腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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不穏な行動(四)

「巣箱は雪子さんがあらかじめ用意していたのですね。雪子さんが買ってこられたのでしょうか?」

 鈴木の口調が穏やかなものになった。植草が協力的だからだろう。

「いいえ。奥様はお車での外出を滅多にされませんでした。なのでいつ巣箱をご用意されたのか、私どもにも解らないのです」
「ああ、巣箱ならたぶん俺が買ってきたヤツだと思います」

 バイク大好き青年の伊織が口を挟んだ。

「バァちゃんに頼まれて、先月の終わりにホームセンターへ行ったんス。俺、よくバァちゃんに使いを頼まれるんスよ」

 それを明らかに馬鹿にした口調で、忠之から補足が入った。 

「伊織はずっと祖母から小遣いを貰っていた身ですからね。お使いくらいやらないと」

 伊織は現在無職だ。父親の経営する会社とはいえ、就職している正貴・忠之兄弟の方が断然立派に見えた。話し方も含めて。 
 鈴木が質問先を変えた。

「島津さんがお休みだったので、早番の残る一人は戸田さんですね。皆さんにしたのと同じ質問となりますが、事件発生当時、戸田さんは何をされていましたか?」 
「その時間でしたら、いつも通りお屋敷の掃除をしていました……」

 戸田は四十二歳と資料にあるが、年齢よりもだいぶ老けて見えた。

「昨日は亡くなられた旦那様……、保正様が使われていたお部屋の整理をしていました。ですから騒ぎには気づかず、救急車と警察の方がいらしてからようやく事件を知りました」 
「ん、気づかなかったのですか? 勝成さんは従業員の叫び声を聞いたそうですが」 
「奥様のお部屋と旦那様のお部屋とでは、かなり距離がございますので……。私はお部屋の扉を閉めておりましたし」

(広い家ではそういう事態も有り得るのですな)

 時間が経てば経つほど犯人の痕跡が消えてしまう中、雪子の部屋の物音を植草と田口が聞き取り早い段階で異変に気づけたのは、かなりの幸運だったのかもしれないと刑事達は思った。

「遅番の従業員の皆さんとお休みだった島津さんは、昨日の午前九時台と十時台はお屋敷に不在だった、これに間違い有りませんか?」 
「「「間違い有りません!」」」

 該当する従業員達の声が綺麗にハモった。容疑から外れたいという意志が込められていた。 

「警備担当の富長さんと前川さんにお聞きします。お屋敷は高い塀に囲まれておりますが、どこか破損しているとか、まぁ端的に申しまして、門以外から敷地内へ侵入できるルートは有りますか?」 
「いいえ」

 眼光鋭い男が否定した。警備員の富長は柔道四段の実力だそうだ。もう少し若ければ警察にスカウトしていたのにと、筋肉は正義と信じる郷島は密かに思った。 

「塀は少しの破損でもすぐ修理しています。そして塀の外側には用水路という名目でお掘を巡らせておりますので、梯子はしごを使っても塀を越えるには困難するでしょう。だからこそ正門と裏門、玄関と勝手口の四ヶ所にしか防犯カメラを設置していないのです」

 富長の説明を聞いて、とうとう静かにしていられなくなった道庭が皆に聞こえる声で感想を述べた。 

「そうそう、このお屋敷の造りって塀や掘、庭の木や池の配置がまるで戦国時代のお城のようなんスよね。鉄壁の要塞と言うか」

 大広間に居た雪子の関係者が、カラクリ人形の様に首をカクっと動かして、一人も漏れることなく一斉に道庭を見た。

「ひゅっ!?」

 予期せず注目を浴びた道庭は息を吸い込んだ。彼を見る人々の目にはさげすみがにじみ出ていた。
 
「あの……先輩、俺は何かおかしなことを言いましたか?」

 恐る恐る道庭は凜々花に尋ねた。 

「道庭くんは御宅みたけ市出身ではないの?」
「出身は他県なんス。高校時代に親の仕事の都合でこっちへ引っ越してきました」

 (ああ~……、道庭氏は私と同じ外から来た人間でしたか。だから彼も捜査メンバーに選ばれたのですな)

「やれやれ、その兄ちゃんは何も知らんようだな」

 下卑た声が道庭をなじった。どうせアイツだろうと凜々花が思った通り、野次を飛ばしたのは固太りの正継だった。 

「この屋敷が要塞みたいな造りなのは、四百年前の武家屋敷の名残なごりを受け継いでいるからだ。そして俺達は、騎馬将軍とうたわれた木条正親の直系の子孫なんだよ」 
 「キジョウマサチカ……」

 初めて聞く話だったらしく、道庭が困惑していた。 

「明治維新で長く仕えていた大名家が滅んだ後も、木条一族は存続し続けた。先見の明で時流に乗った一族の者は、常に未来を見据えて時代の一歩先を行き、世界大戦という激動の時代においても領地と小作人を……」

 頼んでもいない正継の御高説が始まった。刑事達はげんなりしたが、雪子の親族と使用人達はうんうんと頷いて話を聞いていた。木条正親は未だに地元民から慕われる偉大なお殿様らしい。

「木条の発展に馬在りと言われるほどに、一族は馬の扱いにけていた。現在の道路事情にともない敷地内で馬を飼うことはやめたが、オーナーとして競走馬を数頭所持しているよ。息子達は乗馬クラブに通わせているしな」

 正継は得意げに二人の息子を見やった。

「木条家の男子たるもの、馬くらい乗れないとね。誰かさんは乗れないみたいだけど?」

 またも馬鹿にした口調で忠之が伊織に絡んだ。凜々花は察した。

(バイク好きの伊織氏は馬には乗れないのですな。バイクの扱いだって難しいものだと思いますし、そこまで彼を馬鹿にしなくてもいいのでは?)

 忠之の攻撃は続く。

「仕事にしてもそうだけどさ伊織、おまえには木条一族の誇りが無いの?」

 従兄弟いとこという間柄のこの二人は、贔屓目ひいきめに見ても仲が良いとは思えなかった。

(同い年ということでライバル心とか、そういった難しい心理が働いてしまうのでしょうか)

 見下された伊織は軽く肩をすくめただけで、忠之に反論しようとはしなかった。 
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