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鈴木との親密度が10上がった(二)
「あの、先ほど脳内で再現した勝成さんの行動は……」
空気を変えたい凜々花は話題を戻した。
「滞在時間十五分では難しいかもしれません」
鈴木が頷いて賛同した。
「ですね。僕が示した勝成の行動の中で、省略できる部分は有るでしょうか?」
「省略ですか。ええと……」
屋敷の出入りは録画されているのだから決定事項。屋敷内の行動では、雪子が時間差で傷付けられた事が決定事項。
削れる部分としては援助の申し込みと、台所にナイフを取りに行く工程。
(凶器は絶対に必要ですぞ。となると……)
凜々花はしばし考え込んでしまったが、鈴木は急かさず待っていてくれた。
(あ、そうだ)
「勝成さんが初めから殺意を持って屋敷を訪れていたのなら、雪子さんに融資を頼む時間を省略できます」
父親が残した遺産の取り分を増やす為、勝成は兄の正継と手を組み、雪子に遺産を放棄するよう連日詰め寄っていたそうだ。毎日来ていたということは、雪子は「うん」と言わなかったのだろう。
ならいっそ母親も死んでしまえばいいと、勝成は短絡的な結論に至ってしまったのかもしれない。
「勝成は被害者を初めから殺すつもりで屋敷へ来たと……。それなら被害者と話し合う必要なんて無いですね」
「はい。計画的犯行であるのなら、雪子さんの部屋へ行く前に台所へ寄って凶器を入手していたのではないでしょうか。それならば余計に時間を短縮できます」
「なるほど、屋敷に入ってすぐ台所へ直行していたとしたら、被害者の部屋から引き返す無駄な時間も無くなる訳ですね」
これならば十五分の間に充分犯行が可能だ。雪子が犯人を説得したかもしれないという仮説も真実味を増した。勝成は雪子にとって腹を痛めて産んだ我が子なのだから。
「素晴らしいです、早見さん」
「は?」
唐突な褒め言葉が鈴木の口から飛び出した。
「現場に立つ捜査官としての素質、僕は貴女にそれが備わっていることを認めます」
「え、は、ありがとうございます。ですがその、え……?」
困惑する凜々花。対照的に鈴木は神妙な態度となった。
「すみません、僕はあなたを侮っていました」
「?」
「あなたはここしばらく、ずっと事務仕事に専念されていたと課長から伺いました。なのでちゃんと現場で働けるのか、刑事の勘が鈍っているのではないかと、余計な心配をしてしまったんです」
(その気持ち解りますぞ。私自身が不安でいっぱいですからな)
「失礼でした。どうか許して下さい」
上官であるのに頭を下げた鈴木。彼の本音を聞いても凜々花は腹を立てなかった。むしろ真摯に謝ってもらえて感激した。
(黙っていれば私には判らないのに……。誠実なお人です)
「お顔を上げて下さい警部。私はまったく気にしておりません」
鈴木の表情が輝いた。
「ありがとうございます。パートナーとして改めて宜しくお願いします。共に事件解決の為に頑張りましょう」
「はい、こちらこそ!」
認められた嬉しさで、凜々花の口元も自然に緩んだ。
「ふふ、早見さんはそういう風に笑うんですね。柔らかい表情も素敵です」
「!」
(ぐはぁぁぁ~!!!! このお方は何サラッと殺し文句を吐きやがるのですか~~!!)
動揺を隠そうと凜々花は再び話題を戻した。
「警部も、勝成さんを第一の容疑者として考えていらっしゃるのですね?」
「いえ、そうでもないです」
(ええ~……)
凜々花の浮かれた気持ちが一瞬にして萎んだ。
(私の考えを推してくれたのではなかったのですか~?)
鈴木の表情が引き締まった。
「この事件には複雑な裏が有りそうな気がします」
「裏……ですか?」
「ええ。木条一族について詳しく知らないと物事の本質を見逃してしまう、そんな予感がするんです」
(詳しくか……)
「警部、署に馬参道出身の警察官が居るかもしれません。居ましたら事情に精通しているでしょうから、話を聞いてみましょう」
「それは駄目です」
凜々花の提案はすげなく却下された。どうして?
「早見さんも正継の態度を見たでしょう? 彼は市警察以外の警官が事件に関わることを嫌がっていた。裏を返せば市警察なら大丈夫、自分達に便宜を図ってくれると考えているのです」
「……警官の中に、木条一族にとって不利となる情報を、故意に握り潰す者が居るかもしれないということですか」
「もしくは僕達の捜査がどこまで進んでいるか、こちらの情報を漏らされるかもしれません」
苦々しく鈴木は言い切った。
「同僚を疑うのはつらいですよね。だけれど、地域に根付く名士の力は想像以上に恐ろしいものなんです」
暗い現実だ。課長が馬参道出身者を、捜査メンバーに入れなかったのはこういう理由が有ったからなのだ。
(町民が捜査に非協力姿勢となるのは予想しておりましたが、身内である警官まで……)
「あ、ですが警部」
凜々花は一人の例外を思い出した。
「使用人頭の植草さんはどうでしょう? 木条家に雇われている身でありながら、勝成さんが不利になる証言を積極的にしていました」
「良い着眼点ですね。僕も植草は本件におけるキーマンだと思っています。被害者の仇討ちをしたいのか、自分にかかる容疑を減らしたいのか、理由はどうあれ一族の内情を暴露してくれる存在は有り難いですね。植草を上手く乗せてどんどん喋らせましょう。調子に乗った彼がボロを出してくれるかもしれません。植草がシロだとしても、被害者の子供達三家族の情報は手に入る訳ですからね。こちらにとって損は無い!」
イキイキとした顔で鈴木は捲くし立てた。
(鈴木氏は尋問が大好きなのですな。好きなことの話題になった途端に早口になるこの感じ……、我らオタクに通じるものが有りますぞ)
鈴木を見て凜々花は既視感に囚われたのであった。
空気を変えたい凜々花は話題を戻した。
「滞在時間十五分では難しいかもしれません」
鈴木が頷いて賛同した。
「ですね。僕が示した勝成の行動の中で、省略できる部分は有るでしょうか?」
「省略ですか。ええと……」
屋敷の出入りは録画されているのだから決定事項。屋敷内の行動では、雪子が時間差で傷付けられた事が決定事項。
削れる部分としては援助の申し込みと、台所にナイフを取りに行く工程。
(凶器は絶対に必要ですぞ。となると……)
凜々花はしばし考え込んでしまったが、鈴木は急かさず待っていてくれた。
(あ、そうだ)
「勝成さんが初めから殺意を持って屋敷を訪れていたのなら、雪子さんに融資を頼む時間を省略できます」
父親が残した遺産の取り分を増やす為、勝成は兄の正継と手を組み、雪子に遺産を放棄するよう連日詰め寄っていたそうだ。毎日来ていたということは、雪子は「うん」と言わなかったのだろう。
ならいっそ母親も死んでしまえばいいと、勝成は短絡的な結論に至ってしまったのかもしれない。
「勝成は被害者を初めから殺すつもりで屋敷へ来たと……。それなら被害者と話し合う必要なんて無いですね」
「はい。計画的犯行であるのなら、雪子さんの部屋へ行く前に台所へ寄って凶器を入手していたのではないでしょうか。それならば余計に時間を短縮できます」
「なるほど、屋敷に入ってすぐ台所へ直行していたとしたら、被害者の部屋から引き返す無駄な時間も無くなる訳ですね」
これならば十五分の間に充分犯行が可能だ。雪子が犯人を説得したかもしれないという仮説も真実味を増した。勝成は雪子にとって腹を痛めて産んだ我が子なのだから。
「素晴らしいです、早見さん」
「は?」
唐突な褒め言葉が鈴木の口から飛び出した。
「現場に立つ捜査官としての素質、僕は貴女にそれが備わっていることを認めます」
「え、は、ありがとうございます。ですがその、え……?」
困惑する凜々花。対照的に鈴木は神妙な態度となった。
「すみません、僕はあなたを侮っていました」
「?」
「あなたはここしばらく、ずっと事務仕事に専念されていたと課長から伺いました。なのでちゃんと現場で働けるのか、刑事の勘が鈍っているのではないかと、余計な心配をしてしまったんです」
(その気持ち解りますぞ。私自身が不安でいっぱいですからな)
「失礼でした。どうか許して下さい」
上官であるのに頭を下げた鈴木。彼の本音を聞いても凜々花は腹を立てなかった。むしろ真摯に謝ってもらえて感激した。
(黙っていれば私には判らないのに……。誠実なお人です)
「お顔を上げて下さい警部。私はまったく気にしておりません」
鈴木の表情が輝いた。
「ありがとうございます。パートナーとして改めて宜しくお願いします。共に事件解決の為に頑張りましょう」
「はい、こちらこそ!」
認められた嬉しさで、凜々花の口元も自然に緩んだ。
「ふふ、早見さんはそういう風に笑うんですね。柔らかい表情も素敵です」
「!」
(ぐはぁぁぁ~!!!! このお方は何サラッと殺し文句を吐きやがるのですか~~!!)
動揺を隠そうと凜々花は再び話題を戻した。
「警部も、勝成さんを第一の容疑者として考えていらっしゃるのですね?」
「いえ、そうでもないです」
(ええ~……)
凜々花の浮かれた気持ちが一瞬にして萎んだ。
(私の考えを推してくれたのではなかったのですか~?)
鈴木の表情が引き締まった。
「この事件には複雑な裏が有りそうな気がします」
「裏……ですか?」
「ええ。木条一族について詳しく知らないと物事の本質を見逃してしまう、そんな予感がするんです」
(詳しくか……)
「警部、署に馬参道出身の警察官が居るかもしれません。居ましたら事情に精通しているでしょうから、話を聞いてみましょう」
「それは駄目です」
凜々花の提案はすげなく却下された。どうして?
「早見さんも正継の態度を見たでしょう? 彼は市警察以外の警官が事件に関わることを嫌がっていた。裏を返せば市警察なら大丈夫、自分達に便宜を図ってくれると考えているのです」
「……警官の中に、木条一族にとって不利となる情報を、故意に握り潰す者が居るかもしれないということですか」
「もしくは僕達の捜査がどこまで進んでいるか、こちらの情報を漏らされるかもしれません」
苦々しく鈴木は言い切った。
「同僚を疑うのはつらいですよね。だけれど、地域に根付く名士の力は想像以上に恐ろしいものなんです」
暗い現実だ。課長が馬参道出身者を、捜査メンバーに入れなかったのはこういう理由が有ったからなのだ。
(町民が捜査に非協力姿勢となるのは予想しておりましたが、身内である警官まで……)
「あ、ですが警部」
凜々花は一人の例外を思い出した。
「使用人頭の植草さんはどうでしょう? 木条家に雇われている身でありながら、勝成さんが不利になる証言を積極的にしていました」
「良い着眼点ですね。僕も植草は本件におけるキーマンだと思っています。被害者の仇討ちをしたいのか、自分にかかる容疑を減らしたいのか、理由はどうあれ一族の内情を暴露してくれる存在は有り難いですね。植草を上手く乗せてどんどん喋らせましょう。調子に乗った彼がボロを出してくれるかもしれません。植草がシロだとしても、被害者の子供達三家族の情報は手に入る訳ですからね。こちらにとって損は無い!」
イキイキとした顔で鈴木は捲くし立てた。
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