九音の鬼 ~それは禁じられた鬼ゴッコ~

水無月礼人

文字の大きさ
9 / 64

二音  友達ゴッコ(一)

しおりを挟む
 駅前のファミリーレストランに俺と蓮は居た。有名チェーン店だけあって賑わっていたが、夕食で来店した家族客がぽつぽつ帰り始める時間だった為、俺達は運良く待ち時間無しで席に着くことができた。人目に付きにくい壁際の席だったことも幸いした。ここなら蓮も落ち着けるだろう。
 テーブルの上には冊子タイプのメニューと、カラーコピーをラミネート加工しただけの手作り感たっぷりのメニューの二通りが置いてあり、後者は期間限定商品の紹介だった。暑い季節に合わせた冷たいデザートが多い。提供期間は7月15日から9月15日までの二ヶ月間。おや、明日までじゃないか。

「相原さん、これ今しか食べられないみたいだよ。食べてみない?」

 伏し目がちな蓮。甘い物には精神を安定させる効果が有るとか聞いたような気がする。気休め程度に勧めてみた。

「あたしこのマンゴーパフェにします」

 しっかり選んできやがった。下を向いていたのはメニューに注視する為かよ。ま、でも食欲が出たなら大丈夫だろう。安心したら俺も腹が空いてきたな。ヒロの部屋では固形物をほとんど口にしなかったから。

「……大鳥さん、がっつり食べるんですか?」

 俺が見ているセットメニューのページを蓮も覗き込んだ。

「うん、腹減っちゃってさ。ミックスグリル美味そうだな。それとドリンクバーにするか。あ、肉の匂いを嗅いだら気分悪くなりそう?」

 沈んでいるであろう蓮へ俺なりの気遣いだった。

「平気です。あたしはシーフードドリアにしようっと」

 おまえも食うんかい。しかもこってりチーズ系。精神に壊滅的ダメージを受けても、胃腸は常に臨戦態勢にあるらしい。おデブめ。

「………………」
「………………」

 ベルで店員を呼び注文を済ませ、互いの飲み物を用意した後に会話が途絶えた。ヒロの部屋であんな目に遭ったし、そもそも話題がぽんぽん生まれる親しい仲でもないものな。
 和やかに談笑し合うファミレス客の中で、暗いオーラをまとった俺達は異質な存在だっただろう。特に涙でマスカラが落ちて目の周りが黒く染まった蓮は、某魔界の住人のようだった。

「………………」

 肥えたデーモン閣下はトイレへ化粧直しにも行かず、じっと俺の目を見据えていた。気まずさと蝋人形にされそうな恐怖に耐えられなくなった時、ついに蓮が口を開いた。

「何も聞かないんですね」
「……え?」

 蓮はここで俺から目をらし、居心地悪そうに自身のロングストレートヘアーを数回、手の平で撫で付けた。

「あたし、藍理に意地悪しちゃった」

 独り言のように呟いた後、蓮はいきなり姿勢を正し謝罪の言葉を述べた。

「大鳥さん、今日は私が悪かったんです。楽しく過ごす為にみんなで集まったのに、ぶち壊しにしてすみませんでした」

 じっくり三秒、彼女は頭を下げていた。正直驚いた。騒がしいだけの娘かと思っていたが、ちゃんと礼節も持ち合わせていたらしい。少し見直した。

「相原さんだけのせいじゃないよ。俺だって全然、場を盛り上げることができなかったんだから」
「だけど、あたし……。本当に悪かったから。ごめんなさい」
「ね、今日は空気を読めなかったのはお互い様ってことで。もう謝らないでよ」

 俺の対応に蓮は瞳を潤ませた。うっとりしているようにも見えた。気のせいだったらいいな。

「大人だなぁ、大鳥さんは」
「そりゃあ、まぁ。三十はとっくに過ぎているからね」
「やっぱり年上の男性って素敵ですね。あたしの周りの男のコとは全然違う」

 絡みつくような視線が気持ち悪い。テーブルを挟んでいるぶん二人の距離は開いているはずなのに、蓮の吐息が俺の肌に直にかかってくるような錯覚が起きた。

「余計なこと、何も聞かないんですね」

 先程と同じ質問をされた。となると、余計なこととは蓮と藍理のことか。

「あたし、藍理に意地悪しちゃった」

 大切なことだから二度言いましたか。これはむしろ、二人について聞けと遠回しに誘っていますね。
 嫌です。
 藍理の反応は異常だった。彼女に迫る蓮の執拗さも。過去、二人の間に何かが有ったことは明白だ。それに興味が無い訳ではない。だがそれ以上に関わるのが面倒臭い。胸を張って言おう、大鳥哲朗と言う男はことなかれ主義なのです。

「大鳥さんと居るとホッとするなぁ。他の人には話せないことでも、大鳥さんになら何でも答えちゃいそう」

 しつこいぞ丸ちゃん。

「大鳥さんだって本当は聞きたいこと、有るんじゃないですか?」
「いや、特に無いよ」
「……いいんですよ、遠慮しなくて。気になりますよね、目の前で喧嘩されたら」
「そうでもないよ」
「………………」
「………………」
「お待たせしました。ミックスグリルのお客様?」

 よっしゃあ、料理が運ばれてきたぞ。

「俺です。シーフードドリアはそちらに」
「器が熱くなっておりますのでご注意ください。では、ごゆっくり」

 淡い色合いの制服に身を包み、テキパキ動く店員さんのなんと爽やかなことか。粘っこい丸ちゃんとは大違いだ。

「さ、食べようか」

 やれやれ助かった。これで蓮の関心事は、俺から白いカロリーの塊へ移るはずだった。
 しかしである。

「……あたしと藍理って、どういう関係だと思います?」

 まん丸め。どうしても話したいか。解ったよ、聞いてやる。ただし聞くだけな。何もしねぇぞ。

「どうって、小さい頃からのなんでしょ?」

 幼馴染は大勢居ても、成人してからも付き合いが続いているのは稀有な存在だ。

「………………」

 溜めるなよ。どうせ話すんだろう、勿体付けるな。

「小さい頃からの、ってのが正しいです。友達……じゃあないんです」

 この答えはいささか意外だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

処理中です...