなり、同僚に聞くなり、お好きになさって下さい」
悟は余裕綽々で答えた。眼鏡をかけた細身の神経質そうな男。その外見に合わず肝は座っている模様だ。
「正継さん、あなたはどうでしょう?」
「……俺は会社に居たよ」
「奥様の涼子さんは?」
「自宅に居りました。家政婦に聞いて下さい」
正継の妻は影の薄い女であった。人混みに紛れられたらまず見つけられない、そんな女性だった。
(おやおや、涼子どのは会社専務のはず。出勤しておられなかったのですかな?)
不思議に思った凜々花が首を傾げた。
土日も営業する不動産業だから、平日に休みを取っただけかもしれない。
(もしも出勤せずに報酬を得る、名ばかりの役員だとしたらGo to hellですけどな)
鈴木の尋問が続く。
「ご子息の正貴さんと忠之さんはその時間帯、どちらに居ましたか?」
正継の二人の息子は三歳離れている兄弟だが、まるで双子の如くよく似ていた。黒髪短髪が正貴、若干長めで茶色の髪が忠之だ。細身なのに筋肉がしっかりと付いていた。一家でスポーツ好きなのかもしれない。
まずは兄の正貴が答えた。
「俺は……一度は会社に出勤しましたが、午前中は何件か取引先を回らなければならない用事が有ったので、十時前後は車で移動中だったかもしれません」
「車にドライブレコーダーは積んでありますか?」
「はい。必要でしたら提出します」
続いて弟の忠之が答えた。
「俺はずっと会社に居ました。父の側で作業していましたから、父のアリバイも証明できます。社員達にも聞いてみて下さい」
忠之の発言はハキハキとして澱みが無かった。自分のアリバイに自信が有る故の快活さか。
「勝成さんの奥様、望さんの当日の行動を教えて下さい」
「ついに若妻の番キタ──」
囁き魔・道庭を完全にスルーすることを凜々花は決めた。メモ取りの邪魔でしかない。
「ア、 アタシはぁ、子供を幼稚園に送った後は家に居たよ?」
「どなたかと一緒に居ましたか?」
「い、いえ、一人、でした……」
鈴木を恐れた望には、噛み付いてくるだけの勢いがもはや無かった。「つまんね」と道庭が呟いていた。
これで雪子の近親者の話は一通り聞いたことになる。次は従業員の番である。
「植草さんと田口さんは一緒に行動していたのですよね?」
「はい」
鈴木の問いかけに、田口ではなく植草が答えた。彼の声には力強さが戻っていた。
「昨日の朝は奥様に、部屋からできるだけ近くの適した木に、小鳥の巣箱を設置するよう申しつけられたのです。高所の作業となりますので一人では心もとなく、田口に手伝ってもらいました」
「巣箱はお庭に毎年取り付けているのですか?」
「いいえ。私が知る限り今年が初めてです。昨日急に奥様から新品の巣箱を手渡されて、少しばかり驚きました」
雪子が初めて見せた行動……。事件と関係するのだろうか?
勝成の告白を聞いた正継と香織は互いに顔を見合わせた。告白が真実か嘘か判断しかねている風だった。
鈴木が場を収めた。
「勝成さんのお話は、一応筋道が立っています」
「だろう? 俺が犯人じゃないって解ってくれたか!?」
「いえ。お話だけでは残念ながら、あなたが雪子さんの部屋に行っていないという証明にはなりません」
「そんな……」
「勝成さんにはいずれ現場検証に立ち会って頂き、再度お話を伺うことになります。さて、次は伊織さんにお尋ねします」
「へっ、お、俺!?」
鈴木が唐突に指名したのは香織の息子の名前だった。
プロフィールでは地元大学卒業後、短期のアルバイト以外の職には就かず実家暮らし。日々趣味のバイクいじりに勤しんでいる、典型的な金持ちのボンボンだ。
「俺が、何なんスか……?」
「あなたも防犯カメラに映っていました。昨日の午前九時四十分、玄関と正門を通って屋敷の敷地内から外へ出ていますね」
「えっ、あ、はい」
「現在は仕事に就いていないようですが、何のご用で外出したのですか?」
「ああ、そのことっスか。ひゃは、何を聞かれるのかと勘ぐって、俺ビビッちゃいましたよ~。ひゃははは~~」
伊織という名の青年は、美しかった祖母と母の遺伝を受け継ぎ顔立ちは整っていたものの、猫背と卑屈そうな態度がそれを台無しにしていた。
喋り方は道庭と似ているが、笑い声が比較にならないほど下品だった。
「町のバイク屋に行ったんス。一昨日の夕方にですね、注文していた部品が入荷したってバイク屋から電話が有ったもんで、昨日は開店時刻に合わせて店に向かいました」
「そうですか。店の名前と所在地を教えて下さい」
「いいっスよ。ちょっとスマホ見ますね。ええと、馬参道町四丁目の……」
伊織は携帯電話に登録してあった店の住所と名前を告げた。凜々花が速記でメモ帳へ記す。
「続いて伊織さんのお母様である香織さん、午前九時三十分から十時の間、あなたは何をされていましたか?」
「わたくし……ですか?」
「はい」
「……自分の部屋に居りました。ええ、この屋敷の離れに在る我が家で、その時間帯は読書をしていたと思います」
「それを証明してくれる人は居ますか?」
「あの……?」
香織は困惑し、にわかに大広間が騒然となった。
Sっ気の有るハンサム警部が関係者全員の現場不在証明、所謂アリバイ確認をしていることに人々は気づいたのだ。
「いいえ、夫はとっくに出勤していましたし、息子とも朝食以降は顔を合わせなかったものですから……。ですが、本当にその時刻は自分の部屋に居りましたわ」
(香織どのは自室、夫の悟氏は県庁に居た……と)
凜々花の手帳に新情報が続々と書き込まれていく。
「悟さんは事件発生当時、職場でお仕事中だったことに間違い有りませんか?」
「ええ。タイムカードを調べるなり、同僚に聞くなり、お好きになさって下さい」
悟は余裕綽々で答えた。眼鏡をかけた細身の神経質そうな男。その外見に合わず肝は座っている模様だ。
「正継さん、あなたはどうでしょう?」
「……俺は会社に居たよ」
「奥様の涼子さんは?」
「自宅に居りました。家政婦に聞いて下さい」
正継の妻は影の薄い女であった。人混みに紛れられたらまず見つけられない、そんな女性だった。
(おやおや、涼子どのは会社専務のはず。出勤しておられなかったのですかな?)
不思議に思った凜々花が首を傾げた。
土日も営業する不動産業だから、平日に休みを取っただけかもしれない。
(もしも出勤せずに報酬を得る、名ばかりの役員だとしたらGo to hellですけどな)
鈴木の尋問が続く。
「ご子息の正貴さんと忠之さんはその時間帯、どちらに居ましたか?」
正継の二人の息子は三歳離れている兄弟だが、まるで双子の如くよく似ていた。黒髪短髪が正貴、若干長めで茶色の髪が忠之だ。細身なのに筋肉がしっかりと付いていた。一家でスポーツ好きなのかもしれない。
まずは兄の正貴が答えた。
「俺は……一度は会社に出勤しましたが、午前中は何件か取引先を回らなければならない用事が有ったので、十時前後は車で移動中だったかもしれません」
「車にドライブレコーダーは積んでありますか?」
「はい。必要でしたら提出します」
続いて弟の忠之が答えた。
「俺はずっと会社に居ました。父の側で作業していましたから、父のアリバイも証明できます。社員達にも聞いてみて下さい」
忠之の発言はハキハキとして澱みが無かった。自分のアリバイに自信が有る故の快活さか。
「勝成さんの奥様、望さんの当日の行動を教えて下さい」
「ついに若妻の番キタ──」
囁き魔・道庭を完全にスルーすることを凜々花は決めた。メモ取りの邪魔でしかない。
「ア、 アタシはぁ、子供を幼稚園に送った後は家に居たよ?」
「どなたかと一緒に居ましたか?」
「い、いえ、一人、でした……」
鈴木を恐れた望には、噛み付いてくるだけの勢いがもはや無かった。「つまんね」と道庭が呟いていた。
これで雪子の近親者の話は一通り聞いたことになる。次は従業員の番である。
「植草さんと田口さんは一緒に行動していたのですよね?」
「はい」
鈴木の問いかけに、田口ではなく植草が答えた。彼の声には力強さが戻っていた。
「昨日の朝は奥様に、部屋からできるだけ近くの適した木に、小鳥の巣箱を設置するよう申しつけられたのです。高所の作業となりますので一人では心もとなく、田口に手伝ってもらいました」
「巣箱はお庭に毎年取り付けているのですか?」
「いいえ。私が知る限り今年が初めてです。昨日急に奥様から新品の巣箱を手渡されて、少しばかり驚きました」
雪子が初めて見せた行動……。事件と関係するのだろうか?
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。