腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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心機一転

 四月四日。朝の陽射ひざしが凜々花の目に痛く突き刺さる。

(やれやれ……、疲れが取れていません。酔っ払い二人が危険ワードを連発して、親睦会が滅茶苦茶になりましたからな)

 素面しらふの郷島と一緒にツッコミまくりだった昨晩を思い出し、凜々花は深い溜め息を吐いた。

「早見さん……」

(ひょえっ、ゾンビ!?)

 ノソノソと近付いてきたのは鈴木であった。

「すみません。昨晩は大変な失礼をしてしまいました……」

 顔に死相を張り付けた彼は、警察署へ出勤して真っ先に凜々花の元へ謝罪に現れた。受け留める凜々花も表情筋が機能していなかったのだが。

「飲み過ぎたことを心から反省しています。普段の僕は出会って数日の女性を誘ったりしないんです。それだけは信じて下さい」
「は、はい」

 鈴木は酔って気が大きくなっても、その間の記憶がしっかり残っているタイプらしい。

(酒の席の戯言ざれごととはいえ、同僚をベッドに誘った事実は気まずいでしょうな。誘われた側の私も居たたまれないですから。アルコール恐るべし)

「鈴木さんはあの後、無事に帰宅できましたか? 車の中で気分が悪くなったりしていませんか?」

 居酒屋から鈴木はタクシーを使って帰った。

「早見さん……! あれだけの醜態を晒した僕を気遣ってくれるなんて……」

 鈴木は感動していたが、凜々花が心配したのは「鈴木がタクシー内で粗相そそうをしていないか」だった。

(警察官のやらかしは市民から大きな反感を買いますからな。今後の活動に響きます)

「ちぃーっす」
「おはようございまーす」

 郷島と道庭も刑事課へ出勤してきた。日頃から無礼な言動を繰り出している道庭は、昨夜の件を全く気にしていない様子だった。

「皆さん揃いましたね。第二会議室を対策本部として使わせてもらえるようですから、そちらへ移ってこれまで得た情報を整理しましょう」

 何とか気を持ち直した鈴木に先導されて、「木条雪子変死事件」の捜査メンバーは第二会議室へ移動した。

「郷島さんに道庭さん、証言の裏は取れましたか?」
「はい。アリバイが成立した者からお伝えします」

 雪子が殺害されたのは、四月二日の午前十時直前と思われる。
 それを踏まえた上で郷島は、道庭と一緒に聞き取りした情報をホワイトボードに書き記しながら話した。


・正継と彼の次男忠之は、経営する不動産会社に居たと確定した。根拠は社員の証言と会社に設置された防犯カメラの映像だ。

・正継の長男正貴は、提出されたドライブレコーダーがその姿をとらえていた。

・正継の妻の涼子は家政婦の証言でその時間、自宅の庭でガーデニングに勤《いそ》しんでいた。

・香織の夫の悟は、職場である県庁で勤務姿が確認された。

・香織の息子の伊織は、バイク店の店主が十時開店の為にシャッターを開けたところ、既に店の前に居た。

・従業員の植草と田口はずっと二人で行動していた。共犯者でない限り犯行は不可能だ。


「証言の裏が取れたのはここまで。残りの者達の行動は依然として怪しいままです」


・勝成は雪子の部屋に行っていないと言うが、その証拠が無い。

・勝成の妻の望は、自宅に一人だったので証言者が居ない。

・香織も同様で、自室で一人きりだった。

・従業員の戸田は屋敷の一室に閉じこもり、その部屋の整理整頓をしていた。 
 

「お二人ともありがとうございました。おかげで調査対象がだいぶしぼれましたね。今日からしばらくの間は、アリバイの無いこれら四名に焦点を当てて捜査しましょう」

 鈴木と凜々花が香織と戸田を調べ、郷島と道庭が勝成と望を担当することに決まった。

「それじゃあ俺達は、夫婦の自宅周辺へ聞き込みに行ってきます」
「でも近所の住民は勝成達を庇いそうですよね。大地主の木条家に不利となる証言をしてくれないんじゃ?」
「だな。勝成達を容疑者扱いすると警戒される。母親の急逝で夫婦がショックを受けていないか、心配する素振りをして奴らの最近の行動を聞き出そうや」

 作戦を立てながら郷島と道庭が会議室を出ていった……かと思いきや、道庭だけひょっこり戻ってきた。

「忘れ物ですか?」
「はい、鈴木サンに釘を刺すのを忘れました。駄目ですよ、男慣れしていない早見先輩に男性的なアピールをしちゃ」
「なっ……」
「お先に出ま~す」

 言いたいことだけ言って道庭は去っていった。

(警察機構の幹部候補である鈴木氏にあの暴言……。阿保の子は怖いもの知らずですな)

 道庭の言動に呆れた凜々花。対して鈴木は顔を赤く染め上げた。

「ち、違いますから! 僕にはそんなつもりは有りません! 仕事中に口説いたりしませんから!!」
「はい」

 あっさりと頷いて納得した凜々花へ、鈴木は首を傾げた。そして弱々しい声で尋ねた。

「あの……、僕ってそんなに性的魅力が無いのでしょうか?」
「?」
「あっ、いや、他意は有りません! ただ……、今まで交流の有った女性達と早見さんの反応があまりに違い過ぎて。いえ、バディを組む間柄としてはそれで良いのですが」

(え? はい? 鈴木氏は何を心配しておられるのです?)

 鈴木はサラサラの髪の毛を掻いて動揺を隠した。

「ひょっとして早見さんは、僕に生理的嫌悪を抱いているのではないかと……。一緒の行動が苦痛になっていませんか?」

(あ~……なるほど。鈴木氏のようなモテモテ街道を歩んでこられた殿方は、女子から塩対応をされる機会なんて滅多に無かったでしょうから、混乱してしまったのですな)

「大丈夫です。嫌だなんて一切思っておりません」
「本当に? 上司だからと遠慮しているのでは?」

(緊張はしますな。なんせ最推しですから)

「鈴木さんは頭の回転が速く、仕事に真摯しんしに向き合い、部下への気配りも忘れない素晴らしい上司だと思います。一緒に組めて光栄です」
「!……。そ、そうですか……」

(これで安心してもらえましたかな?)

 凜々花が観察した鈴木は、サイドの髪の毛が掛かる耳まで赤くなっていた。
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