腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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不審な行動(三)

「だから俺は何もせずに逃げ帰った。そうするしかなかったんだ。俺は何もしていないよ。母さんを殺したのは誓って俺じゃない!」

 勝成の告白を聞いた正継と香織は互いに顔を見合わせた。告白が真実か嘘か判断しかねている風だった。
 鈴木が場を収めた。 

「勝成さんのお話は、一応筋道が立っています」 
「だろう? 俺が犯人じゃないって解ってくれたか!?」 
「いえ。お話だけでは残念ながら、あなたが雪子さんの部屋に行っていないという証明にはなりません」 
「そんな……」 
「勝成さんにはいずれ現場検証に立ち会って頂き、再度お話を伺うことになります。さて、次は伊織さんにお尋ねします」 
「へっ、お、俺!?」 

 鈴木が唐突に指名したのは香織の息子の名前だった。
 プロフィールでは地元大学卒業後、短期のアルバイト以外の職にはかず実家暮らし。日々趣味のバイクいじりにいそしんでいる、典型的な金持ちのボンボンだ。

「俺が、何なんスか……?」 
「あなたも防犯カメラに映っていました。昨日の午前九時四十分、玄関と正門を通って屋敷の敷地内から外へ出ていますね」 
「えっ、あ、はい」 
「現在は仕事にいていないようですが、何のご用で外出したのですか?」 
「ああ、そのことっスか。ひゃは、何を聞かれるのかと勘ぐって、俺ビビッちゃいましたよ~。ひゃははは~~」

 伊織という名の青年は、美しかった祖母と母の遺伝を受け継ぎ顔立ちは整っていたものの、猫背と卑屈そうな態度がそれを台無しにしていた。 
 喋り方は道庭と似ているが、笑い声が比較にならないほど下品だった。

「町のバイク屋に行ったんス。一昨日おとといの夕方にですね、注文していた部品が入荷したってバイク屋から電話が有ったもんで、昨日は開店時刻に合わせて店に向かいました」 
「そうですか。店の名前と所在地を教えて下さい」 
「いいっスよ。ちょっとスマホ見ますね。ええと、馬参道ばさんどう町四丁目の……」

 伊織は携帯電話に登録してあった店の住所と名前を告げた。凜々花が速記でメモ帳へ記す。

「続いて伊織さんのお母様である香織さん、午前九時三十分から十時の間、あなたは何をされていましたか?」 
「わたくし……ですか?」 
「はい」 
「……自分の部屋にりました。ええ、この屋敷の離れに在る我が家で、その時間帯は読書をしていたと思います」 
「それを証明してくれる人は居ますか?」 
「あの……?」

 香織は困惑し、にわかに大広間が騒然となった。
 Sっ気の有るハンサム警部が関係者全員の現場不在証明、所謂いわゆるアリバイ確認をしていることに人々は気づいたのだ。 

「いいえ、夫はとっくに出勤していましたし、息子とも朝食以降は顔を合わせなかったものですから……。ですが、本当にその時刻は自分の部屋にりましたわ」 
 
(香織どのは自室、夫の悟氏は県庁に居た……と)

 凜々花の手帳に新情報が続々と書き込まれていく。

「悟さんは事件発生当時、職場でお仕事中だったことに間違い有りませんか?」
「ええ。タイムカードを調べるなり、同僚に聞くなり、お好きになさって下さい」

 悟は余裕綽々しゃくしゃくで答えた。眼鏡をかけた細身の神経質そうな男。その外見に合わず肝は座っている模様だ。 

「正継さん、あなたはどうでしょう?」 
「……俺は会社に居たよ」 
「奥様の涼子さんは?」 
「自宅にりました。家政婦に聞いて下さい」

 正継の妻は影の薄い女であった。人混みに紛れられたらまず見つけられない、そんな女性だった。 

(おやおや、涼子どのは会社専務のはず。出勤しておられなかったのですかな?)

 不思議に思った凜々花が首を傾げた。
 土日も営業する不動産業だから、平日に休みを取っただけかもしれない。

(もしも出勤せずに報酬を得る、名ばかりの役員だとしたらGo to hellヘルですけどな)

 鈴木の尋問が続く。
 
「ご子息の正貴さんと忠之さんはその時間帯、どちらに居ましたか?」 

 正継の二人の息子は三歳離れている兄弟だが、まるで双子の如くよく似ていた。黒髪短髪が正貴、若干長めで茶色の髪が忠之だ。細身なのに筋肉がしっかりと付いていた。一家でスポーツ好きなのかもしれない。
 まずは兄の正貴が答えた。 

「俺は……一度は会社に出勤しましたが、午前中は何件か取引先を回らなければならない用事が有ったので、十時前後は車で移動中だったかもしれません」 
「車にドライブレコーダーは積んでありますか?」 
「はい。必要でしたら提出します」

 続いて弟の忠之が答えた。 

「俺はずっと会社に居ました。父の側で作業していましたから、父のアリバイも証明できます。社員達にも聞いてみて下さい」

 忠之の発言はハキハキとしてよどみが無かった。自分のアリバイに自信が有る故の快活さか。

「勝成さんの奥様、望さんの当日の行動を教えて下さい」
「ついに若妻の番キタ──」

 囁き魔・道庭を完全にスルーすることを凜々花は決めた。メモ取りの邪魔でしかない。
 
「ア、 アタシはぁ、子供を幼稚園に送った後は家に居たよ?」
「どなたかと一緒に居ましたか?」 
「い、いえ、一人、でした……」 

 鈴木を恐れた望には、噛み付いてくるだけの勢いがもはや無かった。「つまんね」と道庭が呟いていた。
 これで雪子の近親者の話は一通り聞いたことになる。次は従業員の番である。

「植草さんと田口さんは一緒に行動していたのですよね?」
「はい」

  鈴木の問いかけに、田口ではなく植草が答えた。彼の声には力強さが戻っていた。

「昨日の朝は奥様に、部屋からできるだけ近くの適した木に、小鳥の巣箱を設置するよう申しつけられたのです。高所の作業となりますので一人では心もとなく、田口に手伝ってもらいました」 
「巣箱はお庭に毎年取り付けているのですか?」 
「いいえ。私が知る限り今年が初めてです。昨日急に奥様から新品の巣箱を手渡されて、少しばかり驚きました」

 雪子が初めて見せた行動……。事件と関係するのだろうか? 
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