腐女子のバディは最推し警部 ~騎馬一族の殺人~

水無月礼人

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見えざる敵(三)

「雪子が殺害された日も、二人は逢う約束をしていたそうだぞ」

 課長に言われて思い出した。
 雪子死亡時刻の前後、正貴は得意先へ向かう為に車を運転していたんだった。そちらで用を済ませた後に、彼は望の所へ寄るつもりだったのだ。
 
「よく若妻に白状させられましたね」
「望は門前払いされたのに、正貴の葬儀に参加させてくれとしつこく騒いでいたそうじゃないか。どうしてそんなに必死なのか、そこを問いただしたらあっさり吐いてくれたよ」

 正貴の葬儀は雪子の時とは違い大々的にり行われた。ただし会場は正継の家で、勝成と香織の一家は参列を拒否された。
 正継は一族の誰かが正貴を殺したと疑っているようだ。もはや木条一族はバラバラだ。

「望は勝成と別れて正貴と再婚するつもりだったんだとさ。しかし正貴がうんと言ってくれなかったそうな」

(そりゃそうでしょう。馬鹿なお人です……。そんなことも解らずにお付き合いをなさるとは)

 凜々花は望に少しだけ同情した。
 いずれ木条家当主となる正貴が、叔父の内縁の妻だった子連れ女性と結婚する訳がないのだ。

(正貴氏にとっては刺激的な遊びに過ぎなかったのでしょうな。東京のお店で働いていた望どのは垢抜けていて、田舎ではあまり見ない華やかな女性ですから)
 
 鈴木が課長のくれた情報を整理して推理した。

「なかなか結婚してくれない正貴にれて、ちょっとしたお仕置きのつもりで毒を仕込んだ。ところが思いのほか毒の威力が強くて正貴は死んでしまった……、そういう線は考えられないでしょうか?」

 深い男女の仲なら簡単だ。しかし課長は同意しなかった。

「いやぁ、お仕置きだったら家庭に常備されてる洗剤なんかを使うだろ。正貴を殺したビピリジニウム系除草剤は、現在販売と使用が禁止されている」
「そう……ですね。ほぼ出禁状態の望が、木条邸倉庫の奥から除草剤を見つけられたとも思えませんし」

 鈴木も納得した。

「一般人が入手困難な除草剤をわざわざ選んだということは、犯人に明確な殺意が有ったということだ。結婚したい望が正貴に使うことはまず無いだろう」 
「なるほど。雪子殺害も難しいだろうし、望は容疑者から外してもいいのではないでしょうか?」

  郷島の提案をリーダーの鈴木が受け入れた。 

「そうですね。これから郷島さんと道庭さんは、勝成を徹底的にマークして下さい」 
「了解」

 これで第一の事件でアリバイの無かった容疑者は残り三人。勝成、勝成と不倫関係の戸田、そして香織だ。
 郷島が現段階で判っていることを述べた。

「この数日間で、正継と勝成は修復不可能なほどに関係をこじらせました。正継と忠之が会社や自宅に迷惑電話をかけてくるそうで、何とかしてくれと勝成に泣き付かれました」
「電話の内容は?」
「会社を潰してやるとか、殺人で訴えてやるとかです」
「会社を潰す……は脅迫罪になりますね。それと業務妨害。息子を亡くして気が動転しているんでしょうけど」 
「そういえば忠之さんは屋敷で、勝成さんを殺してやるとまで叫んでいましたね」 

 凜々花は五日前を思い出して進言した。

「勝成さんに護衛の警官を付けるべきでは?」 
「そうですね。正継と勝成、双方の自宅へ警官を派遣しましょう」 
「正継さんの家にもですか?」 
「ええ。表向きの理由は護衛ですが、正継や忠之が馬鹿な真似をしでかさないようにする見張り役も兼ねて。課長、宜しいですか?」
「ああ。俺が警官を人選して派遣しとく」

 これで次の惨劇が起きる危険度数はかなり減った。

「……昼メシの時間だが、もう少し付き合ってくれ。今から話すことは他言厳禁だ」

 突然課長が神妙な顔つきで切り出した。

「実はまだな、おまえ達に伝えていないことが有るんだ」
「………………」

  話を聞く四名は戦々恐々とした。課長の真剣な様子から、重大な知らせなのだと察したからだ。
 
「鈴木はもう気づいているんだろうな、俺が何をしようとしているか」 
「はい……」

 会議室の外へ声が漏れないように鈴木が声を潜めた。

「彼らにも伝えてよいのですか?」

 鈴木の視線の先には対面に座る郷島と道庭。

「ああ。身を護る為には知っていてもらった方がいい」

 許可が下りたので、鈴木は自分の考えをゆっくり言葉にした。

「課長は木条一族、そして彼らと癒着している政治家と……警官、この機会に一斉検挙しようとお考えですね?」
「!!!」

 鈴木と共に凜々花は既に覚悟を決めていたが、寝耳に水だった郷島と道庭は目を丸くした。

「そうだ」

 課長がハッキリと肯定した。道庭が「え? え?」と課長と鈴木の顔を交互に見比べる。

「け、警官も検挙ですか? 本気でそんなデカイことを……?」

 豪胆で知られる郷島もさすがに慌てていた。

「そうだ」

 再度課長が断言した。郷島と道庭は事態の重さを実感して口を閉ざした。

「きっかけは一ヶ月半前、県警本部に告発状が届いたことが始まりなんだ」 
「告発状……ですか?」 
「ああ。俺てにコピーを送ってもらったから目を通したが、まるで大学で提出するレポートだった。十枚以上に渡ってびっしりとな、木条一族が過去に起こした事件と、それに関わった役所や警察の対応が細かく記されていたんだ。告発状に登場する議員を始めとした公務員達は、全て実名だった」

 課長と鈴木のみで成立する会話。部下達は集中して聞いた。

「内容が具体的であったので、告発に信憑しんぴょう性有りと本部は判断したのですね。だから僕を御宅みたけ署へ出向させた。木条家だけではなく、警察内部も洗う為に」

 ごくりと、道庭が唾を呑み込む音が聞こえた。同僚の罪を暴く──、 それが簡単ではないことは若い彼にも理解できた。

「しかし課長、極秘の内部監査とは俗に言うスパイですよね。慎重になるべき任務です。準備にはもっと時間をかけるべきだったと思いますよ? 僕に説明すら無かったのは遺憾です」

 鈴木のもっともな指摘。課長は疲れた顔をした。
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