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二音 友達ゴッコ(一)
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駅前のファミリーレストランに俺と蓮は居た。有名チェーン店だけあって賑わっていたが、夕食で来店した家族客がぽつぽつ帰り始める時間だった為、俺達は運良く待ち時間無しで席に着くことができた。人目に付きにくい壁際の席だったことも幸いした。ここなら蓮も落ち着けるだろう。
テーブルの上には冊子タイプのメニューと、カラーコピーをラミネート加工しただけの手作り感たっぷりのメニューの二通りが置いてあり、後者は期間限定商品の紹介だった。暑い季節に合わせた冷たいデザートが多い。提供期間は7月15日から9月15日までの二ヶ月間。おや、明日までじゃないか。
「相原さん、これ今しか食べられないみたいだよ。食べてみない?」
伏し目がちな蓮。甘い物には精神を安定させる効果が有るとか聞いたような気がする。気休め程度に勧めてみた。
「あたしこのマンゴーパフェにします」
しっかり選んできやがった。下を向いていたのはメニューに注視する為かよ。ま、でも食欲が出たなら大丈夫だろう。安心したら俺も腹が空いてきたな。ヒロの部屋では固形物をほとんど口にしなかったから。
「……大鳥さん、がっつり食べるんですか?」
俺が見ているセットメニューのページを蓮も覗き込んだ。
「うん、腹減っちゃってさ。ミックスグリル美味そうだな。それとドリンクバーにするか。あ、肉の匂いを嗅いだら気分悪くなりそう?」
沈んでいるであろう蓮へ俺なりの気遣いだった。
「平気です。あたしはシーフードドリアにしようっと」
おまえも食うんかい。しかもこってりチーズ系。精神に壊滅的ダメージを受けても、胃腸は常に臨戦態勢にあるらしい。おデブめ。
「………………」
「………………」
ベルで店員を呼び注文を済ませ、互いの飲み物を用意した後に会話が途絶えた。ヒロの部屋であんな目に遭ったし、そもそも話題がぽんぽん生まれる親しい仲でもないものな。
和やかに談笑し合うファミレス客の中で、暗いオーラを纏った俺達は異質な存在だっただろう。特に涙でマスカラが落ちて目の周りが黒く染まった蓮は、某魔界の住人のようだった。
「………………」
肥えたデーモン閣下はトイレへ化粧直しにも行かず、じっと俺の目を見据えていた。気まずさと蝋人形にされそうな恐怖に耐えられなくなった時、ついに蓮が口を開いた。
「何も聞かないんですね」
「……え?」
蓮はここで俺から目を逸らし、居心地悪そうに自身のロングストレートヘアーを数回、手の平で撫で付けた。
「あたし、藍理に意地悪しちゃった」
独り言のように呟いた後、蓮はいきなり姿勢を正し謝罪の言葉を述べた。
「大鳥さん、今日は私が悪かったんです。楽しく過ごす為にみんなで集まったのに、ぶち壊しにしてすみませんでした」
じっくり三秒、彼女は頭を下げていた。正直驚いた。騒がしいだけの娘かと思っていたが、ちゃんと礼節も持ち合わせていたらしい。少し見直した。
「相原さんだけのせいじゃないよ。俺だって全然、場を盛り上げることができなかったんだから」
「だけど、あたし……。本当に悪かったから。ごめんなさい」
「ね、今日は空気を読めなかったのはお互い様ってことで。もう謝らないでよ」
俺の対応に蓮は瞳を潤ませた。うっとりしているようにも見えた。気のせいだったらいいな。
「大人だなぁ、大鳥さんは」
「そりゃあ、まぁ。三十はとっくに過ぎているからね」
「やっぱり年上の男性って素敵ですね。あたしの周りの男のコとは全然違う」
絡みつくような視線が気持ち悪い。テーブルを挟んでいるぶん二人の距離は開いているはずなのに、蓮の吐息が俺の肌に直にかかってくるような錯覚が起きた。
「余計なこと、何も聞かないんですね」
先程と同じ質問をされた。となると、余計なこととは蓮と藍理のことか。
「あたし、藍理に意地悪しちゃった」
大切なことだから二度言いましたか。これはむしろ、二人について聞けと遠回しに誘っていますね。
嫌です。
藍理の反応は異常だった。彼女に迫る蓮の執拗さも。過去、二人の間に何かが有ったことは明白だ。それに興味が無い訳ではない。だがそれ以上に関わるのが面倒臭い。胸を張って言おう、大鳥哲朗と言う男は事なかれ主義なのです。
「大鳥さんと居るとホッとするなぁ。他の人には話せないことでも、大鳥さんになら何でも答えちゃいそう」
しつこいぞ丸ちゃん。
「大鳥さんだって本当は聞きたいこと、有るんじゃないですか?」
「いや、特に無いよ」
「……いいんですよ、遠慮しなくて。気になりますよね、目の前で喧嘩されたら」
「そうでもないよ」
「………………」
「………………」
「お待たせしました。ミックスグリルのお客様?」
よっしゃあ、料理が運ばれてきたぞ。
「俺です。シーフードドリアはそちらに」
「器が熱くなっておりますのでご注意ください。では、ごゆっくり」
淡い色合いの制服に身を包み、テキパキ動く店員さんのなんと爽やかなことか。粘っこい丸ちゃんとは大違いだ。
「さ、食べようか」
やれやれ助かった。これで蓮の関心事は、俺から白いカロリーの塊へ移るはずだった。
しかしである。
「……あたしと藍理って、どういう関係だと思います?」
まん丸め。どうしても話したいか。解ったよ、聞いてやる。ただし聞くだけな。何もしねぇぞ。
「どうって、小さい頃からの友達なんでしょ?」
幼馴染は大勢居ても、成人してからも付き合いが続いているのは稀有な存在だ。
「………………」
溜めるなよ。どうせ話すんだろう、勿体付けるな。
「小さい頃からの知り合い、ってのが正しいです。友達……じゃあないんです」
この答えはいささか意外だった。
テーブルの上には冊子タイプのメニューと、カラーコピーをラミネート加工しただけの手作り感たっぷりのメニューの二通りが置いてあり、後者は期間限定商品の紹介だった。暑い季節に合わせた冷たいデザートが多い。提供期間は7月15日から9月15日までの二ヶ月間。おや、明日までじゃないか。
「相原さん、これ今しか食べられないみたいだよ。食べてみない?」
伏し目がちな蓮。甘い物には精神を安定させる効果が有るとか聞いたような気がする。気休め程度に勧めてみた。
「あたしこのマンゴーパフェにします」
しっかり選んできやがった。下を向いていたのはメニューに注視する為かよ。ま、でも食欲が出たなら大丈夫だろう。安心したら俺も腹が空いてきたな。ヒロの部屋では固形物をほとんど口にしなかったから。
「……大鳥さん、がっつり食べるんですか?」
俺が見ているセットメニューのページを蓮も覗き込んだ。
「うん、腹減っちゃってさ。ミックスグリル美味そうだな。それとドリンクバーにするか。あ、肉の匂いを嗅いだら気分悪くなりそう?」
沈んでいるであろう蓮へ俺なりの気遣いだった。
「平気です。あたしはシーフードドリアにしようっと」
おまえも食うんかい。しかもこってりチーズ系。精神に壊滅的ダメージを受けても、胃腸は常に臨戦態勢にあるらしい。おデブめ。
「………………」
「………………」
ベルで店員を呼び注文を済ませ、互いの飲み物を用意した後に会話が途絶えた。ヒロの部屋であんな目に遭ったし、そもそも話題がぽんぽん生まれる親しい仲でもないものな。
和やかに談笑し合うファミレス客の中で、暗いオーラを纏った俺達は異質な存在だっただろう。特に涙でマスカラが落ちて目の周りが黒く染まった蓮は、某魔界の住人のようだった。
「………………」
肥えたデーモン閣下はトイレへ化粧直しにも行かず、じっと俺の目を見据えていた。気まずさと蝋人形にされそうな恐怖に耐えられなくなった時、ついに蓮が口を開いた。
「何も聞かないんですね」
「……え?」
蓮はここで俺から目を逸らし、居心地悪そうに自身のロングストレートヘアーを数回、手の平で撫で付けた。
「あたし、藍理に意地悪しちゃった」
独り言のように呟いた後、蓮はいきなり姿勢を正し謝罪の言葉を述べた。
「大鳥さん、今日は私が悪かったんです。楽しく過ごす為にみんなで集まったのに、ぶち壊しにしてすみませんでした」
じっくり三秒、彼女は頭を下げていた。正直驚いた。騒がしいだけの娘かと思っていたが、ちゃんと礼節も持ち合わせていたらしい。少し見直した。
「相原さんだけのせいじゃないよ。俺だって全然、場を盛り上げることができなかったんだから」
「だけど、あたし……。本当に悪かったから。ごめんなさい」
「ね、今日は空気を読めなかったのはお互い様ってことで。もう謝らないでよ」
俺の対応に蓮は瞳を潤ませた。うっとりしているようにも見えた。気のせいだったらいいな。
「大人だなぁ、大鳥さんは」
「そりゃあ、まぁ。三十はとっくに過ぎているからね」
「やっぱり年上の男性って素敵ですね。あたしの周りの男のコとは全然違う」
絡みつくような視線が気持ち悪い。テーブルを挟んでいるぶん二人の距離は開いているはずなのに、蓮の吐息が俺の肌に直にかかってくるような錯覚が起きた。
「余計なこと、何も聞かないんですね」
先程と同じ質問をされた。となると、余計なこととは蓮と藍理のことか。
「あたし、藍理に意地悪しちゃった」
大切なことだから二度言いましたか。これはむしろ、二人について聞けと遠回しに誘っていますね。
嫌です。
藍理の反応は異常だった。彼女に迫る蓮の執拗さも。過去、二人の間に何かが有ったことは明白だ。それに興味が無い訳ではない。だがそれ以上に関わるのが面倒臭い。胸を張って言おう、大鳥哲朗と言う男は事なかれ主義なのです。
「大鳥さんと居るとホッとするなぁ。他の人には話せないことでも、大鳥さんになら何でも答えちゃいそう」
しつこいぞ丸ちゃん。
「大鳥さんだって本当は聞きたいこと、有るんじゃないですか?」
「いや、特に無いよ」
「……いいんですよ、遠慮しなくて。気になりますよね、目の前で喧嘩されたら」
「そうでもないよ」
「………………」
「………………」
「お待たせしました。ミックスグリルのお客様?」
よっしゃあ、料理が運ばれてきたぞ。
「俺です。シーフードドリアはそちらに」
「器が熱くなっておりますのでご注意ください。では、ごゆっくり」
淡い色合いの制服に身を包み、テキパキ動く店員さんのなんと爽やかなことか。粘っこい丸ちゃんとは大違いだ。
「さ、食べようか」
やれやれ助かった。これで蓮の関心事は、俺から白いカロリーの塊へ移るはずだった。
しかしである。
「……あたしと藍理って、どういう関係だと思います?」
まん丸め。どうしても話したいか。解ったよ、聞いてやる。ただし聞くだけな。何もしねぇぞ。
「どうって、小さい頃からの友達なんでしょ?」
幼馴染は大勢居ても、成人してからも付き合いが続いているのは稀有な存在だ。
「………………」
溜めるなよ。どうせ話すんだろう、勿体付けるな。
「小さい頃からの知り合い、ってのが正しいです。友達……じゃあないんです」
この答えはいささか意外だった。
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