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嵐の親睦会
「チーム結成を祝って乾杯!」
鈴木の音頭に合わせて、「木条雪子変死事件」を担当する刑事達が、手に持ったそれぞれのグラスを掲げて空中で合わせた。
ここは御宅署から徒歩十五分の距離に在る、完全個室タイプの居酒屋である。業務終了後に鈴木が宣言した通り親睦会が開催されることになったのだ。水曜日の夜だったので予約無しでも席に着けた。
鈴木と道庭がビール、凜々花がレモンサワーで、下戸の郷島はリンゴジュースに口を付けた。
「ふぃ~、生き返る!!」
ザ・オッサン言葉を疲労と共に吐き出した郷島。
「ノンアルコールでよく蘇生できますね……。お手軽で羨ましいっス」
「健康的でいいだろ。道庭ぁ、最近おまえ自転車で通勤してるが、飲酒したら自転車でも乗っちゃ駄目だからな?」
「解ってますよ。だから署に置いてきたでしょ」
幸いこの店は駅から近い。あまり遅くならなければバスも運行しているので、帰りの足に困ることはない。
「課長も来たがっていましたが、いいんですか? あんなにすげなく断って」
鈴木が呈した疑問に、郷島と道庭が手を振って返した。
「いいんです。あの人、しつこい絡み酒だから酔うと面倒なんですよ」
「おまけに途中からおネェ言葉になりますし。一緒に飲んでるとゲイバーに来た錯覚に陥るんス」
(なんと! 知りませんでしたぞ。私が一緒の時は課長、ほとんど飲みませんからな。ぬぬぬ……、故意に隠されておりましたか。いつかオネェの課長にお会いしたいものです)
ナイスミドルの意外な一面を知り瞳を輝かせる凜々花の横で、鈴木は乾いた笑いを見せた。
「ははは……。まぁ今回は捜査チームの親睦会ですから、課長はまたの機会に……」
「そうそう」
「それよりそろそろ食事も頼みましょうよ」
最初のオーダーではドリンクしか注文していなかった。
「俺焼き魚~」
「唐揚げ~。タコ揚げも~」
鈴木が隣の凜々花へ尋ねる。
「早見さんは決まりましたか?」
「そうですね……。ピザに焼き鳥、枝豆を頼もうかと」
凜々花が挙げたメニューを聞いて鈴木は微笑んだ。
「みんなで摘まめる物ばかりですね。早見さんらしい」
「……早見さん? らしい?」
反応したのが道庭だ。
「何スか警部、早見さんって。ずっと先輩のことは巡査部長って役職で呼んでましたよね?」
「え……」
「昼間、俺達と別れた後に何か有りましたか? 心の距離を縮めるイベント的な何かが」
(な、何を言い出すのですかこのコは)
凜々花は内心慌てたが、意外にも鈴木の方が目に見えて動揺していた。
「いやいやいや、何も起きていません。個室と言っても大勢の一般客で賑わうお店ですから、警察の役職名で呼び合うのは不適切だと考えたんです。皆さんも僕のことは鈴木と呼んで下さい」
「本当にそれが理由っスか~? なら早見さんらしいって何です? 先輩のことをよく知ってるような口振りじゃないですか」
「いやいやいや」
「失礼しまーす!」
道庭が鈴木を追及している最中に、個室の引き戸がガラッと開かれた。郷島が押していた、呼び出しボタンによって召喚された店員である。
「オーダーお願いします。焼き魚と若鶏の唐揚げにタコ揚げ、ピザと焼き鳥にええと……枝豆だっけ?」
空腹の郷島が淡々と店員へ欲しい品を伝えた。
「警……、鈴木さんはどうします?」
「ポテトフライと……、焼き魚をもう一皿追加でお願いします。それとビールのおかわりも」
「あ、俺もビールおかわりする!」
「かしこまりましたー!」
元気いっぱいな若い店員は注文を承諾し退室した。
鈴木が仕切り直す。
「チームを組んだことですし、今後は署内でも名字で呼び合いましょう」
「う~ん、何かスッキリしない……。だいたい何で鈴木サンと早見先輩が隣同士で座ってるんスか。何で俺の隣は筋肉男なんですか」
「それはバディ同士だから……」
「ああ? 俺が隣じゃ不満か道庭」
「だって郷島先輩硬いんですもん。腕とか当たっても嬉しくなくて痛いだけなんですもん」
ブチブチと愚痴る道庭であったが、追加のビールと食事が運ばれてきたら機嫌を直した。
(単純でありますな……。所詮はエネルギーを欲する若造。カロリーの塊を前にしたら抗えないのです)
凜々花の考えは甘かった。落ち着いたように見えた道庭が、酒が進むにつれ再び絡み出したのである。今度は凜々花に。
「先ぱ~い、可愛い後輩からの忠告です。鈴木サンはやめといた方がいいっスよ」
「やめるって、何を?」
「お付き合いの相手っス」
(ひょ!?)
「……いえ、私と鈴木さんはそんな感じになってないから」
「ほんと~? エリートキャリアのイケメンでちょっといいなとか思ってません~?」
「おい道庭、おまえも絡み酒だっけ? 早見が困ってるだろうが」
郷島が間に入ったが道庭は止まらなかった。
「止めなきゃ駄目ですって。絶対に鈴木サンはネチネチした変態的なプレイしますよ? 早見先輩が妙な性癖に目覚めたらどうするんですか!」
「ぶっ! おまえ何言ってんの!?」
「セックスの話っスよ。ぜって~鈴木サンSの気が有っから」
(ぶほっ! せせせせせ……言えませぬ。道庭氏、モロな話題を出すんじゃありません!!)
「鈴木さんすみません! 馬鹿が馬鹿なこと言って!!」
後輩の失礼を郷島が詫びたが、鈴木は優雅に微笑んだ。
「聞き捨てならないですね道庭さん。僕は断じてSじゃないですよ? ネチネチもしていません」
「昼間、ものすごくイイ笑顔で尋問してたじゃないスか。それはもう楽しそーに」
「あれは職務上、仕方なくです。本当は心が痛みましたよ? 誰かを追い詰めるなんて」
「ほんとっスか~? ベッドでもあんな感じなんじゃないですか~?」
(だから下ネタやめぃ道庭)
「本当です。ベッドでの僕は紳士です。女性第一を心がけています」
(鈴木氏も律義に答えなくていいですから)
鈴木は凜々花を見やり、本日一の晴れやかな笑顔を作った。
「なんなら今晩試してみますか? 早見さん」
(!!!)
凜々花が仰け反り、道庭が目を剥き、郷島はリンゴジュースを噴き出した。
鈴木もかなり酔っていた。
鈴木の音頭に合わせて、「木条雪子変死事件」を担当する刑事達が、手に持ったそれぞれのグラスを掲げて空中で合わせた。
ここは御宅署から徒歩十五分の距離に在る、完全個室タイプの居酒屋である。業務終了後に鈴木が宣言した通り親睦会が開催されることになったのだ。水曜日の夜だったので予約無しでも席に着けた。
鈴木と道庭がビール、凜々花がレモンサワーで、下戸の郷島はリンゴジュースに口を付けた。
「ふぃ~、生き返る!!」
ザ・オッサン言葉を疲労と共に吐き出した郷島。
「ノンアルコールでよく蘇生できますね……。お手軽で羨ましいっス」
「健康的でいいだろ。道庭ぁ、最近おまえ自転車で通勤してるが、飲酒したら自転車でも乗っちゃ駄目だからな?」
「解ってますよ。だから署に置いてきたでしょ」
幸いこの店は駅から近い。あまり遅くならなければバスも運行しているので、帰りの足に困ることはない。
「課長も来たがっていましたが、いいんですか? あんなにすげなく断って」
鈴木が呈した疑問に、郷島と道庭が手を振って返した。
「いいんです。あの人、しつこい絡み酒だから酔うと面倒なんですよ」
「おまけに途中からおネェ言葉になりますし。一緒に飲んでるとゲイバーに来た錯覚に陥るんス」
(なんと! 知りませんでしたぞ。私が一緒の時は課長、ほとんど飲みませんからな。ぬぬぬ……、故意に隠されておりましたか。いつかオネェの課長にお会いしたいものです)
ナイスミドルの意外な一面を知り瞳を輝かせる凜々花の横で、鈴木は乾いた笑いを見せた。
「ははは……。まぁ今回は捜査チームの親睦会ですから、課長はまたの機会に……」
「そうそう」
「それよりそろそろ食事も頼みましょうよ」
最初のオーダーではドリンクしか注文していなかった。
「俺焼き魚~」
「唐揚げ~。タコ揚げも~」
鈴木が隣の凜々花へ尋ねる。
「早見さんは決まりましたか?」
「そうですね……。ピザに焼き鳥、枝豆を頼もうかと」
凜々花が挙げたメニューを聞いて鈴木は微笑んだ。
「みんなで摘まめる物ばかりですね。早見さんらしい」
「……早見さん? らしい?」
反応したのが道庭だ。
「何スか警部、早見さんって。ずっと先輩のことは巡査部長って役職で呼んでましたよね?」
「え……」
「昼間、俺達と別れた後に何か有りましたか? 心の距離を縮めるイベント的な何かが」
(な、何を言い出すのですかこのコは)
凜々花は内心慌てたが、意外にも鈴木の方が目に見えて動揺していた。
「いやいやいや、何も起きていません。個室と言っても大勢の一般客で賑わうお店ですから、警察の役職名で呼び合うのは不適切だと考えたんです。皆さんも僕のことは鈴木と呼んで下さい」
「本当にそれが理由っスか~? なら早見さんらしいって何です? 先輩のことをよく知ってるような口振りじゃないですか」
「いやいやいや」
「失礼しまーす!」
道庭が鈴木を追及している最中に、個室の引き戸がガラッと開かれた。郷島が押していた、呼び出しボタンによって召喚された店員である。
「オーダーお願いします。焼き魚と若鶏の唐揚げにタコ揚げ、ピザと焼き鳥にええと……枝豆だっけ?」
空腹の郷島が淡々と店員へ欲しい品を伝えた。
「警……、鈴木さんはどうします?」
「ポテトフライと……、焼き魚をもう一皿追加でお願いします。それとビールのおかわりも」
「あ、俺もビールおかわりする!」
「かしこまりましたー!」
元気いっぱいな若い店員は注文を承諾し退室した。
鈴木が仕切り直す。
「チームを組んだことですし、今後は署内でも名字で呼び合いましょう」
「う~ん、何かスッキリしない……。だいたい何で鈴木サンと早見先輩が隣同士で座ってるんスか。何で俺の隣は筋肉男なんですか」
「それはバディ同士だから……」
「ああ? 俺が隣じゃ不満か道庭」
「だって郷島先輩硬いんですもん。腕とか当たっても嬉しくなくて痛いだけなんですもん」
ブチブチと愚痴る道庭であったが、追加のビールと食事が運ばれてきたら機嫌を直した。
(単純でありますな……。所詮はエネルギーを欲する若造。カロリーの塊を前にしたら抗えないのです)
凜々花の考えは甘かった。落ち着いたように見えた道庭が、酒が進むにつれ再び絡み出したのである。今度は凜々花に。
「先ぱ~い、可愛い後輩からの忠告です。鈴木サンはやめといた方がいいっスよ」
「やめるって、何を?」
「お付き合いの相手っス」
(ひょ!?)
「……いえ、私と鈴木さんはそんな感じになってないから」
「ほんと~? エリートキャリアのイケメンでちょっといいなとか思ってません~?」
「おい道庭、おまえも絡み酒だっけ? 早見が困ってるだろうが」
郷島が間に入ったが道庭は止まらなかった。
「止めなきゃ駄目ですって。絶対に鈴木サンはネチネチした変態的なプレイしますよ? 早見先輩が妙な性癖に目覚めたらどうするんですか!」
「ぶっ! おまえ何言ってんの!?」
「セックスの話っスよ。ぜって~鈴木サンSの気が有っから」
(ぶほっ! せせせせせ……言えませぬ。道庭氏、モロな話題を出すんじゃありません!!)
「鈴木さんすみません! 馬鹿が馬鹿なこと言って!!」
後輩の失礼を郷島が詫びたが、鈴木は優雅に微笑んだ。
「聞き捨てならないですね道庭さん。僕は断じてSじゃないですよ? ネチネチもしていません」
「昼間、ものすごくイイ笑顔で尋問してたじゃないスか。それはもう楽しそーに」
「あれは職務上、仕方なくです。本当は心が痛みましたよ? 誰かを追い詰めるなんて」
「ほんとっスか~? ベッドでもあんな感じなんじゃないですか~?」
(だから下ネタやめぃ道庭)
「本当です。ベッドでの僕は紳士です。女性第一を心がけています」
(鈴木氏も律義に答えなくていいですから)
鈴木は凜々花を見やり、本日一の晴れやかな笑顔を作った。
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