【本編完結】水曜日の迷いごと

咲月千日月

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垂れ込める暗雲に幕電光る 第九日目 - ②

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「俺もそう思うんだけどさ、一応な」
「…うん。教えてくれて、ありがとう」

 穏やかな言い方で同意を示してくれた芹沢のおかげで、千紘は少し冷静さを取り戻し礼を言った。

 そんな千紘に、芹沢は心配そうな顔をして聞いた。

「舛森…大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 芹沢に顔をのぞき込まれた。千紘の様子がおかしいことに気づいたのだろう。

「大丈夫だよ。心配性だなぁ…」
「いや、それは松島の専売特許だろ」
「はははっ!」

  半分お愛想のように笑った千紘に、真面目な顔で芹沢は言った。

「マジで、顔面蒼白だぞ」
「…大丈夫だって。心配しなくても大丈夫。本当に」
 
 芹沢の本気に応えて、千紘も誠心誠意心配いらないと伝えた。
 
 それでも千紘が心配な芹沢は、疑問を投げかけてきた。

「働き過ぎなんじゃないのか? 土曜日、行ったんだろ。どうだったんだ? ちゃんと終わったのか?」
「うん。早めに終わったよ。安達さんにはケーキをご馳走になって、一之瀬先生には夕飯を安達さんと一緒に奢ってもらった」
「なんだよ、ソレ。至れり尽くせりじゃん。俺も行けばよかった」
「ははっ…! そうだな」
「センセ、土曜にいたんだ…」

 そこで芹沢は一呼吸置き、思案気な表情になって千紘に聞いた。

「なぁ…もしかして、何か一之瀬と、あった?」

 ホントに、芹沢は鋭すぎる。

「いやっ……、なんも、ない。なんでそんなこと聞くの?」
「なんか、気になって。さっきも気にしてたっぽいし…。ないなら、いいんだけどさ」
「うん…! ない、ない!」
「そっか?」 
「うん!」

(誤魔化せたかな?)

「…土曜の一之瀬の様子に、変なところはなかったんだろ?」
「うん。全然。お酒飲んでなんか、上機嫌っぽかった」

 その後起こったことまでは、記憶に強制的にフタをしてあえて思い出さないようにした。顔が赤くなりそうだったし、受け答えが怪しくなりそうだったからだ。

「そうなんかー。じゃあ、舛森はおじゃま虫だったんじゃね?」
「えっ…」
「あの二人、結婚話が出てるらしいじゃん」

 今度こそ本当に、千紘の顔面は蒼白になった。

「……そう…な、の…?」

 頭が回らず、聞き返すのが精一杯だった。

「うん。中西さんが言ってた。安達さん、安達教授の孫だろ? それは聞いた?」
「うん…」
「最初はさ、倒産法の教授の話、重村先生のところに行ったんだって。有名だから。でも忙しいからって断ってたら、代わりに一之瀬に白羽の矢が立って…安達教授が特に気に入って、ウチに引っ張って来たんだって。それで孫を重村先生に頼んで入所させて、一之瀬とくっつけようとしたらしい」
「そう…だった、んだ…」
「うん。二人は、重村先生も公認の仲みたいだ」
「………」

 女生徒の事を聞いた時と違い、何も千紘は言えなくなってしまった。
 それが本当なら、自分はどうしたらいいのだろう?

「でも、進展なさそうなんだよなー。そう中西さん、言ってたな」
「えっ…?」

 少し希望が湧いて、心が動く。

「どうも付き合ってるような感じがないみたいなんだよ。まあ、もしかしたら、大人だから、隠して裏では…っていうこともあるかもだけど」
「うん…そうかも、しれないね」
「今回の噂も二人が付き合ってたら、大変なことになりそうだよな。安達教授も黙ってなさそう」
「うん…」
「舛森、ホントに大丈夫か? 心ここにあらず、になってるぞ」

 救いあげられてすぐに手を離されたような気がした。
 今付き合っていなくても、結婚話が出ているなら、将来はわからない。

「大丈夫。…授業のこと、考えてた。…何か噂の新しい情報あったら、教えて」
「わかった。気になるもんな、どうなるか」
「うん」
「じゃあな」

 芹沢はこれでもかというほど、千紘の心に爆弾を投下して去っていった。決して、彼のせいではないのだけれど。

 噂は嘘だろう。こちらは大丈夫だと思う。多分、辞めることはないだろう。
  
 問題は、あとの一つ。

 安達の心は明白だった。一之瀬はどうだろう?
 自分は男だ。子供も産めない。社会的にも認められない。今一緒にいられることは奇跡だ。
 もし安達が、自分の想いを一之瀬に告げたら?
 男と女、その方が自然だ。
 それに、安達教授と重村先生の手前もあるんじゃないだろうか。
 
(もしかして、俺、水樹さんの足手まといになってるんじゃ…)

 一之瀬と自分との差をどうしても考える。客観的にみても世間一般的にみても天国と地獄だ。
 本当の苦しさは、想いを遂げたあとに待ってるなんて、なんて神様は意地悪なんだ。
 始まる前に、教えておいて欲しかった。そうしたら、こんなに好きになってしまったあとに悩まくてもいいのに。
 ああそれでも、もしかしたら…それでもこの想いは、止められなかったかもしれないけれど。
 
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