腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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毒(一)

 車から降りた二人へ田口が駆け寄ってきた。 

「田口さん、状況を教えて下さい」
「葬儀の後にお食事をなされまして、大広間です、正貴様が突然苦しみ出したのです。皆様いらしたのですが」

 田口は言葉を順序良く並べられなかった。連続して事件が起きてしまい、ショックで前後不覚となってしまったのだ。
 不明瞭な説明だったがどうにか、倒れた人物が正貴で場所は大広間だということは解った。

(正貴氏が……!) 

 凜々花へ紳士的な態度で接してくれて、会話した木条一族の中で唯一好印象を抱けた相手だった。
 鈴木と凜々花は軽い駆け足で現場へ向かった。昨日も訪れたのだから大広間の場所は知っている。
 叫び声に近い女性の泣き声が聞こえてきた。あそこだ。

(あ……!)

 広い座敷には折り畳み式の長テーブルが設置されており、その上には料理を乗せた皿や酒の入ったコップが所狭しと並べられていた。
 テーブルの横に大の字であお向けに寝ている正貴。寄り添う家族。彼らを囲んで成行きを見守っている木条一族と従業員の面々。
 鈴木が人々を搔き分けて正貴へ近付いた。凜々花も鈴木の背中を追う。

「鈴木警部です。正貴さんの容態はどうですか?」
「さ、さっきまで痙攣けいれんしてたけど、今は何の反応も無くて……。た、助けて、息子を助けてくれ!!」

 正継が鈴木へすがり付いた。その時──

「どいて、通して下さい!」

 遅れて到着した救急隊員二人が、田口に案内されて広間へ入ってきた。
 救急隊員達は即座にAEDを使用して蘇生を試みた。電気ショックと胸骨圧迫が繰り返されたものの、大きく開いた口から泡と舌を出した正貴が息を吹き返すことは無かった。

「……残念ですが」

 片方の隊員が静かに首を横に振った。女性の泣き声が更に大きくなった。

「イヤアァァッ、正貴!!!!」

 母親の涼子が遺体となった息子に抱き付こうとするのを、刑事と救急隊員とで止めた。 

「正継さん、奥様を……」 
「………………」

 夫の正継に取り乱す涼子を託そうとするも、彼は口を開けて座ったままだった。放心状態だ。代わって次男の忠之が涼子を引き取った。彼もまた青い顔だったが。
 鈴木が携帯電話を操作した。

「課長、検視官と鑑識班を木条本邸に寄こして下さい。はい、そうです。郷島さんと道庭さんにも現場に来るよう伝えて下さい。はい、ありがとうございます」

  そして携帯電話を片付けた彼は、今度は救急隊員に向かって言った。

「お疲れ様でした。ここからは警察が引き継ぎます」

 一礼して去っていく救急隊員を見送る行為は、遺族にとって絶望以外の何ものでもなかっただろう。
 気丈に振る舞っていた忠之もついに、母親を支えたまま膝から崩れ落ちた。 

「何で……何でだよ。どうして兄ちゃんが……」

 家族が目の前で亡くなったことを悲しむ暇も与えず、鈴木が指示を出した。 

「皆さん、僕の方へ移動して下さい。正貴さんにもテーブルにも一切触れないように」

 宴席は大広間のとこ付近に設けられていた。関係者達はそこから下座方向へと離された。

「正貴さんが倒れた時の事を教えて下さい。ええと、通報なさったのは悟さんでしたね」
「そうです」

 一同の中で悟は比較的冷静に見えた。親族とはいえ入婿いりむこの悟には木条の血が流れていない。それ故に客観的な立場で物事を観察しているのかもしれない。 

「正貴さんが倒れたのはいつですか?」
「十一時半くらいです」
「食事の最中ですか?」
「それはよく見ていませんでしたが、食べ終わっていたんじゃないかな。正貴くんはいつも食べるのが早いから。お酒はまだ飲んでいたと思いますが」
「彼は急に意識を失ったのですか?」
「いえ、しばらく苦しんだ後です。しきりに喉を掻きむしるような仕草をしていました」

 悟は悲劇の瞬間を淡々と答えた。涼子の嗚咽おえつが激しくなり、過呼吸を起こしかねない状態になった。

「忠之さん、お母様を別室に連れていって休ませてあげて下さい。お話はお父様から伺いますので」
「いえ、俺がここに残ります。父さん、母さんと一緒に向こうで休んでこいよ」
「あ……ああ」

 忠之にうながされて、正継はおぼつかない足取りで涼子と共に大広間を出ていった。

「料理と酒は、従業員の皆さんが用意されたのですか?」
「仕出し屋が来ていましたよ。なぁ?」

 悟が振り返り、その先には使用人がしらの植草が居た。

「はい。お屋敷で行われる法事の料理はいつも、町の仕出し屋に依頼しております。一日前の急な注文でしたが、今回も店は対応してくれました」

 昨日の感情的な彼とはうって変わって、今日の植草は落ち着いていた。凜々花が彼から聞いた店名をメモ帳に記した。

「仕出し業者から料理を受け取って、この部屋に配膳したのは誰ですか?」
「ケースに入ったままの料理を私と田口とで大広間へ運びまして、島津と戸田がテーブルに並べました」
「ケースにはふたがされておりましたか?」
「はい」
ふたを外さずに大広間へ運びましたか?」
「はい。途中で虫や埃が入ったら困りますので」
「では運搬中は、料理に何かをぎ足すことができない状態だったのですね?」
「ちょ、ちょっと、何でそんなことを聞くんスか?」

  裏返った声がした。発したのは残念な美青年・伊織だ。

「そんな、まるで、料理に毒が入ってたみたいな……」

 毒という単語に皆がざわめいた。鈴木は伊織には答えず、忠之の方を見た。

「お兄さんには強い食物アレルギーが有りましたか?」 
「……いいえ、そんなものは有りません。兄ちゃんのアレルギーは花粉だけです」

 頷いた鈴木は使用人の女性達へ目をやった。
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