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見えざる敵(四)
「俺も本部の連中も準備不足だと痛感していた。だから鈴木、おまえにもみんなにも今まで詳しい事情を話さなかったんだ。本気で汚職役人を洗ったら、きっと木条の黒い力で潰されるって思ったからな」
課長はやはり部下を護ろうとしていた。
「それでは何故、今になってお話し下さったのですか」
「順序立てて話す。まずは準備不足なのに鈴木出向に踏み切った点からな」
課長が腕組みをして、実情を明かした。
「脅されたんだ」
物騒な言葉が飛び出し、みんなが前のめりになった。
「誰に!?」
「本部への告発者。レポートの最後にな、三ヵ月以内に何らかのアクションを起こさない場合は、警察機構には自力での浄化作用が無いと見なして、同じ文章をマスコミ各社に送り付けると書いて有ったんだ」
「それは……」
(警察に喧嘩を売ってるみたい……ではなく、完全に売っておりますぞ)
「だから本部は交流という名目で、取り敢えず鈴木を送り込んだんだ。誰でもいいからとにかく一人、汚職役人を早急に挙げるよう命令されたよ」
「一人でいいんですか……?」
「警察はちゃんと仕事をしてますって、告発状を送った人物に対するアピールだ。あざといがな」
(アピール? では本気で木条の闇を取り払う気が無いのですか?)
凜々花が課長へ意見するよりも先に、
「とにかく一人って……、容易く検挙できるのは末端の役人だけでしょ!」
道庭が課長に食ってかかった。我慢できなくなった模様だ。
「それじゃ何の解決にもならない! 下っ端が捕まったことで身の危険を感じて、大物はきっと雲隠れしちゃいますよ!!」
「おい落ち着け」
「できません! 郷島先輩は納得してるんスか!?」
「そりゃ、俺だって……」
課長が肩を落とした。
「……本部はそれを狙ってたんだよ。下っ端とはいえ汚職役人を捕まえて告白者を黙らせる。そして木条から反撃されないように、幹部クラスの連中には手を出さない」
「そんな……そんなのって……」
テーブルの上に置かれた道庭の手が拳を作った。
「署長は? あの人も同じ考えなんスか?」
道庭も正義を尊ぶ刑事の心を持っていた。彼はどこかに光明を見い出したかった。
「……本部とのやり取りは俺がしている。署長には監査の話を伝えていない」
「どうして?」
「余計なことをされないようにだ。署長にも木条家の息が掛かっている」
「!?」
驚愕して、四人の部下達は数秒間呼吸が止まった。
何とか鈴木が平静さを保って質問した。
「失礼ですが、どうして課長が署長を差し置いて、本部と連携できているのでしょう?」
「親しい同期が本部に居るんだよ。キャリア組で、俺より先にどんどん出世しちまったがな。本部でおまえの上司だった獅子原警視正、あいつは俺の古いダチなんだ」
「えっ、そうだったんですか!?」
「うん。ずっと前から獅子原には木条のことを相談していてさ、その縁で今回俺に話が回ってきた」
「ずっと前から相談を……?」
言葉を拾った道庭へ、課長は柔らかい声音で語りかけた。
「道庭、おまえの悔しい気持ちはよく解るよ。俺もかつて通った道だ」
「?」
「もうちっと若い頃にさ、俺も木条について調べてたんだよ。大きな力に阻まれて、辿り着く前に頓挫しちまったがな」
「……まさかそれ、署長が邪魔をしたんスか……?」
苦々しく笑った課長を見て、道庭はそうなのだと悟った。
「署長があっち側だったなんて……」
その後すぐにハッとした顔になった。
「署長が木条と繋がっているなら、邪魔な俺達を何とかしようって考えるかも!!」
実際、署長は現場に他の刑事を投入しようとしている。課長が止めてくれているが。
「道庭、声を少し小さくしろ。署長が何かをしてくる可能性は承知している。だからこそおまえ達にも事情を知らせた。身辺に注意してもらいたかった」
「それでもヤバ過ぎでしょ! 俺らならともかく、早見先輩をこんな危険なヤマに巻き込むなんて!!」
道庭の気迫に押されて第二会議室がシン、と静まり返った。
(男子の怒鳴り声が怖いです~。で、でも……)
彼の切った啖呵に凜々花は感動していた。
(道庭氏の優しさに萌え~~♡)
凜々花は口元がだらしなく緩みそうになるのを必死に堪えた。
(普段の彼は先輩の私を舐めて仕事を投げてきやがりますが、いざとなったら女子を護れる強い男の子に変身♡♡♡ でも借りパクしている私のボールペンは返して下され~)
「そうですよね、危険ですよね」
鈴木が長い脚を組んで威圧感を出した。
「課長が早見さんを捜査メンバーに加えたこと、僕も納得していません」
(なななんと鈴木氏までも……! 私ったら優しく頼もしい騎士二人に護られる姫の気分ですぞ。グフフ。…………おや?)
二人のヘイトは課長に向かうと思われたのに、道庭と鈴木が睨み合ってバチバチ火花を散らしていた。
「俺のマネしないでもらえますか? 鈴木サン」
「真似ではなく、僕は純粋に早見さんを心配しているだけですが?」
(課長はあっち。どうしたのですかこの二人は)
鈍いオタク女には男心が解らなかった。
放置されたナイスミドルは呆れた表情で話の続きをした。
「……当初の予定では危険な目に遭わないはずだったんだよ。木っ端役人を逮捕して、それで終わりになるはずだった」
一時休戦して、鈴木と道庭も話に耳を傾けた。
「ところが、大事件が起きちまった。雪子と正貴、木条の本家筋の人間二人が立て続けに死亡した。……他殺でな」
課長はやはり部下を護ろうとしていた。
「それでは何故、今になってお話し下さったのですか」
「順序立てて話す。まずは準備不足なのに鈴木出向に踏み切った点からな」
課長が腕組みをして、実情を明かした。
「脅されたんだ」
物騒な言葉が飛び出し、みんなが前のめりになった。
「誰に!?」
「本部への告発者。レポートの最後にな、三ヵ月以内に何らかのアクションを起こさない場合は、警察機構には自力での浄化作用が無いと見なして、同じ文章をマスコミ各社に送り付けると書いて有ったんだ」
「それは……」
(警察に喧嘩を売ってるみたい……ではなく、完全に売っておりますぞ)
「だから本部は交流という名目で、取り敢えず鈴木を送り込んだんだ。誰でもいいからとにかく一人、汚職役人を早急に挙げるよう命令されたよ」
「一人でいいんですか……?」
「警察はちゃんと仕事をしてますって、告発状を送った人物に対するアピールだ。あざといがな」
(アピール? では本気で木条の闇を取り払う気が無いのですか?)
凜々花が課長へ意見するよりも先に、
「とにかく一人って……、容易く検挙できるのは末端の役人だけでしょ!」
道庭が課長に食ってかかった。我慢できなくなった模様だ。
「それじゃ何の解決にもならない! 下っ端が捕まったことで身の危険を感じて、大物はきっと雲隠れしちゃいますよ!!」
「おい落ち着け」
「できません! 郷島先輩は納得してるんスか!?」
「そりゃ、俺だって……」
課長が肩を落とした。
「……本部はそれを狙ってたんだよ。下っ端とはいえ汚職役人を捕まえて告白者を黙らせる。そして木条から反撃されないように、幹部クラスの連中には手を出さない」
「そんな……そんなのって……」
テーブルの上に置かれた道庭の手が拳を作った。
「署長は? あの人も同じ考えなんスか?」
道庭も正義を尊ぶ刑事の心を持っていた。彼はどこかに光明を見い出したかった。
「……本部とのやり取りは俺がしている。署長には監査の話を伝えていない」
「どうして?」
「余計なことをされないようにだ。署長にも木条家の息が掛かっている」
「!?」
驚愕して、四人の部下達は数秒間呼吸が止まった。
何とか鈴木が平静さを保って質問した。
「失礼ですが、どうして課長が署長を差し置いて、本部と連携できているのでしょう?」
「親しい同期が本部に居るんだよ。キャリア組で、俺より先にどんどん出世しちまったがな。本部でおまえの上司だった獅子原警視正、あいつは俺の古いダチなんだ」
「えっ、そうだったんですか!?」
「うん。ずっと前から獅子原には木条のことを相談していてさ、その縁で今回俺に話が回ってきた」
「ずっと前から相談を……?」
言葉を拾った道庭へ、課長は柔らかい声音で語りかけた。
「道庭、おまえの悔しい気持ちはよく解るよ。俺もかつて通った道だ」
「?」
「もうちっと若い頃にさ、俺も木条について調べてたんだよ。大きな力に阻まれて、辿り着く前に頓挫しちまったがな」
「……まさかそれ、署長が邪魔をしたんスか……?」
苦々しく笑った課長を見て、道庭はそうなのだと悟った。
「署長があっち側だったなんて……」
その後すぐにハッとした顔になった。
「署長が木条と繋がっているなら、邪魔な俺達を何とかしようって考えるかも!!」
実際、署長は現場に他の刑事を投入しようとしている。課長が止めてくれているが。
「道庭、声を少し小さくしろ。署長が何かをしてくる可能性は承知している。だからこそおまえ達にも事情を知らせた。身辺に注意してもらいたかった」
「それでもヤバ過ぎでしょ! 俺らならともかく、早見先輩をこんな危険なヤマに巻き込むなんて!!」
道庭の気迫に押されて第二会議室がシン、と静まり返った。
(男子の怒鳴り声が怖いです~。で、でも……)
彼の切った啖呵に凜々花は感動していた。
(道庭氏の優しさに萌え~~♡)
凜々花は口元がだらしなく緩みそうになるのを必死に堪えた。
(普段の彼は先輩の私を舐めて仕事を投げてきやがりますが、いざとなったら女子を護れる強い男の子に変身♡♡♡ でも借りパクしている私のボールペンは返して下され~)
「そうですよね、危険ですよね」
鈴木が長い脚を組んで威圧感を出した。
「課長が早見さんを捜査メンバーに加えたこと、僕も納得していません」
(なななんと鈴木氏までも……! 私ったら優しく頼もしい騎士二人に護られる姫の気分ですぞ。グフフ。…………おや?)
二人のヘイトは課長に向かうと思われたのに、道庭と鈴木が睨み合ってバチバチ火花を散らしていた。
「俺のマネしないでもらえますか? 鈴木サン」
「真似ではなく、僕は純粋に早見さんを心配しているだけですが?」
(課長はあっち。どうしたのですかこの二人は)
鈍いオタク女には男心が解らなかった。
放置されたナイスミドルは呆れた表情で話の続きをした。
「……当初の予定では危険な目に遭わないはずだったんだよ。木っ端役人を逮捕して、それで終わりになるはずだった」
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