腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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毒(二)

「島津さんに戸田さん、配膳中にお互いのことは見ていましたか?」

 聞かれた二名はキョトンとした表情になった。

「い、いえ、私はお料理を並べることに集中しておりましたから……」
「私もです。あの…?」
「刑事さん、伊織が言うように料理に毒が入っていたのですか!?」

 被せ気味に忠之が聞いてきた。鈴木は慎重に答えた。 

「司法解剖をしていませんので、まだはっきりとは言えません。ただ今は、正貴さんは身体に害の有る物を摂取してしまった、その可能性が高いという段階です」
「仕出し屋に急な注文をしたせいで、傷んでいる食材を使われたんじゃないですかね。それで食中毒を起こしたとか、そういう可能性は無いですか?」

  悟が有り得そうな仮説を披露したが、すぐに否定された。
 
「食物に付着していた細菌やウィルスによって引き起こされる食中毒は、それらに感染して発症するまでに通常三時間以上かかります。そして症状は下痢や嘔吐が徐々に強くなっていくというものです。食後すぐに命に関わる反応が出たということは、強い劇物そのものを体内に取り入れてしまった、そう考えた方が自然でしょう」

 鈴木の説明を聞いた皆の視線はテーブルの上にそそがれた。食べ残された料理。それは少し前まで自分達がつついていた物だ。

「料理の中に毒が入っていたなら、俺が食べた可能性も有ったってことっスか……?」

 弱々しく伊織が呟いて、香織が小さく悲鳴を上げた。

「そうなんですか!? わたくし達も危険だったんですか、刑事さん!?」
「それはこれから調べます。正貴さんの席はここですか?」

 鈴木は一人で正貴の遺体の傍へ戻った。彼が苦しんだ際にぎ倒したのか、その席だけ皿が散乱していた。 

「そうです。正貴くんが着いたのはそこです」
「この席に料理を配膳したのはどちらですか?」

 再び鈴木に質問を振られた従業員の島津は、

「戸田さんです!」

 叫ぶように同僚の名を挙げた。当の戸田は島津を睨むも、大広間に居た全員に凝視されて後退した。

「戸田、おまえ……」

 忠之の顔が怒りで赤く染まった。

「おまえが兄ちゃんに毒を盛ったのか!?」
「そ、そんな事、私はしていません!!」
「じゃあ誰がやったんだよ!? 配膳したのはおまえだろうが!」
「そうですけど……、毒なんてそんな恐ろしい物、私は持ってませんよ!」
「まぁまぁ、忠之、落ち着けよ」

 忠之に詰め寄られて泣きそうな戸田の前に、意外な人物が盾となって立った。でっぷり肥えた勝成だ。

「どけよ叔父さん!」

 横幅だけ立派で貧弱な盾は、忠之のうっちゃりを受けて一撃で地に沈んだ。 

「戸田、おまえ何の恨みがあって兄ちゃんに……」
「待て、待てって忠之!」

 尻餅をついてジタバタしながらも、勝成は戸田を護り甥の忠之を止めようとした。

(ほぇ、小心そうに見えましたが案外男気が有ったんですな)

 凜々花はちょっぴり感心した。この時は。

「あぁ、そうか、あんた達……」

 忠之は勝成と戸田を交互に見比べてから、ゾッとする冷たい笑みを顔に浮かべた。

「そうだったな。あんた達はそうだったよ」

 そして忠之は畳の上に座ったままの勝成に近付くと、力いっぱい殴り付けたのだった。

「キャアッ!」

 戸田の悲鳴をサウンドに、勝成は後方に一回転した。尚も勝成へ攻撃を加えようとする殺気立った忠之を、凜々花が咄嗟とっさに羽交い締めにして止めた。

「放せ、おい放せよ!!」

 暴れる忠之に女の凜々花は振り払われそうになるが、懸命にしがみ付いた。

(ここで彼を止めないと更なる惨劇が起きてしまいます。ああ、でも何て力が強いのでしょう……) 

 凜々花の足が踏ん張れず引きられた。 

「落ち着きなさい!!」
「忠之様いけません!」

 鈴木と田口が凜々花へ加勢し、ようやく忠之の突進が止まった。左ほおを押さえて鼻血を垂らした勝成が、それを見届けてから甥に抗議した。

「忠之、貴様、叔父である俺に対して何てことを……」 
「うるせえ!!」

 忠之に怒鳴られた勝成は、ひっ、とか細い声を漏らして身体を丸めた。

「テメェが戸田にやらせたんだろ!」

 三人に押さえ付けられ身動きできなくなった忠之は、大声を使って勝成を威圧したのだった。

「俺は知ってるんだ。みんなだって知ってる。テメェと戸田は不倫してるってな!」 

(ほえぇ!?)

 凜々花にとって衝撃の言葉が忠之の口から飛び出した。驚いて横にいる田口をチラリと見ると、彼は気まずそうに凜々花から目をらした。

(忠之氏の発言は事実なのですか!? そうなると勝成氏の妻、望どのの立場が無くなりますぞ。昨日、鈴木氏の追及から夫を庇った献身妻でしたのに)

「僕達が彼を押さえますから、早見さんは離れなさい」

 鈴木に言われて凜々花は忠之から手を離した。男二人に左右から固められている忠之は身体の自由を失ったが、感情のたかぶりまでは消えなかった。
 
「テメェは自分が本家になれないから、俺と兄ちゃんをうとましく思ってたんだろ! そうだよな、テメェのガキはどうしたって当主にはなれないもんな!」

(勝成氏の子供って誰でしたっけ……)

 凜々花は頭の中に資料を広げた。

(そうだ、晴臣きゅんと言う名前のまだ四歳の男の子です。姿を見ていないので存在を忘れておりました)

 改めて広間を見渡してみたが、小さな男の子はどこにも居ない。母親の望も。

(近親者のみの密葬……。排他的な田舎では嫁を他人扱いする胸糞悪いやからが存在しますが、晴臣きゅんは雪子どのの血を受け継ぐ孫です。参列の権利は充分有るように思えますが)

 凜々花の常識は木条の家に通用しないようだ。
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