九音の鬼 ~それは禁じられた鬼ゴッコ~

水無月礼人

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二音  友達ゴッコ(二)

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「すっごい昔は友達でしたよ? それこそ保育園時代ですけど、お互いの実家が割と近くて……。ホラ、小さい時って行動範囲が狭いから、近所の子供同士で遊ぶしかないっていうか、近所の子とは仲良くしなくちゃいけない流れになるっていうか……」

 自分の幼少時のことを思い出してみると、確かに。

「でもそれは、あくまでも臨時の友達なんです。小学校に上がって自我が強くなると、今度は本当に気の合う者同士で親しくするんです。藍理はクラスのリーダー的なグループに入って、あたしは地味なコ達と固まってました」

 地味……。目の前の肥満女デーモンが?

「あ、あたし今はギャル風ですけど、昔はおとなしい子供だったんですよ!?」

 俺の視線の意味に気づいたのか。やるな。

「だからまぁ、派手目な藍理とはイマイチ合わなくて」
「それなのに今も付き合いを続けているの?」
「母親同士の仲がいいんですよ」

 蓮は大きな溜め息を吐いた。

「誕生会とか夏祭りとか、他のコと遊ぼうとすると親がうるさいんです。藍理ちゃんも誘いなさいって。もうそれぞれ別に友達ができたって説明しても無駄。親と同じく、子供同士も仲良くするべきだって考えの人だから。藍理のお母さんもそんな感じ」

 困った親だな。自分達の交友関係を子供世代にまで持ち越すなよ。

「だから親に注意されない程度に、藍理とは遊んでいました。さすがに高校で学校が別れてからは会わなくなりましたけど。それでも、親や共通の知り合いを通じて藍理の情報は入ってきました」
「なんだ、男を世話されるくらいだから、よっぽど仲が良いんだと思っていたよ」

 あっ、「男を世話」だなんて露骨な表現を使ってしまった。仮にも女性相手にこれは無い。

「ごめん、失言。嫌な言い方だった」
「あはは、いいんですよ。はっきり言って、今日はモロにそういう設定の飲み会でしたもん」

 蓮は明るく笑い飛ばしてくれた。料理にも手を付け始めた。

「藍理と再会したの、ほんの二ヶ月前なんですよ。母が番号教えたみたいで、急に電話かかってきて久し振りにゴハン行かないかって。上京してこっちに地元の友達居なくて寂しかったから、まーいいかなって、あたし軽く考えてOKしたんです」

 一度笑って心のしこりが取れたのか、蓮は饒舌になった。スプーンも軽やかに動いた。

「それで三回、藍理と遊びに行ったんですけどね、あのコ、その全部にヒロくん同伴で来たんですよ。有り得なくないですか? しかも上から目線で、あんたも彼氏くらい作らなきゃ駄目とか説教してくるし」
「あー、俺もヒロに説教されたわー。三十過ぎて恋人居ないのってヤバイですよって。今日はお互い、無理に連れてこられたみたいだね」
「大鳥さんもそうだったんですかー。まいっちゃいますねー」

 俺はちょっと期待して来たんだけれどな。三十代の内に結婚して、できれば子供を授かりたいという夢が有るし。
 だけれど自分の好みとは真逆なタイプの女性を前にして、ポッキリ心が折れてしまいました。

「今日はお互いに災難だったね」

 俺は心からそう言った。

「え~、でも、あたしぃ、大鳥さんと知り合えたのはラッキーだったかなぁって」

 空気読めよブヒモス。上目遣いでパチパチまばたきするな。うんざりしながら話題を本筋に戻した。

「園部さんに意地悪ってどういうこと?」
「あ……」

 蓮はスプーンを置き、再び真面目な表情に戻した。

「ヒロくんの部屋でした話……、九音の鬼のことです」
「ああ、うん。園部さん異様に嫌がっていたね」
「そうなんです。藍理はあの話がすごく嫌いなんです。それを知っててあたし、わざと話したんです」

 なるほど。相手が嫌がることを解ってやったのなら、それは意地悪に違いない。

「だけれどさ、九音の鬼ってそんなに怖い話かな? イジメが絡む陰湿さには確かにゾッとしたけれど、幽霊が出てくる訳じゃないし。園部さんって怖い話に強そうだったのに、あの程度でおびえるなんて意外だったよ」
「イジメの当事者にとっては、アレは充分に怖い話なんですよ」
「え?」
「藍理は小学校時代、九音の鬼を使って、同級生の子に酷いイジメをしているんです」
「!……」

 俺は息を呑んだ。イジメ……。あの気配りができる上品な女性が過去にイジメを?

「見た目そういうイメージじゃないでしょ? 親切そうに振る舞っているから。そーゆー裏表が有るところも嫌い。……あ」

 口にしてから蓮はしまったという顔をした。しかしすぐに開き直った。

「いいやもう、ぶっちゃけます。あたし藍理が嫌いなんです。これから言うことは、ズバリあのコの悪口です。でも全部本当のことですから!」

 鼻息荒く宣言された。迫力に押され俺はたじろいた。

「で、でも、イジメといっても、鬼ゴッコで嫌いな子をわざと鬼にしたり、その程度のことでしょ?」

 藍理を擁護するような発言をしてしまった俺に、蓮は侮蔑ぶべつの視線で応じた。

「男の人って本当、美人に弱いんだから。言っておきますけど藍理のあの顔、全部整形ですからね」
「ふえっ!?」

 驚いて喉から変な音が出た。

「藍理は小さい頃からずっとオシャレだったけど、顔立ちは平凡なんです。髪型や喋り方で可愛く見せる、いわゆる雰囲気美人ってやつ。それがこの前再会したら、顔の造り自体がキレイに変わっててもうビックリ」

 マジか。

「成長して顔が変わる人ってけっこう居るよ、それじゃないの? あとは……メイクの腕が上がったとか」
「無い無い無い無い」

 蓮は大袈裟に手を顔の前で振るジェスチャーで否定した。

「成人式にチョロっと見かけた時は前の顔でしたもん。それにね、メイクしない男の人には判らないかもだけど、女はメイクで誤魔化せるのはここまで、ここから先はメイクじゃ無理って判るんですよ」

 そういうものなのか。

「あたし、別に整形が悪いって言ってるんじゃないんです。あたしだって自分の顔にコンプレックス有るし」

 肉に埋もれていて顔立ちがよく判らない。

「キレイになって嬉しくなるのは当然です。自慢に思うのも。だけどそれで他のコを見下すのはどうかと思うんです」
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