腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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車中の二人

「……早見さん、署に戻る前に少し休憩しましょう。勤務中に優雅にカフェでお茶はさすがにマズイでしょうから、コンビニコーヒー程度になりますが」
「いいですね。ちょうど甘い物が欲しかったんです」

 凜々花は運転していた車をコンビニエンスストアの駐車場へ停めた。
 二人で入店して鈴木はカフェオレ、凜々花がイチゴ牛乳を購入して車へ戻った。

「植草の話を聞いてから、ずっと眉間にしわが寄っていますね。何か引っ掛かる点でも?」
「あー……、そういう訳ではないんです」

 鈴木に指摘された凜々花は苦笑した。

「美織さんの話を聞いて、自分の少女時代がフラッシュバックしたというか……。事件とは全く関係の無いことですのでお気になさらずに」

 凜々花はこれで終わると思った。しかし鈴木が踏み込んできた。

「あの、差し障り無ければ話してもらえませんか? 僕のパートナーのこと、できるだけ知っておきたいんです」

(はふうぅぅ、僕のパートナー! なんと甘美な響きでしょう♡♡♡)

「もちろんあなたのアイデンティティを尊重したいので、無理のない範囲での話となりますが……」

(私は一向に構わないのですが、面白くない話ですからな。鈴木氏に嫌な思いをさせてしまうかもしれませぬ……)

 凜々花は迷ったが、鈴木から真摯しんしに向き合われ、今まで家族にも友人にも秘めていた本心を語った。

「実は私も、進路について親からいろいろ指示されていたんです」
「あ……」

 思春期だった遠い過去を凜々花は久々に思い返した。

「私の場合は美織さんとは違い、良い企業に勤めたかったら学歴が大切だ、絶対に偏差値の高い学校へ通えと親に言われて育ちました。小学校時代から学習塾に通い、高校までは親が望む優等生だったんです」

 苦い記憶も蘇る。

「……頭の悪い子とは仲良くなるな、とも言われました。親から遊ぶ相手を選別されていたので、成績が落ちた友人数名と距離ができてしまいました」
「それは……酷いですね」
「ええ、それで私、ついに高校時代に爆発しちゃったんです」

 凜々花は笑った。

「大学進学が当然だと思っていた親に嘘をいて、公務員試験を受けました。決定した進路は事後報告で済ませました」
「わ……、それは喧嘩になりませんでしたか?」
「なりました。でも私が主導の喧嘩でした。両親とも、初めて娘に反抗されて戸惑っていたので、これまで溜まっていた鬱憤うっぷんを全て吐き出しました。マシンガントークで」
「………………」

(ああ、鈴木氏が可哀想なものを見るような目に……。やっぱり話すべきじゃありませんでしたな)

「すみません、引かせちゃいましたね」
「いえ、全然」
「…………? 私は育ててもらった恩を仇で返した不良娘ですよ?」

 鈴木が哀しい目をしたまま微笑んだ。

「日本にはたくさんの職業が存在します。その中で早見さんが公務員を選んだのは何故ですか?」
「え……、ええと、給与が安定しているから?」

(自分のことなのに何だって私は疑問形なのでしょう)

「公務員にもいろいろ有りますよね。どうしてお堅いとされる警官になったのですか?」
「………………」

 凜々花は答えられなかった。解らなかったのだ。

(本当、どうして私は警察官になったのでしょう。別に正義感が強い訳でも、道庭氏のようにヒーローに憧れている訳でもないですのに)

 黙った凜々花の気持ちを鈴木が代弁した。

「警官や教師は給与以上の奉仕精神を世間から求められます。それ故に聖職のイメージが付いています。高卒だけれど親が周囲に自慢できる職業……、それをあなたは選んだのではないですか?」
「!…………」

(そうかも……しれませぬ)

 イチゴ牛乳のカップに添えた凜々花の指がかすかに震えた。

「……たぶん、鈴木さんの言う通りです。親に反抗した私ですが、親の顔を潰したくなかったんだと思います」

(親の支配から逃れたかった。だけれど親からガッカリされたくなかった)

「あは、私って中途半端ですね」

 自嘲した凜々花を鈴木がさとした。

「違います。あなたはとても優しい人なんです」

 鈴木の落ち着いた声のトーンが凜々花の身体に染み入る。

「親の干渉を息苦しく感じて反抗したのは、自立したということです。悪いことじゃない。その上であなたは、世間体を気にする親御さんの為に堅い職業にいた」

 凜々花の抑えていた感情が溢れ出す。

「あなたはきっと、親御さんにとって自慢の孝行娘ですよ」

 視界がぼやけた。涙だ。
 こぼれ落ちる前に凜々花の目の下へ、優しく鈴木のハンカチが押し当てられた。

(鈴木氏……、やはりハンカチを常備されておりましたな)

 泣いてしまった凜々花をスマートにフォローする鈴木は、自分のことを語り出した。

「僕もね、親や周りの大人達に、幼少時から過大な期待をかけられて育った身なんですよ。神童なんて呼ばれて」
「…………。鈴木さんは立派に、周囲の期待にこたえています」
「どうでしょうね」

 鈴木も自嘲した。

「キャリア組なんて言われてますけど、僕は地方大学卒業ですから。同じキャリア組でもランクが下の方です」
「大学が違っても、合格した試験は一緒でしょう?」
「出身大学の先輩が警察組織の上部にどれだけ居るか……、それで出世が決まる世界なんです。僕の出世はある程度の場所で止まるはずです」
「そんな……」
「それはいいんです。トップを目指している訳じゃないですから。ただ、捜査の邪魔をされない力が欲しい。その為に出世したいと思います。悪人がのさばる世界には反吐へどが出ますから」

(熱い瞳……。彼は本気で犯罪撲滅を願って刑事の道を選んだ感じですな)

「微力ながら、協力致します」

 凜々花の申し出に鈴木はほがらかに笑った。

「あはは、もちろんお願いします。あなたは僕のパートナーなんですから」

 そして彼女の手に自分の手を添えたのだった。
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