腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

文字の大きさ
26 / 61

毒(三)

 忠之は喉が裂けんばかりの勢いで勝成を詰問した。

「だからテメェは戸田に指示を出して兄ちゃんに毒を盛ったんだ! 食中毒に見せかけようとしたら、毒が強過ぎてバレたって間抜けなオチだろ!? この人殺しが!!!!」
「そ、そんな、違う……」

 勝成は完全に忠之の迫力におびえていた。

「何が違うか言ってみろよ。兄ちゃんの次は俺を殺すつもりだったんだろ!?」
「俺はそんなこと……」
「やれるもんならやってみろ! その前に俺がテメェを殺してやるから!!」

 物騒なことをわめき出した忠之を鈴木がなだめた。 

「どうか落ち着いて下さい、忠之さん」 
「落ち着けるかよ、引っ込んでろ!!」

 忠之は再び暴れようとしたが、押さえ役の鈴木と田口がそれを許さなかった。

「くそっ……放せよ、警察の犬が!! 俺らの税金で生活してる分際で!!」

(忠之氏……。私達公務員も税金を払ってますぞ)

「捕まえるなら俺じゃなくあのデブにしろよ! この役立たず!! 刑事なんて辞めちまえ!!」

 忠之が鈴木に罵詈雑言ばりぞうごんを雨あられと浴びせた。八つ当たりも含まれているのだろう。
 しかし鈴木は引かなかった。

「安心して下さい。お兄さんを苦しめた者は僕達が必ず捕まえます。そして法の裁きを受けさせますから」

 鈴木が忠之の横顔へ静かに、だが力強く宣言した。

「信じて下さい」
「………………」

 忠之は鈴木の意志を受け止めたのか、身体の力を抜き両腕をダラリと下げた。

「田口さん、忠之さんをご両親と同じ部屋で休ませてあげて下さい」
「はい」

 拍子抜けするくらい素直に、忠之は田口にともなわれて大広間を出ていった。

(先程の暴挙は、お兄さんの死で錯乱してしまった故ですな。仲の良い兄弟に見えましたから……)

 しんみりしている間に鈴木がまた正貴の遺体の傍へ行ったので、凜々花も続いた。 

(う……。酷い……)

 正貴の死は現実だった。昨日の夕方、凜々花に親切にしてくれた礼儀正しい青年は、苦悶の表情を顔面に貼り付けて息絶えていた。
 きっと自分の身に何が起きたか解らぬまま、苦しみの中で彼はこの世を去ったのだ。まだこんなに若いのに。どうして。涙がこぼれそうになるのを凜々花は必死にこらえた。 

(許しませぬぞ)

 捜査に私情を持ち込んではいけない。それでも、正貴を死に追いやった者に沸く怒りを凜々花は止められなかった。
 雪子の時も老人に対する蛮行にいきどおりを感じたが、凜々花は雪子という人物を知らなかったので、所詮は想像の中だけの怒りだった。
 だけれど凜々花と正貴は出会っていた。
 たった一日だけの知り合いだったが、言葉を交わし、笑顔を向けてくれた彼を彼女は知っていたのだ。 

(絶対に犯人を捕まえます)

 でも、いったい誰が。

(正貴氏を殺すだけの動機を持っているのは、当主になりたい勝成氏? でも……)

 それなら勝成は、甥の正貴ではなく兄の正継を殺すべきだろう。
 新しい当主が誕生するのは先代の四十九日法要が終わってから。正継はまだ当主の座に就いていないのだから、正継が居なくなれば弟の自分が当主になれるのだ。

(………………)

 鈴木が言っていた。木条一族について詳しく知らないと、物事の本質を見逃してしまう気がすると。凜々花も今は同感だ。木条一族には表には出ていない問題がたくさん有りそうだ。 

(やはり彼がキーマンとなるのでしょうか?)

 使用人がしらの植草。被害者の近親者と従業員、両側の事情に詳しい男。植草ならばきっと自分達の疑問に答えてくれると凜々花は期待した。
 ひょっとしたら植草もまた、表には出ない心の問題を抱えた一人なのかもしれないが。


☆☆☆


 木条邸に警官隊の第二陣が到着した。

「……えらい事態になったな」
「早見先輩、死体見て気分悪くなってない? 大丈夫スか?」

 郷島と道庭の顔を見て凜々花はホッとした。
 鑑識班が大広間を封鎖して調査をしている間、鈴木と凜々花は別室で植草に話を聞くことになった。他の関係者達の事情聴取は、鈴木から状況説明された郷島と道庭が担当する。

 洋風の応接間。まず植草をソファーに座らせてから、鈴木と凜々花も植草の対面にテーブルを挟んで腰かけた。
 鈴木が口火を切った。 

「早急にはっきりさせなければならないことが有ります。大広間で忠之さんが言っていましたが、勝成さんと従業員の戸田さんは不倫関係にあるのですか?」

 下衆げすな質問だが知っておく必要が有る。勝成と戸田に強い結び付きが存在するのなら、二人の共犯説に説得力が出てくるのだ。

「その通りでございます」

 植草は顔のしわを更に深くして、一つ大きな溜息を吐いた。

「お疲れのところ申し訳ありません」

 凜々花の謝罪は心からのものだが、体調不良の植草にすまないと思う以上に、真実を知りたいという感情の方が大きくなっていた。

「お気になさらずに。私は警部さんに協力したいのです」 
「僕に……ですか? 警察全体にではなくて?」

 植草は力強い眼差しで鈴木を見た。 

「奥様が殺された日、こちらへ来たのは別の刑事さん達でしたね」
「はい。僕が彼らから捜査を引き継ぎました」
「彼らは厳しい取り調べを行いましたが、それは使用人達にだけでした。木条の名を持つ香織様達には形式上の質問をしただけで、答えを精査するでもなくすぐに解放しておりました。私は何度も、奥様とお子様達は不仲だったと訴えたのですが」

 初日は通報を受けた課長が、刑事課の部下を取り敢えず四人連れて現場へ急行したのだ。その中に木条の息が掛かった警官が居たのかもしれない。

(このままでは捜査に悪影響が出る。おそらく課長はそう判断して、鈴木氏をリーダーにした新チームを作ったのですな)

「それは明らかに怠慢でした。警察を代表して謝罪致します」 
「いいえ。警部さんは全ての可能性を捜査するとおっしゃって、木条家も使用人も関係無く調べて下さっています。信用できるお方だと思えました」

 木条一族と一部警察官の癒着ゆちゃくがこれでほぼ確定した。
 覚悟していたとはいえ、身内の不正に凜々花は気が重くなった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。